正義とは
澄玲先輩の死から、数時間。
ホテルの一室にて、ただただベットの上で虚しく天井を見つめていた。
思考は、頭が拒絶する。
思い出すことすら、胸の奥が痛く軋む。
携帯端末の着信音が、乾いた空気を震わせる。
画面には《結城 時雨》の文字。
――もう、回っているのだろう。
澄玲先輩が死んだことも。
それが“魔法使いによる殺害”として処理されつつあることも。
「はい、詩織です。」
『あっはははは!派手にやったねぇ!』
耳が痛くなるような大声。
時雨さんではなく、幻理さんの声だ。
「……笑いごとですか、それ。」
『んん?ああ、ごめんね。
でもねぇ、黄金等級だろう?生き残って逃げれているだけで充分さ。」
返答は、軽かった。
「……先輩は――死にました。」
声が、自分のものじゃないみたいだった。
感情が追い付かない。言葉だけが、床へと落ちていく。
『先輩?あぁ、あの剣の小娘か。
それは残念だ。』
『幻理、あまり虐めてくれるな。
まだ気持ちの整理も出来ていないだろうに。』
声が、ひどく落ち着いている。
冗談も、軽口でもない。
『詩織、お前が魔法少女を殺したのか、殺してないのか。
それはたいして重要じゃない。』
重要じゃない?
「……ふざけないでください。先輩の死が重要じゃないですか?
先輩は、誰よりも皆を守ろうと――」
『だが世間には、黄金等級の殉職としか報道されていない。
どんな死に方をしたかは伝えられているが、それだけだ。』
時雨さんの事務的な報告が冷たく響く。
『それに、いまの魔災庁は上から下まで蜂の巣をつついたような状態だよ。』
幻理さんの軽い口調が聞こえる。
まるで内部情報を知っているかのような口ぶりだ。
『“未登録魔法反応”“市街地壊滅”“黄金等級死亡”
はい三点セット、完成。
詩織、今きみは絵に描いたようなテロリストだね。』
「わたしが……私が殺したわけじゃ。
そもそも、殺したいなんて……思ってもいない。」
『だろうな。少なくとも殺したい奴の殺し方じゃなかった。
だが世間はどうだ?――魔法使いが、魔法少女を殺した。
それがすべてで、正義となる。甘い甘い猛毒の完成だ。』
時雨さんが嘲笑うように語る。それは私に向けられてと言うよりも、
世間に対して言っている様だった。
「正義って――正義って何なんですか。守りたいものは同じだったのに!
なんで争うんですか、なんで、守護する人達で争わなければいけないんですか!」
『守りたい。それは悪ではない、だが方法によっては悪となる。
魔法少女と魔法使い、守りたいものも守る方法も違う。』
『世界の敵になるなんてことは長く生きてりゃ、経験もするさ。
今回はちと早かったがね。これも情報の伝達が早くなった弊害かねぇ。』
『ここまで来たんだ、どうせなら世界でもひっくり返すかい?
ふざけたことを抜かした魔災庁の連中に一泡吹かせるかい?』
その言葉は、ノイズのように通話越しに響き渡る。




