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原石の軌跡――新しき力と古の知恵  作者: 永火
第1章 始まりの終わり
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報告

3本目の投稿

まだ前の話を見ていない方はそちらから

遠くから魔力を噴出させる音が響く

救難を受け取った先輩たちのだれかであろう。


数拍置き強魔級が消滅したあたりに着弾する。


「げんちゃーく!」


あぁ――あの声。

私たちの教官役だった、黄金等級の先輩。


「詩織~優奈(ゆうな)~、生きてるか~」


砂塵の中から、のんびりとした声が近づく。

緩い調子のまま、手に持つ剣には紫電がまとわりついている。

その姿が、戦場の現実感を取り戻させた。


澄玲(すみれ)先輩、ここです!」

へたり込んでいるが声を上げ先輩を呼ぶ。


「よかった……強魔級が出たって聞いたけど、何処?」


「えっと……もう討伐されました……」


「へ?誰に?」

剣をしまいながら首をかしげる先輩


「魔法を使う男の人に……」


「あー、魔法使いさんか~」

魔法使い。

聞き慣れない響き。

いや、御伽噺の中では知っている。


「私たちよりもずっと強いけど、いつも傍観者なんだよね」

「なんで今回は手を出したんだろう?」


そんな存在、教本や訓練では出てこなかった。


「ん~?あ、聞いたことなかったか」

手を打って、納得したように笑顔を見せる。


「上の人たちは否定してるもんね~

……現場じゃ”幻の魔法使い”とか、“理の亡霊”なんて呼ばれてるね。」


「まぁ、よくわからないけど――強い人たちだよ」


「あ!優奈はどうしたの?」

「どこかに埋もれちゃった!?」


先輩が捲し立てるように言葉を紡ぐ。

その勢いに、かろうじて息を継ぎながら答える。


「その……優奈はあそこで……」

崩れ、融けた瓦礫の山を指す。


「あ……」

一瞬だけ表情が凍る。けれど、すぐに笑う。

「まぁ、無理だよね――強魔級だもん。」

一拍置いて、柔らかく笑う。

「……現場、焼け野原だもん。生き残ったあんたがすごいよ、詩織。」


今更になって指先が震える。

悲しいのに、涙が出ない。

魔力も気力も無くなって、泣く力さえも残っていなかった。


「じゃぁ、私は現状報告と――魔法使いさんの件、報告に行ってくるから。」

澄玲先輩は軽く手を振り、再び雷光を纏って飛び立った。

その背に残る火花が、かすかに空を焦がした。


*************************************


広い会議室。

長机の上に資料が散らばり、数人のスーツ姿の大人が座っている。


「忌々しい、また()()()()()が出たようだ。」


「まったくだ、詩人は詩人らしく詩でも詠っていればいいものを。」


「だが、被害が抑えられているのも事実。」


「所詮は銅級だろう、大した被害でもない」


沈黙。


壁際のスクリーンには、焼け焦げた街と魔法使いが映し出されている。

その映像を見ながら、一人の老人が呟いた。


「理の探究者……か。まだ、生きていたとはな。」


*************************************


「お久しぶりです。」

都内にある古い図書館――その奥、古い本の匂いが立ち込める部屋に、俺は訪れていた。


見渡す限りの本の山。

その中心、わずかな隙間を残した机に、目的の人物が寝ている。


還暦を迎えたばかりの様な女性。

白髪が混じる長髪を無造作に束ね、くたびれた白衣を羽織っている。

美しさは失われていない――が、どこか現実から半歩だけ離れたような存在感を放っていた。


俺が研究を手伝っている”(げん)”の位を持つ幻影の魔法使い。

古参の魔法使いでもあり、汎用魔法術式の第一人者。


近くにある本を手に取り、頭を目掛け振り下ろす。


衝撃は来ない。

積層型の防御術式が展開され、光を薄く纏っている。


「まったく……年寄りを起こすときくらい優しくしたらどうだい。」


「魔法術式を使わないだけ、十分優しいつもりです。」


「それもそうか」

苦笑しながら立ち上がると、白衣の裾を軽く払った。

長い眠りから覚めた獣のように、目だけが鋭く光を宿している。


「それで――何があった?」


視線が、まるで理屈より先に真実を探るように貫いてくる。


「強魔級との戦闘がありました」


「強魔級? ……今さら、あんたが苦戦する相手でもないだろう?」


頭を振る。

「ここ最近、発生頻度が異常です。それに――直近で対処したのは“人型”でした。」


沈黙。

部屋の空気がわずかに震える。

魔力の流れが、彼女の内側で再起動する音が聞こえた気がした。


「人型……ね。」

「確かに、他の連中も似た報告をしている。厄災級の封印が――綻び始めているのかもしれない。」


少し間を置き、女性は呟く。


「理へ帰すための“封印”が、どこかで歪んでいる。」


彼女は窓の外――曇り空を見上げる。


「……さて、時雨。」


「あんたは今回、何を“見た”?」

言葉の響きが重く沈む。

それは問いというより、審判のように聞こえた。


時雨はわずかに目を伏せ、口を開く。


「それについては――“集会”でお話ししたく思います。」

「場所は、師より譲り受けた山頂にて。」


女性の唇がかすかに笑みを形づくる。

「山か……あの人も、よくそこを好んだね。」


「ええ。理を測るには、俗世は少々うるさいので。」


「まったく、魔法使いはどいつもこいつも風雅(ふうが)ぶる。」

そう言いながらも、声の奥には微かな期待があった。


積み上がった本の隙間から、ひとすじの光が差し込む。

それはまるで、長く閉ざされた理の頁を再び開く合図のようだった。

古臭い詩人

魔法少女を統べる組織の上層部が、魔法使いを指すときに使う別称。

古くから存在する「ことわり」の研究者たちへの皮肉を込めた呼び方。


げん

魔法使いの間で使われる位。

力の強さではなく、「理をどれだけ理解しているか」で定まる。

同じ“玄”でもその深度は人によって異なる。


積層型防御術式

改良された汎用術式のひとつ。

複数の防壁を重ねることで、魔力干渉や衝撃波に対しても高い耐性を持つ。

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