報告
3本目の投稿
まだ前の話を見ていない方はそちらから
遠くから魔力を噴出させる音が響く
救難を受け取った先輩たちのだれかであろう。
数拍置き強魔級が消滅したあたりに着弾する。
「げんちゃーく!」
あぁ――あの声。
私たちの教官役だった、黄金等級の先輩。
「詩織~優奈~、生きてるか~」
砂塵の中から、のんびりとした声が近づく。
緩い調子のまま、手に持つ剣には紫電がまとわりついている。
その姿が、戦場の現実感を取り戻させた。
「澄玲先輩、ここです!」
へたり込んでいるが声を上げ先輩を呼ぶ。
「よかった……強魔級が出たって聞いたけど、何処?」
「えっと……もう討伐されました……」
「へ?誰に?」
剣をしまいながら首をかしげる先輩
「魔法を使う男の人に……」
「あー、魔法使いさんか~」
魔法使い。
聞き慣れない響き。
いや、御伽噺の中では知っている。
「私たちよりもずっと強いけど、いつも傍観者なんだよね」
「なんで今回は手を出したんだろう?」
そんな存在、教本や訓練では出てこなかった。
「ん~?あ、聞いたことなかったか」
手を打って、納得したように笑顔を見せる。
「上の人たちは否定してるもんね~
……現場じゃ”幻の魔法使い”とか、“理の亡霊”なんて呼ばれてるね。」
「まぁ、よくわからないけど――強い人たちだよ」
「あ!優奈はどうしたの?」
「どこかに埋もれちゃった!?」
先輩が捲し立てるように言葉を紡ぐ。
その勢いに、かろうじて息を継ぎながら答える。
「その……優奈はあそこで……」
崩れ、融けた瓦礫の山を指す。
「あ……」
一瞬だけ表情が凍る。けれど、すぐに笑う。
「まぁ、無理だよね――強魔級だもん。」
一拍置いて、柔らかく笑う。
「……現場、焼け野原だもん。生き残ったあんたがすごいよ、詩織。」
今更になって指先が震える。
悲しいのに、涙が出ない。
魔力も気力も無くなって、泣く力さえも残っていなかった。
「じゃぁ、私は現状報告と――魔法使いさんの件、報告に行ってくるから。」
澄玲先輩は軽く手を振り、再び雷光を纏って飛び立った。
その背に残る火花が、かすかに空を焦がした。
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広い会議室。
長机の上に資料が散らばり、数人のスーツ姿の大人が座っている。
「忌々しい、また古臭い詩人が出たようだ。」
「まったくだ、詩人は詩人らしく詩でも詠っていればいいものを。」
「だが、被害が抑えられているのも事実。」
「所詮は銅級だろう、大した被害でもない」
沈黙。
壁際のスクリーンには、焼け焦げた街と魔法使いが映し出されている。
その映像を見ながら、一人の老人が呟いた。
「理の探究者……か。まだ、生きていたとはな。」
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「お久しぶりです。」
都内にある古い図書館――その奥、古い本の匂いが立ち込める部屋に、俺は訪れていた。
見渡す限りの本の山。
その中心、わずかな隙間を残した机に、目的の人物が寝ている。
還暦を迎えたばかりの様な女性。
白髪が混じる長髪を無造作に束ね、くたびれた白衣を羽織っている。
美しさは失われていない――が、どこか現実から半歩だけ離れたような存在感を放っていた。
俺が研究を手伝っている”玄”の位を持つ幻影の魔法使い。
古参の魔法使いでもあり、汎用魔法術式の第一人者。
近くにある本を手に取り、頭を目掛け振り下ろす。
衝撃は来ない。
積層型の防御術式が展開され、光を薄く纏っている。
「まったく……年寄りを起こすときくらい優しくしたらどうだい。」
「魔法術式を使わないだけ、十分優しいつもりです。」
「それもそうか」
苦笑しながら立ち上がると、白衣の裾を軽く払った。
長い眠りから覚めた獣のように、目だけが鋭く光を宿している。
「それで――何があった?」
視線が、まるで理屈より先に真実を探るように貫いてくる。
「強魔級との戦闘がありました」
「強魔級? ……今さら、あんたが苦戦する相手でもないだろう?」
頭を振る。
「ここ最近、発生頻度が異常です。それに――直近で対処したのは“人型”でした。」
沈黙。
部屋の空気がわずかに震える。
魔力の流れが、彼女の内側で再起動する音が聞こえた気がした。
「人型……ね。」
「確かに、他の連中も似た報告をしている。厄災級の封印が――綻び始めているのかもしれない。」
少し間を置き、女性は呟く。
「理へ帰すための“封印”が、どこかで歪んでいる。」
彼女は窓の外――曇り空を見上げる。
「……さて、時雨。」
「あんたは今回、何を“見た”?」
言葉の響きが重く沈む。
それは問いというより、審判のように聞こえた。
時雨はわずかに目を伏せ、口を開く。
「それについては――“集会”でお話ししたく思います。」
「場所は、師より譲り受けた山頂にて。」
女性の唇がかすかに笑みを形づくる。
「山か……あの人も、よくそこを好んだね。」
「ええ。理を測るには、俗世は少々うるさいので。」
「まったく、魔法使いはどいつもこいつも風雅ぶる。」
そう言いながらも、声の奥には微かな期待があった。
積み上がった本の隙間から、ひとすじの光が差し込む。
それはまるで、長く閉ざされた理の頁を再び開く合図のようだった。
古臭い詩人
魔法少女を統べる組織の上層部が、魔法使いを指すときに使う別称。
古くから存在する「理」の研究者たちへの皮肉を込めた呼び方。
玄
魔法使いの間で使われる位。
力の強さではなく、「理をどれだけ理解しているか」で定まる。
同じ“玄”でもその深度は人によって異なる。
積層型防御術式
改良された汎用術式のひとつ。
複数の防壁を重ねることで、魔力干渉や衝撃波に対しても高い耐性を持つ。




