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知恵の闘争

「離れろ!まだ終わっていない!」

時雨さんの怒声が聞こえる。


視界の端、歪に再生する”それ”。


「再生……いや、再誕か。」

時雨さんの焦りにも似た声が響く。


形造られる異形は、もはや獣でもなく、人にも似ていない。


2対の腕、歪んだ両足、長い尾の様な器官。


皮膚はノイズのように質感を変え、顔らしきところは無貌。

無機質な”何か”がこちらを覗く。


「詩織は、魔法少女を連れて幻理の所へ!此処は、俺が抑える!」

鋭く時雨さんの指示が飛ぶ。


逃げる選択肢を取るべきなのは分かる。

それでも、二人で立ち向かった方が勝算はあるのではと思い、時雨さんを見る。


時雨さんは一瞬だけこちらに視線を寄越し、短く言い切る。

「お前ひとりより、あいつらが来た方が勝算が高い。いけ!」


「魔法少女は、最悪捨てていっても構わん!

大事なのは情報だ。」


私は、まだ息のある子を抱え、背を反らすように空へ翔る。

背後で魔力が吹き荒れるのを感じながら、振り返れば――黒い塊は蠢き、再び姿を変え始めていた。


*************************************

詩織は行ったか――


目の前の異形、確実に仕留めたと思った。

だが、平然と再生してみせた。

今まで一度も見たことのない挙動だ。


興味深い。

ただし、脅威度の測定ができない。


再生に上限はあるのか。

どこまで破壊すれば“死”に至るのか。

不用意に切断すれば、分裂して増える可能性もある。

攻撃を学習し、対策する“知性”を持っているのかもしれない。


想定はいくらでもできる。

だが、答えは観測しなければ得られない。


ならば――試すだけだ。


異形”爪”が視界を裂き、目の前へと迫る。


防御術式を展開。

火花のように魔力が弾け、わずかの拮抗。

それでもじりじりと押される。

さっきまでとは比べものにならない膂力だ。

再生の度に強化される――その可能性が濃くなる。


防御術式を自ら解き、即座に攻撃術式を多重展開する。

点では足りない。

面で押し潰し、まずは動きを鈍らせる。


魔力が唸るように、形作り放たれる。


着弾の前、予想外の光景が視界に入る。


魔物が、防御術式を使用した。


――ありえない。


今まで、術式など使用した例は知らない。


着弾と共に、異形の作り出した障壁は破られた。


しかし、それは重要ではない。


魔物が、術式を使うことが無いと信じられていた存在が、

術式を使った。


口角が上がる。

まだ、知らない事があった。

まだ、知られていない事があった。


だが、此処で仕留めなければならない理由にもなった。


無意識的に脅威度が上がっていくのが分かる。

魔物に情報伝達があるのかも知らない。

この個体だけの異常進化かも知れない。


考察は後だ。

生き延びて、その後にすればいい。


異形のちぎれた腕が、断面を蠢かせて形造る。

魔力でも肉でもない。

存在を上書きするかのような再構築。


攻撃術式を最小構成で創る。

火力でも技巧でもない。

”速度”のみに寄せた構成。


学び、術式を真似するならそれよりも早く切り替えればいい。

再生をするのならば、再生する暇を与えなければいい。


単純な答えだ。此処では残酷なほどに効果的だ。


「さぁ。進化して見せろ、出来るのならば。」


異形の方が、先ほどよりも正確に突っ込んでくる。

瞬きの前より、僅かに速い。僅かに賢い。

僅かに、強い。


それでも、俺の展開の方が、速い。


剝き出しの魔力が、弾け、衝突し、空を焼く。

術式が発動するよりも前に、次を創る。そして壊される。

異形の動きが、僅かに鈍り始める。


攻撃密度が、異形の観測と再生を上回る。


勝利条件は、増援が来るまでの時間稼ぎ。

それは理解している。


だが、火花散る中、俺は、嗤う。


未知との遭遇。

予測できない進化。

術式を扱う魔物という”新たな存在”


――研究者として、魔法使いとして、師として、


ここまで来て、退く理由がどこにある。


「――一人で倒しきった方が、恰好がつく。」


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