終わりから始まりへ
「悪女め!」
「パンを……っ!! 水を!!」
「オレの妻を!!」
「わたしの子を!!」
「ワシの息子を!!」
「「「全てを奪った悪魔に死を!!」」」
民衆の叫びは広場に轟いた。
彼らの囲む断頭台の刃は今まさに落ちようとしている瞬間であった。
「悪女エリザベス・マウントバッテン! 国家転覆を謀った罪により斬首刑とする!」
見窄らしい格好の痩せこけた女──エリザベス・マウントバッテンは、民衆へ罵倒を浴びせる気力など残っていなかった。
公爵家の令嬢として贅の限りを尽くし、それが公爵家の令嬢である特権として享受し生きてきた。
だが、愛する婚約者にすり寄る平民を虐げた。
たったそれだけで国家転覆罪などと不当な裁判にかけられ身に覚えのない罪状まで並べられ、発言も反論も許されなかった。裁判は異例の早さで行われ、証拠も証人もろくに準備できず裁判長に言われるがままエリザベスの死刑が決定した。
公爵家であるにも関わらずだ。
唯一の味方であった父は、最期までエリザベスの判決に抗議し、反逆罪で先に絞首刑となってしまった。
「死ね! 死ね! 死ねッッ!!」
「悪魔め! 地獄に落ちろ!!!」
「悪女を殺せ!!」
「悪魔を滅ぼせぇ!!!」
「──執行せよっ!!!」
一瞬の静寂。
断罪の刃は迷うことなく罪人の首をはねた。
地に堕ちるエリザベスの瞳に映ったのは、曇天の空。
そして、分かたれた自身の肉体、歓喜する民衆、可憐な天使のようだと讃えられたあの平民が、愛していた婚約者の横で悪魔のような顔で笑う姿だった。
「──悪魔め!!」
ガツン!
エリザベスの頭に激痛が走った。
それと同時にエリザベスの身体は地に伏した。
(えっ……)
「きゃああ! エリザベスお嬢様!!?」
「お嬢様っ!! お気を確かに!!」
触れた地面には整えられたふかふかの芝生があったおかげで倒れた衝撃はあまりなかった。
空は雲一つ無い快晴。
倒れたエリザベスを覗き込むのは、見覚えのあるお付きのメイドたち。
そして、
「え、あ……。エリ、ザ……」
エリザベスを断頭台へ送った婚約者──セドリック・ド・オルレアンだった。