表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/23

高3 冷たい刃みたい




「澤村は方向性決まってるからな。数学だけもうちょっと頑張れな。武藤と中根も教えてくれるだろうし」

「はあい」


武藤と中根は、清嗣とハナだ。いつも面倒を見てくれていることなど先生はお見通しみたいだ。

愛のことをよくわかってくれている。


「あと出席日数は気をつけるんだぞ」

「はあい」

「武藤と中根とも、毎日一緒じゃなくなるから少しずつ自立しないと、な?」

「あ…は、い…?」

「待て待て、そんな顔するな。いじめてるんじゃないぞ?」

「………」

「ま、まあなんだ。あいつらは学校離れても変わらず仲良くしてくれると思うぞ?澤村?な?」


こくこくと頷いて、担任と進路の面談を終えた。

面談の部屋を出て教室に向かいながら、呆然とした。


「そっか」


エスカレーター制で音楽科のある大学にそのまま進学はできる。

できるけど、一定の基準は定められている。


成績は、清嗣とハナのおかげでギリギリ。出席日数もギリギリだ。

形だけの受験でも、一応、試験を受けなくてはいけない。


特進クラスの清嗣は、受験をして違う大学に行くらしい。ハナもエスカレーターで大学に行くはずだけど、学部は違う。

幼稚園でハナと同じクラスになって以来、初めて2人と離れる。


1人でやっていけるのだろうか。

急に不安が襲ってきた。


「そういえば…いぶきくんは…?」


伊吹は親の都合で転入しやすいうちの学校に転校してきただけで、頭がいいはずで、どうするんだろう。

聞いたことなかったけど、遠くの大学に行くんだろうか。やりたいことはあるんだろうか。


当たり前だと思っていた、いつでも会える日々は、あっけなく消えてしまうのかもしれない。


嫌だ。怖い。


ヒュッと喉の空気が抜ける。


なにが?


お腹を抱えてうずくまった。


ペタペタと上靴の音が近づいてくるが、動けない。


「愛ちゃん?」

「ーーーっ」


やわらかいバリトンが愛を呼ぶ。


「どうしたの?具合悪い?」


顔を上げると、伊吹が同じようにしゃがみ込んで、愛の隣にいる。

ぼろぼろと涙が落ちてきた。


「え、えー?泣かないで?どこか痛い?ええっとタオル。汚れてないと思うけど」


慌ててリュックから引っ張り出したタオルで、愛の頬に触れた。


その手に、手を重ねた。


触れた体温に、胸のあたりの重いのがするするほどけていくような感じがした。


瞬きするたびに、涙がこぼれ落ちる。


「どうしたの」


進路どうするの?

受験して違う大学に行くの?


ーーー遠くに、いっちゃうの?


深い、穏やかな湖みたいな瞳が、愛を映している。


「き、きよくん、別の大学行くって」


ハナも、違う学部で離れてしまうって、というところまで、涙で言えなくて。

ピタリと、頬を撫ぜた伊吹の手が止まる。


「いぶ」

「ーーーそう。」


“伊吹くんは進路どうするの?”


訊こうとする愛の言葉を、低くて冷たい、鋭い声で遮るから。

それ以上続けられなくなる。


伊吹は愛から離れ立ち上がった。愛の手の中にはタオルだけ残して。


「武藤、頭いいもんね」


昔の冷たい刃みたいだった頃の、あの声。

あくまで穏やかな表情は崩さずに、でも。


「わ、わたし、何か、怒らせること、言った…?」


唇が震える。


「僕、愛ちゃんが好きだって、言ったよね。」


膝を抱えたまま見上げるが、表情が見えない。


「そんな驚いた顔しないでよ」


思っていることが、言えなかった。

今まで、伊吹には、なんでも言えたのに。


「でも、愛ちゃんは、アイツばっかりだね」


自嘲する声に、心臓が嫌な音を立てて、でもなにもできない。


「中根さん、教室で待ってたよ」


愛の横を通り過ぎて、伊吹は教室の方に歩いて行った。


伊吹に突き放されたのは、初めてだった。


突き放されたのは愛のはずなのに、傷ついたのは、きっと伊吹だ。


でもわからない。なんで?


さらに出てきた涙をタオルが吸う。


伊吹らしいタオルはちょっとだけ伊吹の匂いがして、また涙が出てきた。

胸のあたりが、痛い。


「ちょっと!愛、どうしたのよ?」


走ってきたハナが、愛に寄り添う。


「なになに?先生に何か言われた?それとも坂本くん?」


ハナに背中を抱き寄せられながら、タオルに顔を埋めた。


「坂本くんも変だったし…」


伊吹がハナに声をかけてくれたんだろうか。


なんで?どうして?

何がいけなかった?


でも、これだけはわかる。


「きずつけた。わたしが。」


あの、怪我したときみたいな顔。

もう見たくなかったのに、その顔をさせたのは愛だ。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ