守り
あれから、空に浮かぶ練習と模擬戦が日常になった。
やっと、時雨さんに攻撃を入れようとする余裕くらいはできてきた。
まだ一度も当てられてはいないけど。
今日も今日とて、地面に大の字で倒れていると、
風の向こうで時雨さんがひとつため息をついた。
「そろそろ、防御を教えるか。」
そのつぶやきが、意識の端に落ちた。
「防御ですか? 先輩たちが使ってた魔法陣みたいな?」
前に澄玲先輩が使っていた防御魔法――緻密なガラス細工みたいな魔法陣を思い出す。
「あぁ、でもあれは旧式だな。」
旧式……?
「模様があることで守られている、って安心感が出るやつだ。」
時雨さんは淡く笑って、空気の粒を指先で押す。
するとそこに、うっすらと光る“膜”が現れた。
装飾も紋様もない、透明な薄皮のように揺れる膜だ。
「本来の防御に模様なんて必要ない。
特に魔法陣みたいな細かい模様はな。
受け止めるんじゃなく、逃がす。逸らす。歪ませる。」
目の前の膜が微かに歪む。
よく見ると、蜂の巣みたいな形が見えた。
「時雨さん、この模様……」
「気づいたか。俺のはハニカム型だ。
どこかが破れても、隣がすぐ補完する。
穴が空いても、全体は崩れない。」
時雨さんが意図的に膜を割っても、そこがすぐに埋まる。
「幻理――あぁ、俺の隣にいた魔法使いだが、
あいつのはもっと乱暴だぞ。
あいつは膜を何層にも重ねる。
壊れることを前提にして、威力を削ぐ。積層型だな。」
「積層型は、“壊れることで耐える防御”。
ハニカム型は、“崩れない防御”。
どちらも利点はあるが……まぁ、そこは置いておこうか。」
性格がにじむ。
幻理は頑固で真っ直ぐ、時雨さんは柔軟で計算高い。
「お前は、どんな防御を見出すのかな。」
突然の問いに、息を飲んだ。
「まずは、ただの膜を出すところからだな。
体から少し離れたところに魔力を薄く、均等に伸ばす。
まずはそれからだ。」
集中する。
体から数センチ先に、魔力が薄く広がる。
「攻撃術式を出すときと同じ要領で体から離せ。
下手に考えるな。考えたところで、うまくいかない。」
そんなことを言われても、伸ばすことに意識が割かれて体から離すことができない。
離すことに意識を向けると、膜がまだら模様になってしまう。
「そうじゃない、もっと自然に体と膜を分けろ。意識しすぎるな」
時雨さんの声が後ろから届く。
深呼吸をして、体に纏う魔力を緩める。
すると、少しずつ膜が体から離れた。
「いいぞ、少しずつだ。感覚を覚えろ、感覚を」
目の前に膜が広がる。成功した。
けれど、厚さはまだ均等ではない。
「とりあえず成功だな」
時雨さんはにこやかに言う。
「まだ均等に広げられていません。時間もかかりすぎです」
自分の反省点を口にする。
「初めはそれでいい。
防御術式の初歩を出来た。
それだけでも、生存率は上がる。」
悔しさは残るけれど、誉め言葉は素直に受け取る。
「分厚くてもいい、斑でもいい。
数秒攻撃が防げれば、それだけでも効果はある」
数秒防げてもあまり意味は無さそうな気もする。
「数秒稼げれば、相手に攻撃できるかもしれない。
もしかしたら、味方が助けてくれるかもしれない。
未熟なうちは、それで十分なんだ。」
「まぁ、それでもまずは展開を早く出来るように練習しようか」
そう言って、時雨さんは術式を展開させる。
「威力は弱めてある。怪我はしない。
まぁ、痛い思いをしたくなければ、展開を素早く済ませることだ」
あぁ……今日は痛みで寝られそうにない。
汎用防御術式
魔法使い・魔法少女が使用する防御の基本
魔法使いは攻撃を逃がし、逸らし、歪ませる。
魔法少女が使用する術式は、受け止めることを想定して創られている




