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中3 賑やかになる



「アイコン変わったね?わんちゃん?」


休み時間に伊吹の机の前まで言って、愛は聞いた。

メッセージのアイコンが変わっていたから。


「そう。母が犬飼いたがって。」

「可愛い!なにいぬ?」

「ボーダーコリー」

「ボーダーコリーの何ちゃん?何くん?」

「モコちゃん」

「モコちゃん!」


黒くて、右耳が白のボーダーコリーでフォルダは埋め尽くされている。


「か、かわ…」

「えー伊吹、犬飼ったのー?」

「見せて見せて」


愛との会話を聞いたいたクラスメイトたちが、伊吹の周りに集まってくる。


「あー、うん。」


彼らに囲まれた伊吹は、愛に見せていた写真を友人たちにも見せた。


「えーーーかわいーーーー!!」


急に賑やかになる教室。

愛はすすすとその輪を抜けて、席に戻る。

とっくに、ずっとここにいた愛より、伊吹の方がクラスに馴染んでいる。


それが、どうしようもないのに、なんだか寂しくなった。


「澤村、伊吹にもっと写真見せてもらわなくてよかったの?」


「!?」


後ろから声をかけられ、愛はビクリと震えた。


伊吹と仲がいい、柴田将臣だ。


出席番号で、愛の後ろの席で。


恐る恐る振り返り、目が合うが、愛は思いっきり首を振った。


「ほんとはポメラニアン飼いたかったんだって」

「ぽ…?」

「なんでだろうね?」


将臣はたまに、こうやって愛に話しかけてくる。


愛はまともに会話もできていないのに、彼は懲りずに声をかけてくるから困惑する。

困惑はするが、愛を貶める感じはなく純粋に愉しんでいる様子だから、嫌な感じはしない。


ちょうどよくチャイムが鳴り、愛は前を向いた。





◇◆◇





次の日曜日。

風の音と鳥の囀りが心地よい朝。


「モコ、愛ちゃんだよ」


ワフワフと愛の顔を見た瞬間じゃれつく、黒と白の毛のボーダーコリー。


モコの写真を見せてもらった休み時間の後、伊吹に「一緒にモコの散歩する?」と提案されたのだ。


「きゃー!モコちゃん!ほんもの!可愛い!」


じゃれる仔犬を愛はしゃがんで撫で回す。


「なつっこいねえ」

「うん。撫でてもらうの好きみたい」


モコは全身を使って全力で愛を歓迎してくれる。

犬っていいな。心の内側を勘繰らなくていい。


「モコ、今日は走らないよ」


ワフワフと走り回って伊吹が持つリードを引っ張るモコに、伊吹がゆっくり歩きながら声をかける。


「いつもは走るの?」

「うん。ランニングしてモコも走らせてる。」


どうやら、伊吹のお母さんが犬が大好きで、犬と一緒にランニングしたいがために、ボーダーコリーを選んだらしい。


そして運動不足のお父さんを一緒に走らせているらしい。仲良しだ。


「…わたしのために、今日は歩き?」

「うん。愛ちゃんと一緒に散歩したかったから。たまにはいいでしょ」

「…他の子たちは、呼ばなくてよかったの?」

「ん?」

「写真、見せてた子たち」

「ああ」


仲の良い友達が、楽しそうに写真を見てはしゃいでいたのだから、何も愛を誘わなくてもと思ったのだ。


「わざわざ日曜に出て来るほど興味ないと思うし」

「…そうかなあ…?」

「それに、大人数でワイワイするのあんま得意じゃない」


愛は伊吹の顔を覗き見た。


伊吹はいつも輪の中で楽しそうに友達と笑い合っていて、とてもそうは見えなかったから。


「ああ、何というか。楽しいけど、四六時中そうじゃなくていいって意味。ずっとそればっかだと疲れる、かな。」

「そ、か。」

「うん。愛ちゃんといるとオフモードで落ち着く。」


もしかして。


愛がそうしているみたいに、そっと机の引き出しの宝箱に入れるみたいに。


愛との時間を大切に思ってくれていたり、するのだろうか。


向こうから歩いてくる白いパピヨンを見つけた。


「わー!チロ!久しぶりだねえ」


愛は駆け寄ろうとするが、パピヨンは、しかしいつものように駆け寄ってはくれず警戒している。


はたとモコを連れていることを思い出して、愛は手を振るに留めた。


「愛ちゃん、今日は彼氏連れかい」

「ち、ちが…!」

「あははは。きよくんが泣いちゃうよ」


チロと呼ばれたパピヨンを連れたおばさんは、リードでチロをモコから離しながら、上機嫌で通り過ぎて行った。


「知り合い?」

「うん、お散歩してるときによく会うおばちゃん」

「…なるほど」


春の陽気の中、伊吹といろんな話をして歩く時間はあっという間だった。


河原を歩いて、家へと戻ってくると、向かい側から清嗣が歩いてきた。


「愛」

「きよくん!」

「坂本といたの」

「うん、一緒にモコちゃんの散歩してたよ」

「ふーん?」

「どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ。ピアノの教室今日に振り替えなんでしょ。先生待ってるよ」

「あ」


愛が連絡がつかないから、先生が清嗣に連絡をしたようだった。


「ご、ごめんね、伊吹くん!わたし、行かなきゃ」

「うん、また明日ね」


手を振って玄関に向かう愛は見ていなかった。


愛の背中に手を添えた清嗣がどんな顔をして振り返ったのか、それを見た伊吹が作り笑いの下で何を思っていたのか。












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