厄災・目覚め
淡く儚い魔法術式。
そこから放たれる数々の破壊的な魔法。
爆ぜる音、裂ける風。空が悲鳴を上げていた。
月の光だけが、戦場の血を鈍く照らしていた。
朝日なんて来ないと思った。
私たち魔法少女の魔法とは根本の在り方から違う。
派手な装飾は無く、ただただ効率を求めたかのような機能美。
幻理と呼ばれた魔法使いの魔法は、優雅すぎて腹が立つほど美しかった。
私たちの魔法は泥の上で叫ぶように詠うのに、あの人は風の上で笑っている。
時雨さんの魔法は殲滅するため、隙間なく放たれる。
戦場で生き残るための魔法。泥の上で詠う戦場の歌。
それが、迷いなく厄災へと向かう。
魔法少女の魔法が時折交じり合う――神秘的な戦場。
厄災からの攻撃は幻理さんの魔法により弾かれていく。
ふと周りを見ると高濃度の魔力が形を作り始めている。
魔物の出現反応だ。
魔法使いの二人は気が付いていない。
――いや、気づけないほどに集中しているのだろうか。
「魔物が、出現しています!」
私は力の限り叫ぶ。
それが意味を持つかどうかもわからない。
けれど――伝えなければならなかった。
「厄災は、俺が抑える。行け!」
時雨さんの声が響く。
焦燥も苛立ちもなく、ただ戦う者としての確信があった。
幾重もの魔法が厄災へと滑るように導かれる。
「小娘どもをまとめ上げろ。魔物は貴様らの手柄だ。」
幻理さんの声は冷たく、しかし新しい玩具を貰った子供のように喜々としていた。
私たちを見ることはなく、魔法は空を踊る。
指揮を託された――意味を、私はすぐには理解できなかった。
少しの思考すら許さず、戦場は動く。
魔力は暴れ、それに対抗するように魔物が咆哮を上げる。
「私には……まとめ上げるなんて……」
弱音が口からこぼれた。
実力のない私には指揮なんて――出来るはずがない。
激流のような魔法が厄災に押し寄せる。
「押さえ込むな!」
時雨さんの声が飛ぶ。振り返らずに、戦場の只中から。
「流れに乗れ、魔力を信じろ!」
魔力は暴れている。でも――それは、私を拒絶していない。
濁流が渓谷を作るように。
それでも、私が”流れ”に身を委ねたら、それは答えてくれる。
息を吸い、渦巻く激流に身を委ねる。
流れは変えない。
ただ、導く。
熱い奔流が腕を駆け抜ける。痛みでも恐怖でもない。
ただ、魔力が呼吸する音だけがあった。
指先が震え、空気が揺れる。
その瞬間、世界の輪郭がわずかに緩んだ。
魔法は驚くほど素直に展開された。
「――行ける!」
声は震えている。だけれども、”何か”に触れた。
同じ魔法――それなのに攻撃力も展開速度も全く違う。
その光景の中で、幻理がわずかに目を細めた。
体の痛みが、戦場の音が遠くへと行く。
幻理が、微かに口を開いた。
「原石か――いや、まだ石だ。」
その声は、静かに消えていく。
興味深げに、まるで美術品を前にしたかのように。
朝日の光が、空を染めていく。
それが、私の“第一章”の終わりだった。
原石
魔法使いが一部の魔法少女へ付ける異名
かつて、厄災へと挑んだ者もそう呼ばれていた。




