表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/23

高3 口をついて出た言葉




こういうとき、麗や優ならどうするのだろうか。

モテモテな麗は、こんなことで戸惑わないのかもしれない。


なんでもできる優は、こういうこともさらりと流せるのかもしれない。


なのに。


麗くらい明るくてスタイルがよくて、いつも人に囲まれている人なら。

優くらい落ち着いて、マメで料理上手で笑顔が可愛い女らしい人たったら。


そうしたら、伊吹は。


なんで愛は、いつもこうなんだろう。

泣き腫らした顔でハナに手を引かれて帰ってきた愛を、ママは何も言わずにお風呂に入れた。


「愛ちゃん、アイス食べよー?」


ぐるぐると部屋で考えていると、ママが部屋に入ってきた。

手には愛の好きなアイス。


「お行儀悪いけど、今日は特別よ?」


ベッドに乗っかって、壁に背中を預けた。

愛もその隣に並んだ。


もぐもぐと一口サイズのブドウのアイスを頬張る。


「ねえママ?」

「なあに?」


聞いてほしくて。でも、なんて話していいのかわからなくなった。


「なんでわたしは…麗ちゃんと優ちゃんみたいに、上手くできないんだろ…」


代わりに口をついて出た言葉に、ママは目を丸める。


「だ、だって、麗ちゃんみたいに友達多くないし、優ちゃんみたいに器用じゃない…」


言っていて悲しくなってきた。


くすくす笑う。


「あらあ?そんなふうに思ってたのねえ。そういえば昔麗ちゃんもそんなこと言ってたわ」


ママは頬に手を当てる。


「ママね、麗ちゃんも優ちゃんも愛ちゃんも、ちゃーんといいところを伸ばしたつもりよー?」


うふふとママは愛の髪をすく。


「でもね、みんな全然違うじゃない?麗ちゃんは行動力と人を引っ張っていく力がすごいでしょう。優ちゃんはマメなのよ。よく気がつくから人をサポートするようなのが得意よね。」


うんうんと、大好きな姉たちの大好きなところを聞く。


「愛ちゃんは人の気持ちに敏感でみんなが通り過ぎる幸せ、ちゃんと見つけて拾って大事にできるの。“好き”に対してとっても愛情をかけられる」

「え…」


微笑んで髪を撫でてくれるママに、それは、頷けなかった。


「でも…麗ちゃんみたいに誰とでもすぐ仲良くなれないし、優ちゃんみたいに気遣いして上手く話せない…」


言いながら、泣きそうになる。


なのに、


「そりゃあそうよ。愛ちゃんは、麗ちゃんでも優ちゃんでもないもの。」


ママはあっけらかん。


「大事にする方向性が、違うだけだと思うのよ。麗ちゃんは友達を大事にするし、優ちゃんはそこにいる人たちも全員大事にするし、愛ちゃんは大好きな人をとことん大事にするでしょう?」


うるうると涙が出てきて、ママに抱きつくと、ママは優しく抱きしめてくれた。


「みんな素敵だもの。羨ましくなっちゃうわよねえ。全然違うから、比べられないのよ?」


抱きしめて、髪を撫でる体温が心地よい。


「なんて素敵な娘たちでしょう。自慢だわあ」


不思議な感覚だった。いつも抱きしめてくれているのに。

伊吹くんとは、全然違う、やわらかくて細い、女の人の体。


「ね、ママは」

「なあに?」

「パパに恋してるって思ったの?」

「恋かあ」

「結婚したってことは、恋したんでしょう!?」


ママの両肩に手を置いて興味津々な愛に、ママは愛ちゃんも興味持つようになったのねーと楽しそうに笑った。


「そうよ。昔同じところで働いていてね、パパって今よりもーっと無口だったのよ?かっこいいのにみんなに怖がられててね。でもいつも困ったときにさりげなく助けてくれるのよ。ママのミスでトラブルの対応終わらなくて残業してるときに、差し入れ買ってきて、終わるまで無言で手伝ってくれてね?」


「ええ!パパ優しい」

「優しいでしょー!しかも『落ち込まないで。次から気を付ければいい』って言うのがかっこよくてね!それで好きになっちゃって、そこからは猛アピールよ」

「そ、そうなの!?」

「そうなの。仕事もおしゃれも頑張ったし、お昼一緒に行こうって誘ったりね」


初めて聞くママの話。ママが楽しそうに愛おしそうに話すから、愛も嬉しくなった。


「な、なんで、ママは、それが恋ってわかったの…?」

「うーん?なんでかしら?パパのことが大好きで、ずっと一緒にいたかったからかなあ?」

「あ…」


ーーー泣くくらい、僕と一緒にいたいってこと?


「雷に打たれたみたいにビビビッとくる人もいるみたいだから、きっとそれぞれなのね?」

「それぞれ…」


愛は、ママの言葉をぐるぐる考える。


「恋って、ふわふわでキラキラしてて、甘い感じじゃないの」

「うーん、とっても楽しいし、嬉しいこともたくさんあるわよ。ふわふわで毎日すっごく楽しくてね」


でもねえ、と、ママは続けた。


「嫌な感情も出てくるわね?」

「えっ」

「他の女の人と話してたら嫌だとか、同じくらいの“好き”を返してくれないとつらいとか、嫌な自分が見えてくることもあるもの」


だって、きっと恋って、甘くて、ふわふわで。


「愛ちゃんもほんとはわかってるんじゃない?」


にこにこと愛の顔を覗き込むママ。


ママの瞳に映る愛は、不安そうに眉を下げている。


「心に棲んでいる人がいるんでしょう?」

「え…」


ママは人差し指で、愛の左胸の辺りをトンとついた。


「だあって!『この好きは恋?』って思ってる人の質問だもの。恋って名前がつけられなくても、その人が大好きで一緒にいたいってだけで、いいと思うけどなあ」


うふふと楽しそうに笑うママに、頬が赤みを帯びる。


「大好きな人がいたら、早く手を伸ばして捕まえなきゃね?」


パチリとウインク。

ママには全てお見通しのようだ。


「わからないフリをしてチャンスを逃したら後悔するわよ」


歯を磨いて早く寝なさいとママはベッドを降りた。


愛は眠気に身を委ねながら、ぼんやりママの話を反芻した。


大好きで。


一緒にいたら幸せで。


ずーっと声を聞いていたくて。


好きって言われたら幸せで。


ぎゅーってしたくて。


他の女の人と一緒にいるのが嫌で。


同じくらいの“すき”を返してほしくて。


でも、だって、それってーーー







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ