覗きと対話
大変遅くなりました。
式神が宙へと固定され、視線が集まる。
幻理さんが眼前へと動かし、静かに語る。
「陰陽寮。古くは陰陽道を勉め、国の安定を求めた。
今じゃ、民間まで没落した……まぁ、落ちぶれても”覗き”に関しては
立派なもんさ。これが飛んでいたってことは、誰かが”私らを探させている”。」
探させている?誰かが……。
少し考えればわかることだ――魔災庁。今、魔法使いを探しているのは
此処しかいないはず。
「で?聞いているんだろう?せめて顔くらい出したらどうなんだい。」
幻理さんが何もない空間へ、問いかけるように呟く。
――いや、はっきりと式神の方を向いて。
式神の文様が、呼吸するように脈打つ。
顔などないはずなのにこちらを”視て”いる。式神越しの誰かがこちらを。
『あー、聞こえてますかね?幻影の魔術師殿。』
少しノイズが走った様な音質の声が式神から聞こえる。
「へぇ、随分と懐かしい名だねぇ。記録でも引っ張り出してきたのかい?
それと、名乗りもしないのは失礼だと思わんかね。」
『私は、術師補佐の者です。失礼を承知で伺いますが、幻術を解いてやってくれな
いでしょうか?そろそろ術師が吐きそうなので。』
幻理さんが鼻で笑い、式神を睨むように見つめる。
「覗きに来たのはそっちだろうに。――授業料は、胃の中身でいいさ。」
『では、術師補佐三善です。術師に代わり、わたしが代行いたします。』
幻理さんが、一息つき式神との対話を続ける。
「そちらが知りたいのは、大方こちらの戦力だろう?教えてやらんこともないが、
――まず、君たちの雇い主は、どんな結末を望んでいるのかい?」
式神から聞こえる音は、僅かな呼吸音だけだった。
『……上のものに、聞いて――』
「いや、大体予想はつくさ。こちらを負かすか相打ちにでも持って行って管理下に
置きたいんだろうよ。それで、民衆への好感度も上がって戦力もたんまりだ。」
『……えぇ、そうですね。白金をすべて投入すれば互角に戦えると。
そう結論付けたようです。我々としては、想定が甘すぎると、
言わざるを得ませんがこれも仕事なので。』
「魔法使い……いや、私たちは、戦争を望んじゃいない。なぜかわかるかい?」
式神の文様が思案するように、脈打つ。
微かに聞こえる術師の嗚咽と共に、小さく息が吐かれる。
『……民を、国を守るため、でしょうか。あなた方魔法使いは魔物を狩る側だと。
そう伝え聞いております。』
「模範的な回答だな。――実に国の狗らしい回答だ。
……あぁ、君を貶す意図は無いぞ。言葉を借りなかった君の回答が聞きたかっただけだ。」
時雨さんが割り込むように口を開く。
幻理さんがため息をつきながら続ける。
「十年後。百年後。千年後。
私たちは立っているだろうよ。」
『……』
「十年前を君らは”昔”と言うだろうよ。
十年前は私らにとっては”最近”さ。――ただ、それだけの事さ。」
「さぁ、”最近”のうちに、いろいろと話し合おうじゃないか。」




