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第3話:音もなく敵を穿つ、フクロウの咆哮


漆黒の『フクロウ』が、相原凌の手に馴染んだ瞬間、強化型エリート兵部隊が、まさに凌たちが隠れる瓦礫の陰へと迫っていた。 彼らのM1ガーランドが火を噴き、激しい銃声が耳朶を打つ。土煙が舞い上がり、視界を覆い隠す。

「くそっ、これでは…!」 高倉中尉が歯噛みする。彼のAIルーチンは、この状況を「絶体絶命」と判断しているようだった。 通常の日本兵NPCたちは、強化型エリート兵の猛攻になすすべなく、次々と光の粒子となって消滅していく。

(俺の出番だ)

凌は、フクロウのスコープを覗き込んだ。 HUDには、彼の脳内データが反映された、フクロウ独自の特殊UIが表示される。 スコープの中央には、狙いを定めた敵のエリート兵が捉えられている。そのエリート兵の背後には、まるで透けて見えるかのように、隠れている別のエリート兵の輪郭が赤くハイライトされていた。

《光学観測モジュール:熱源感知モード》 《ステルス・キルモード:稼働中》

凌がトリガーに指をかける。 三八式歩兵銃とは全く異なる、洗練されたトリガーの感触。 そのまま、静かに引き金を引いた。

シュン……ッ!

驚くほど、銃声がしなかった。 わずかに空気を切り裂くような、極めて小さな音がしただけだ。 放たれた弾丸は、まるで闇に溶け込むかのように、一筋の軌跡を残して敵のエリート兵の頭部を正確に貫いた。

《HEADSHOT!》

敵のエリート兵は、何も気づかないまま、音もなくその場に崩れ落ちた。 周囲の他のエリート兵たちは、仲間の死に気づかない。 (すげえ……本当に、完全に消音してるのか!)

凌は確信した。この『フクロウ』は、彼が妄想した通りの性能を発揮している。 かつて凌がMODで追求した「完璧な隠密狙撃銃」が、WWOのシステムによって「現実」になったのだ。

凌は、息を潜めて次弾を装填する。 フクロウはセミオート機能も備えていた。通常の三八式歩兵銃とは違い、連続して発砲が可能だ。

シュン! シュン!

二発、三発。 音もなく放たれる弾丸が、次々と強化型エリート兵部隊の脳天を穿っていく。 彼らは何が起こったのか理解する間もなく、まるで連鎖反応のように次々倒れ伏していく。

「な、なんだ!?何が起こっている!?」 高倉中尉が、眼前の光景に絶句した。 敵は確実に減っている。しかし、銃声は聞こえない。味方の銃声でもない。 彼のAIルーチンは、この「不可視の攻撃」を処理しきれず、完全に混乱状態に陥っていた。

(焦るな、高倉。これが、俺のチートだ)

凌は、フクロウのスコープを動かす。 エリート兵の一人が、凌のいる方向を警戒し、物陰に隠れようとした。 しかし、《光学観測モジュール:熱源感知モード》は、彼の体温を赤い輪郭として明確に映し出す。

シュン……!

物陰に隠れる寸前、凌の放った弾丸が、エリート兵の心臓を正確に貫いた。 「ぐっ……!」 彼は短い呻きを上げ、そのまま力なく倒れ伏す。

「残りは…あと2体」 HUDの敵カウントが、リアルタイムで減少していく。 凌は、フクロウの光学観測モジュールを「暗視モード」に切り替えた。 視界が緑がかったモノクロになり、闇の中の僅かな熱源や動きも、鮮明に浮かび上がる。 これは、夜間の偵察や狙撃に特化させた、凌が考案したフクロウの主要機能の一つだった。

物陰に隠れたエリート兵が、仲間が倒れたことにようやく気づき、警戒しながら辺りを見回している。 「どこだ!一体、どこから……!?」 彼らが困惑し、混乱している間に、凌は完璧な位置取りを完了していた。

シュン!

最後の弾丸が放たれる。 エリート兵は、背後から音もなく現れた弾丸に、為す術もなく倒れた。

《強化型エリート兵部隊、全滅!》 《緊急補給物資奪取作戦、戦闘フェーズクリア!》 《ボーナスポイントを獲得しました!》

HUDに表示される、まばゆいクリアメッセージ。 周囲に広がるのは、静寂。 そして、残された味方NPCたちの、息をのむような気配だった。

高倉中尉が、信じられないものを見るかのように、ゆっくりと凌に近づいてくる。 彼の顔は、驚愕と、戸惑いと、そして奇妙な畏敬の念に満ちていた。

「……な、なんだ、その銃は……」 高倉中尉は、フクロウを構える凌の姿を凝視した。 彼は恐る恐る、凌の隣まで歩み寄り、フクロウに手を伸ばした。 「見せてみろ!」

凌は、フクロウを高倉中尉に手渡した。 高倉中尉は、その銃の質感、冷たい金属の感触、そして奇妙なほどの軽さに驚き、何度も銃身を撫で回す。 「これは……我々の兵器ではない……。この銃身の構造、この消音器の精度……システムエラーか、それとも……」

彼のAIルーチンが、目の前の「イレギュラーな存在」をどう処理すべきか、必死に演算しているのが見て取れる。 他のNPC兵士たちも、遠巻きに凌とフクロウを見ていた。

「鬼神か……?」 「とんでもないものが、現れたぞ……」 「あれが、殿下(凌)の……」

彼らのAIとしての「畏怖」の感情が、ひしひしと伝わってくる。 凌は、彼らの反応を見て、内心でほくそ笑んだ。 (ゲームとはいえ、ここまでリアルに反応されると、正直、気持ちいいな!)

彼にとって、WWOは現実の鬱屈を晴らす最高の舞台だった。 そして今、その舞台で、彼は誰にも真似できない「無双」を演じている。

「殿下、この銃……」 高倉中尉が、フクロウを凌に返そうとする。 その時、倉庫の奥から、僅かな物音と、何かを引きずるような音が聞こえてきた。

「まだ敵が残っているのか!?」 高倉中尉が即座に警戒態勢に入る。

凌は、フクロウを構え直し、《超人的索敵》で倉庫の奥を探る。 赤くハイライトされたのは、人影が一つ。 その人影は、怯えたように壁際に身を寄せ、震えている。 米兵ではない。民間人のようだ。

WWOでは、こうした緊急補給物資奪取作戦の際に、稀に民間人NPCが巻き込まれていることがある。彼らは、通常は敵の攻撃目標にはならない、無力な存在だ。 しかし、凌の《超人的索敵》が捉えたその民間人NPCは、これまでのWWOの民間人NPCとは、明らかに異質なオーラを放っていた。

(……なんだ、このAIは?)

凌の視線が、その民間人NPCの瞳に吸い寄せられた。 AIのはずなのに、その瞳には、深い恐怖と、そしてわずかな「生」の光が宿っているように見えた。 それは、まるで、凌の現実世界での彼自身の瞳を、誰かに見透かされているかのような、不思議な感覚だった。

――この出会いが、凌のWWOでの「ゲーム」を、そして彼の「人生」そのものを大きく変えることになる。 凌は、まだ、そのことに気づいていなかった。

【第3話・了】


作者より 第3話の執筆、いかがでしたでしょうか。 このブロックでは、「フクロウ」の消音能力、熱源感知、暗視モードといった特徴的な性能を惜しみなく描写し、凌の無双っぷりを存分に描きました。 また、フクロウを見た高倉中尉や他のNPCたちの驚愕や畏怖の反応を詳細に描写することで、凌のチート能力がゲーム世界に与える影響と、WWOのAIのリアルさを強調しました。 最後に、ルシアAI(民間人NPC)との運命的な出会いを描くことで、次なる物語の展開への期待と引きを作りました。


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