先に生きていた人 その2
障壁の展開が間に合うが、一振りで数枚の”花弁”が消し飛ばされる。
とっさに張ったとはいえ、5枚分の魔力を注いだ。それでも、ほとんどを消費してしまった。
「へぇ、その花ってシールドなんだ。見たことないけど、……これも魔法使いの魔法なのかな?」
澄玲先輩が、雑談でもするように聞いてくる。油断も隙もない。
「えぇ、正確には魔法使いが教えてくれた障壁を私好みに改良したものですが。
……まだもう少し改良できそうです。」
一枚で弾ける。なら、重ねる必要はない。
花開かせ、花弁を散らす。私の意志に従い、花弁がひらりひらりと舞う。
まるで、斬られるのを待っているかのように。
「どうです、綺麗でしょう?先輩の戦い方とは相性が悪いと思いますよ。」
舞い散る桜吹雪が、空間を逃げ場のない結界へと塗り替えた。
道路を挟んだ先で、澄玲先輩が低く身を沈める。
次の瞬間、舞う花弁を踏み、跳ね、奔る。
障壁を足場にした、不規則な突進。
「足場、ありがとね!おかげで、
此処まで近づけた。」
背後へ声が滑り込む。お腹から鈍痛が走る。
剣の“腹”で打ち抜かれ、景色が流れる。
障壁の制御領域から外された、桜吹雪が幻の様に掻き消える。
「ずいぶん荒業ですね。もっとスマートな戦い方してると思ってました。」
「教官時代は、お行儀よくしてたからね~。これでも黄金等級だよ。
煌びやかな称号でしょ?――でもね、これは“勝つため”の札なんだ。」
剣が水平に空を切り、その軌跡に沿うように雷の様な意匠を持つ魔法陣が、複数現れる。
剣を指揮棒のように振るうたび、雷の槍が放たれる。
瞬きの間に、槍は眼前へと迫る。
障壁を”斜め”に配置する。
ただ、硬いだけの障壁――それでも、進路は歪み、槍が逸れる。
すでに次の槍が準備されている。
ただ速いだけでは間に合わない。
ならば、模倣しよう、速さを。
≪模倣・時流≫
模擬戦で何度か見ただけの、時雨さんの固有魔法。
本物よりも数段劣る、倍速にすらならない模造品。
それでも、先輩の舞台へと上がることができる。
――雷が流星のように見える。
肺が焼けるように痛む、鼓動が地鳴りのように体に響き渡る。
それでも、体は想像通りに動かせる。
体内時間の加速。
理を騙し、自分だけ先に進む魔法。本来なら、使っただけで体が悲鳴を上げる。
未完成で劣化した模造品だからこそ、ただの疲労で済んでいる。
「さぁ、先輩。我慢比べしましょう。」
口に含まれた血を吐き捨て、攻撃術式を展開させた。




