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模擬死闘 その1

今、私は時雨さんと殺し合いをしている。


いや、殺し合いというには少し語弊があるだろう。

正確には、幻影の中での殺し合いだ。


痛みはあるし、息も上がる。

疲労も確かに蓄積していく。

けれど、どれだけ斬られても、貫かれても、実際に死ぬことはない。


幻理さんの固有魔法――幻影魔法。

その応用によって作られた閉じた戦場で、私と時雨さんは向かい合っている。


これは訓練だ。

頭では理解している。


それでも、放たれた魔法は本物の殺意を帯びているし、

こちらもまた、躊躇すれば確実に『殺される』という感覚は、本物だった。


幻は、嘘ではない。

死なない。だが、“死ぬ”。

だから体は、本気で生き延びようとする。


これは、今までの模擬戦ではない。

本当の死闘だった。


この死闘に至るまでの、経緯は少し時を遡る。


*************************************

異形の強魔級との戦いから、少し経った頃のことだ。

腕の経過観察を凝子さんに見せるため、私は古びた図書館へ赴いていた。


書架の影で、幻理さんがふと口を開く。


「そういえば、時雨。お前は詩織に本気の戦闘をさせたことあるんかい?」


「いや、まだだな。そろそろさせた方が良いと思うか?」


「本気の戦闘?」

魔物との戦闘ではなくて?

そう聞き返した声が、思ったよりも乾いていた。


「魔物じゃない、本当の殺し合い。

魔法使いなら、まぁたまにあることだからね。」


「師匠が居るなら、幻影で一度死んでみるのも、悪くない経験だと思いますよ。

“理”を知るなら、踏み込まないと。」


「じゃぁ、幻理。頼めるか?」


「痛覚はどうするんだい?

……いや、現実と同じでやらなきゃ意味がないか。

で、何回だい?」


「10……いや、初めてだから3回で十分だろう。」


「場所は広場か……いや、市街地の方が現実味があるか。

時雨、場所は市街地での遭遇戦で行くよ。」


「分かった、詩織もいいな?」


時雨さんが、こちらを見る。

……いや、これは確定事項だろう。

*************************************

そして、現在に至る。

たぶん、もう5回は殺された。


確証はない。

気が付いたら視点が切り替わったときは、死んでいたのだろう。


魔法を展開しようとして、なぜか失敗して消し飛ぶ。


あるいは――

時雨さんの攻撃術式が、私の障壁を避けるような動きをして、殺される。


私が放った魔法は、時雨さんに届く前に解かれる。


私の魔法が、”否定”されているような感覚。

自分が、削られるような感覚。


「そろそろ、分かってきたか?

これが魔法使いの戦闘だ。」


「魔法は理を誤認させて発動する。

だから、上書きされた瞬間、“無かったこと”になる。」


「これは、教えても出来ることじゃない。

だから、死ぬ気で覚えろ。」

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