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勝利――そして

燃え盛る市街地は、世界の彩度を無理矢理上げたかのように、赤と黒が揺らめく。

建物が崩れる音が、雷鳴のように鼓膜を揺らす。


逃げ遅れた市民の悲鳴が、幾重にも重なり、空へと魔法の光が花弁のように散っていく。

綺麗だ、なんて思う余裕はない。あれは人を守るために燃やされた、魔法少女の祈りだ。


遠目からでも戦況の重さが伝わる。

すでに、魔法少女の遅延戦闘は限界に近いのだろう。


時雨さんが風を裂きながら言う。


「着地と同時に防御を張れ。着地が一番危険だ。」


「はい……!」


喉が痛くなるほど乾く。あの時の恐怖が、絶望が、筋肉を強張らせる。

それでも、前へと進む。


誰かが助けを待っている。その感覚が、戦場の空気越しに肌へと刺さってくる。


空へと漂う灰が、世界を腐らせる様を可視化しているようだった。

燃えた建材の匂いは舌の奥へとまとわりつき、肺へと刺さる。


“開けすぎた”空間が、不自然なほどぽっかりと口を開けていた。

瓦礫は円を描くように吹き飛び、中心にいる“何か”を際立たせている。


そこで――目が合った。


濁った眼。

理性の影が一滴もない。


こちらを視た、ではない“嗅ぎつけた”と言うほうが近い。


「強魔級の獣型か……詩織、初めて見るだろう?」


獣の影が歪む。

四足とも二足ともつかない、骨格の理が崩れたシルエット。

蜃気楼の向こうに、皮膚ではない黒い膜がぬめりついている。


喉の奥で短く、息を呑む。

恐怖が体を駆け抜ける。


「術式は展開しておけ――あれは速いぞ。」

時雨さんが、熱を切り裂くように声を上げる。


あの人の横顔には焦りはない。


あるのは、冷徹な“勝算”だけ。


震える手を無理矢理広げ、魔力の流れを整える。


――強魔級。

かつて私が逃げ惑い、全てを壊されたあの恐怖が、別の形をして立っている。


しかし、逃げることはしない。

あの時から私は変わったのだから。


それに――厄災級に比べれば、これはまだ子供の怪物だ。

胸の奥に在る”あの絶望”をもう一度上書きするように、

そう言い聞かせ、心を静かに定めた。


獣の前へ、飛び込むように着地。


即座に前へ、障壁を展開させる。


刹那、黒い極光。

相反する色彩が視界を埋める。


無へ“還す”黒き光が背景を飲み込み、理を崩しながら獣の口から迸る。


障壁が軋むような嫌な音を立てる。

冷汗がつっと流れる。


限界近い強度で作った障壁でも、長くはもたない。

受け止めるのではなく、受け”流す”。


だが周辺へ逸らすわけにもいかない。


角度をずらし、上へと光の奔流を逃がす。

数秒の照射を流し、視界が晴れる。


目の前に、獣の鋭い爪が迫る。


障壁はあっさりと裂かれる。


飛行術式で即座に後退し、牽制の攻撃術式をばら撒く。


獣は一切ひるむことなく、こちらへと飛び掛かる。


――それを待っていた。


極力、前傾姿勢を取り、獣の下を潜り抜けるように前へ抜けた。


攻撃術式に、魔力をいつも以上に”喰わせる”。


振り向きざまに、それを放つ。


魔物の“起点”――魔力が最も濃く、核のように渦を巻いている一点へ。


躊躇も狂いもなく、寸分たがわず貫いた。



獣の動きが止まり、輪郭が崩れていく。


一人で――勝てた。



力を抜き、振り返る。




背後で音が聞こえた。

粘つくような、タールの様な物から気泡が、弾けたかのような音が。




――ごぽり、と。

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