高3 伊吹の声だといい音
「伊吹くんと、付き合うことになりましたっ」
翌朝、ハナと清嗣と一緒に登校して、校門をくぐったところで伊吹と会った。
そこで、愛が伊吹の手を握って2人に報告したのだ。
「へえー?昨日まで泣き腫らしてた原因はコイツじゃないの?」
「…そ、れは。わたしの勘違い…で、仲直りしたもん!」
「認めない。」
「何できよくんの許可が必要なの!?」
思わず伊吹が止めに入ろうとするほどの緊張が走るが、
「清嗣、いい加減にして。」
いつになくキツい口調で遮ったのは、ハナ。
「坂本くんが、愛のこと大事にしてるって十分わかってるでしょ」
「は、はな…?」
清嗣が慌ててハナの方を向く。
愛から清嗣の表情は見えないが、狼狽えるのが空気でわかる。
「いっつも愛ばっかり。いくら愛が、目に入れても痛くない“はとこ”だとしても、もう限界」
うっすら目に涙を溜めて、キッと清嗣を睨むと、
「一生そうやって愛のことだけ構ってれば!」
言い放って踵を返すハナ。
「は、はな…!待ってよ!!」
ハッとして、清嗣はハナを追いかけた。
愛と伊吹は呆然と立ち尽くしていた。
心配で追いかけたい気持ちもあったが、びっくりして何もできなかった。
ハナの涙を見たのは小学生以来だし、普段落ち着き払っている清嗣があんなに慌てているところを見るのなんか初めてだ。…いや、幼稚園以来ぶりくらい。
予鈴が鳴った。
それで漸く現実に引き戻され、ザワザワと周りの音が気になり始めた。
「…は、はとこ…なの…?」
隣にいた伊吹は、手を引いて愛に聞いた。
どうやら愛とは、違うところが気になったようで。
「え?うん、そうだよ」
言ってなかったっけ?と愛は首を傾げた。
「ママと、きよくんのママが、いとこなの」
だから生まれたときから仲良しで、幼稚園も小学校も一緒だった。
そして、伊吹の疑問はまだ続く。
「…しかも、アイツら付き合ってたの?」
「ええっと……」
秘密にしてねと何度もハナに良い含められていたのを思い出す。
でも誤魔化しきれないなら、こう言うしかない。
「みんなには秘密にしてね…?」
「ほ、本当に…?いつから?」
「えぇっと…中学3年生…?」
「………はあ?」
裏返ったような“はあ?”は、伊吹との付き合いの中で初めて聞いた。
それも、伊吹の声だといい音。
「てっきり、愛ちゃんとアイツは……はあ?」
伊吹は額を押さえた。
「やられた…」
愛の彼氏は、手を繋いだまま打ちひしがれている。
よくわからないけど、伊吹の見たこともない表情も声も、見れたのが嬉しくなった。
ちょうど、お気に入りのシールを集めて、ハコの中に大事に仕舞っておきたいくらいに。
ハナと清嗣はと言うと。
ハナはホームルームが終わった頃に不機嫌な顔して教室に入ってきた。
「愛!今日クレープ食べに行くわよ!全部トッピングで。坂本くんは呼んでもいいけど、武藤くんは呼ばないで。」
“武藤くん”なんて他人行儀な呼び方、不機嫌オーラ全開でピシッと言われれば、愛はただコクコク頷くしかない。
愛は耐えきれずすぐに伊吹へメッセージを送った。
それから、2週間はハナの機嫌が直らず、清嗣が謝り倒していた。
伊吹は愛と共にクレープやらパフェやらに付き合いながら、何でなのかハナの味方をしていた。
清嗣に泣き付かれるという未だ嘗てない経験もして、愛が何とか話し合いの場をつくり、2人は何とか仲直りをした。
興味津々で根掘り葉掘り聞いてきた長女麗に、清嗣は笑い飛ばされてしっかり説教もされていた。
次女優は、愛の話をたくさん聞いてくれた。愛は優の恋愛に協力するどころか、意図せず邪魔をしてしまったのに、優しい。




