模擬死闘 終
視界が晴れる。
魔力の揺らぎが”視えている”。
水面の様に。
魔法が、魔力が形を成す前に揺らいでいる。
今まで見ていたのは、結果だけだった。
今は、その先が視えてきた。
ただ、不発にさせるのとは違う。
魔法そのもの、私を”選ばせない”。
魔法は、世界に”嘘”を通すものだと言っていた。
なら――そこに“別の嘘”を流し込めばいい。
展開前の術式。
そこに、”嘘”を流す。
≪逸れる≫
ただ、これだけ。
魔法は、私に当たることはなかった。
「嘘には嘘を重ねればいい。
だが、より強い嘘にはどうする?」
時雨さんの、問いかけが始まる。
「魔法使いは、定型文だけは使わないぞ。
魔法陣だけじゃない、詠唱も時には必要なんだ。」
魔力が、時雨さんの喉へと集まっていた。
見たことない魔力の使い方、でもそれを使いこなしていた。
≪我が名のもと 風へと命ず
眼前へ 風刃を≫
揺らぎもなく、風を纏った魔力が迫ってくる。
理解は追いついていない。
それでも、喉へと魔力を送った。
≪逸れて!≫
頬をかすって、血が流れる。
しびれるような痛みが走るけど、首はつながっている。
生き残っている。
魔力を撒くだけよりも、疲れが無い。
――まだ、戦える。
「それは魔法じゃない。
だが――生き残るには十分だ。」
時雨さんが魔法陣を展開させる。
≪障害避け 目標を貫け≫
魔法陣が組み変わる。
嘘が、”確定”した。
≪私には 当たらないで!≫
魔法が、”私だけ”をすり抜けていく。
髪が揺れ、衣擦れだけが音を出す。
ただ、それだけだった。
背後の家屋が、貫かれ崩れ落ちる。
その崩壊と私は無関係だった。
私を狙っていた魔法が、
私の存在を忘れた。
呼吸が浅くなる。
防御でもなく、回避でもない。
私が、そこに”居なかった”ことにされた。
「ほう、面白い避け方だ。」
時雨さんの声は、何処か満足そうだった。
「だがそれでいい。
戦場での”詩い方”が、ようやく身についてきたな。」
『お楽しみの所すまないが、そこまでだよ』
幻理さんの声が、脳内に響いた。
視界が、白く染まる。
気が付くと古びた図書館の床に、膝をついていた。
現実の重力が、匂いがやけに重く感じる。
「お疲れ。攻撃は一度も当たらなかったようだね。」
幻理さんが、テレビの方を見ながら声を掛ける。
「それで?急に呼び戻したのはどうゆう見解だ?」
時雨さんが、少し怒気を含ませた声色で、喋りかける。
「まぁ、テレビを見な。」
幻理さんが、テレビの方を指す。
『魔災庁より、お知らせです。 不正に魔法を使用する集団、魔法使いに対して
本日、日本国にたいする危険因子と認定しました。』
『つきましては、魔法少女部隊による捕縛、および無力化を予定しております。
市民の皆様には、大変ご迷惑をお掛けいたします。』
「それで?俺たちは、危険だと。」
時雨さんが、さっきとは違った低い声でつぶやく。
「まぁ、厄災級との戦いで町一つ消し飛ばしたの見られてるんだから、当然だろうよ。
むしろ、遅すぎるくらいだ。」
幻理さんが、冷めた口調でつぶやく。
正しいことしか言っていないのに、
胸の奥が、妙にざらついた。
『また、魔法使いの皆様に関しては、
早期に自首していただければ、
対応を円滑に進めることが可能です。
以上、魔災庁からのお知らせでした。』
何も決められないまま、
テレビの音だけが、やけに響いていた。




