自由な空へ
自分の“魔法”。
初めての感覚だった。
自分の意のままに動く。
「じゃあ、次はその不格好な飛行術式だな」
感覚を確かめる間もなく、次の課題が提示された。
「あの、私まだ、飛行術式を覚えたわけじゃ……」
不完全なまま使っていた飛行術式。
飛ぶことはできず、跳ぶことしかできなかった。
時雨さんいわく、魔法少女の飛行術式は“足にジェットエンジンをつけて飛んでいるようなもの”。
移動速度は速いが、すぐに息切れする術式だという。
時雨さんが軽く指を鳴らすと、空気がしゅるりと巻いた。
背から肩、膝へ、空気がゆるやかに渦を描く。
「魔法少女の飛行は推進だけ。いわばロケット花火だ。速いが、長くは持たん。
対して魔法使いの飛行は“空を掴む”。空力を付与した魔力を、薄い翼膜のように展開してな。
ほら、パラグライダーを広げるみたいなもんだ」
私には何も見えていない。
それでも、確かにそこに“形”があった。
足から背へと緩やかに渦を描く、空気の形が。
「魔法少女の飛行術式は、ただ魔力を噴かせて前へ吹き飛ばしているだけ。
燃費も悪いし、俺たちから見れば、なんで飛べているのか分からん代物だ」
時雨さんがぼそりとつぶやく。
足元に空気の流れが集まり、薄い靄のような輪郭が生まれる。
「俺の術式は足にまとわせて“掴む”。
風を踏みしめて飛んでいる感じだな」
彼は軽く、地面を蹴るように宙に上がった。
重力が彼だけを忘れたかのように、滑らかに空へ。
「俺たちの術式は、人によって“翼”の感性が違う。
翼のように広げるやつもいれば、サーフボードみたいに扱うやつもいる。
空力に個性が出るんだ」
私は自分の手のひらを見つめる。
空気を掴む感覚なんて、想像すらしたことがなかった。
「まずは風の“形”を感じろ。魔力が空へ流れる感覚を。
それが分かれば、空はもっと自由になる」
空は自由……
前に銀等級の先輩が、そう言っていたことを思い出す。
目を閉じ、周りの魔力を感じようと集中する。
よくわからないけど、自分の体より先が“視える”。
揺れる、流される。
どれくらい目を閉じていたかは分からない。
風が視えた。
目を開けたとき、自分の体が流されていたことに気が付く。
時雨さんがにやりと笑う。
「風は、視えたか?」
楽しそうに、嬉しそうに聞かれる。
「まだ、よくわかりません。
でも、なんとなくわかりました」
さっきまでよりも、周りの魔力をより鮮明に感じる。
私自身が、まるで風になったかのように。
「じゃぁ、そうだな。この言葉を贈ろう」
「ようこそ、”理の末端”へ」




