幕間 とある魔法少女の哨戒任務
名も記されない魔法少女たちの日常。
魔法少女の朝は早い。
魔災庁管轄の待機所に向かう。
制服の襟を正し、腰の魔力濃度計が軽く揺れる。
忘れ物はなく、軽やかに空へと向かう。
銀等級の私は、今日も一人で空を巡る。
パトロールといっても、飛行魔法で指定範囲をぐるぐると回り、
銅や鉄の子たちから上がる情報を処理するだけだ。
極端に強い魔物が出現しなければ、危険性も少ない任務。
町の人たちとの交流も少ないけど、空を自由に飛べるから
私はこの時間が好きだ。
空の上は静かだ。下に降りると、見たくないものまで見えてしまうから。
『こちら本部、シルバー3へ、応答を乞う。』
オペレータからの通信。
「こちらシルバー3、何かありましたか?」
どうせいつもの定期連絡だろうと思いながらも返答する。
『少し遠いが、近くで戦闘が始まった。パトロール範囲を2区画広げてくれ。』
ろくでもない通信だった。
空を滑る風が一段と冷たくなった気がした。
「はぁ、了解しました。」
『ため息をつきたい気持ちは分かるが、これも任務だ。気張れよ。』
通信は此処で途切れる。
戦う必要はないが、残業が確定した。
この仕事は、戦闘よりも“待機”の方がよほど面倒だと私は思う。
進路を変え、パトロール経路を組みなおす。
飛行を維持しながら背中のリュックから水筒を取る。
水分を補給しながら気が付く、水筒の飲み物が残りわずかという事実。
途中で水でも買わないと持たないな・・・
魔法少女がコンビニに寄るだけでもうるさく騒ぐ人たちがいる。
それでも、私は喉の渇きには勝てない。
『すいません!誰か、だれか返事してください!』
少し切羽詰まった様な声が広域チャンネルで聞こえる。
周波数を合わせ通信を開始する。
「大丈夫?何かあったの?」
努めて、優しい声で返答する。
『あ、えっと、男の子が迷子になっちゃったみたいで。』
魔物の出現かと思ったら、迷子を見つけただけだったらしい。
「落ち着いて、近くの交番に連れて行ってあげなさい。」
……助けに行きたい気持ちはあった。けれど、私は“空”の仕事を任されている。
私たち魔法少女は、魔物への対抗手段であって、何でも屋ではない。
『シルバー3、応答せよ』
今度は本部からだ。
今日は座敷童と一緒に飛んでいるのだろうか。
「こちらシルバー3、今日のパロトールはこれ以上増やしませんよ。」
愚痴交じりに返答する。
『隣町で、脅威級が出現した。応援に向かってくれ。』
いや、違う。貧乏神だったようだ。
「了解、現場に急行します。」
……帰りの空が、少し暗く見えた。
あの日の空を思い出すと、いつも少しだけ胸がざらつく。
帰りの空に、夕焼けがなかった。
それだけのことなのに、妙に忘れられない。




