表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

下層にて

 魔物との戦いが格段に楽になった。

 あの水を飲んだおかげだろう。

 筋肉痛までなくなっているんだからとんでもない効果だ。

 身体強化だけでなく自己修復効果まであるのか。

 ひと口飲むだけで1日は効果が持つというのでカラになっていたペットボトルに入れてきた。

 大事に飲もう。


 中心部から下層へ降りて来たら身体の大きい魔物がいた。

 大きいゾンビは元は魔族だと言う。

 

 「魔族って角は無いの?」

 

 僕の想像する魔族はここにはいない。


 『そんなものは無い』


 って笑われた。


 魔族も人間も同じ人間種として、2人の創造神に造られたのだという。

 同じ人間であっても見た目が違うから恐れられ魔族と呼ばれるのが一般化したのだそうだ。


 アースラは物知りだ。何でも教えてくれる。

ただし、彼の身の上については絶対に喋らない。そういう決まりらしい。


 剣を振るう。


 何度もアースラに指導されたお陰で様になってきた。

 アースラはいい先生だ。

 ぶっきらぼうで、人間に興味はないといつも言うが、僕が死なないためには真剣に指導してくれる。


 僕にはアースラが悪い奴に思えなくなっている。むしろアースラが好きだ。

 もしかしたら今の状況は、僕をこの世界に呼んだ〈誰かさん〉の思惑どおりなのかもしれない。

 アースラを救うために〈誰かさん〉が僕を送り込んだのだとしたら?

 なんだかとてもまわりくどいやり方な気がしてきた。

 人間よりも永い時間を有するというなら彼らなりのやり方なのかもしれない。


 

 下層にいるモンスターは強い。

 魔族ゾンビはしっかり襲ってくるし、四つ脚も身体が大きくて牛やイノシシのようなのがいる。


 中層階から下の方が魔力の循環や命の水の恩恵を強く受けている。

 泉は一箇所しかなく、水は低い方へ流れるからだ。


 宝箱から得られるアイテムの質も上がっている。

 胸当てや手甲など丈夫で軽い物を選んで身につけることができた。お陰で全身装備が完成した。機動性重視の軽量装備だ。

 余ったものはどうしようかと言ったら


 『われの入っていた袋を使え。大体何でも入る』


 というので、あの不思議な袋を使わせてもらう。

 袋より大きいものでも入るのだが、ひとつ入れるたびにほんの少し袋が大きくなっていく。ほんと不思議な袋だ。

 しかし、疑問が湧く。


 「迷宮はなぜ宝箱まで生成するんだ?」


 攻略されるような宝箱まで生成したら不利じゃないのか?


 『それでも多くの人間が迷宮に入るならつりあいが取れる』


 ということらしい。

 損して得取れってことか?

 今でこそ少なくなったというが迷宮に挑戦する人はいる。

 しかし、途中で引き返すのがほとんどで、この迷宮を攻略した人はいないという。

 迷宮が球状に形成されていることなど誰も知り得ないことだ。


 アースラさんが物知りすぎて怖くなってきた。

 ここまできて最大の疑問をぶつける。


 「アースラはどうしていろいろ知ってるの?」


 石に封印されているのに。


 『あぁ。われの身体とチカラはこの石に封じられているが、精神は別だ。われはどこへでもいくことができるし、何でも知ることができる』


 ただし干渉できないだけだ。


  身体といっても肉体が封印されているのではないという。

 概念というか彼を表す彼そのもの。身体とはいったいなんだろう?


 何でも話してくれるのは『嘘はつけない』という決まりらしい。

 アースラのことをいろいろ知ることができて僕は嬉しい。


 中層階から下の魔物との戦いは、まず避けることを覚えさせられた。


 相手の動きを見て、どちらに避けるかまで指示がくる。避けた後で反撃するわけだが、『横薙ぎ』と『縦割り』のどちらかの指示しかない。

 初心者の僕には基本動作のしっかりした剣捌きだけで充分だと言われた。


 左から右への『横薙ぎ』と、真っ直ぐ振り下ろす『縦割り』。

 

 右から左ではダメなのかと訊くと、実際の動きで教えてくれた。


 『剣を持って、手の甲を下に向けて右から左へ振ってみろ。』


 うん。これもありだよね?


 『腕を捻る動きが加わることで肘の軌道がブレ易くなる。』


 そうか。

 

 『相手の攻撃を弾く程度ならいいが、剣術としては力任せの部類だな。お前は覚えなくていい。』


 なるほどね。

 

 『それよりも、基本動作を軸に速さを身につけろ。相手より速く剣を振れるなら隙をつける機会も増える。状況判断の引き出しを増やせ。』


 云うは易し。行うは難し。

 僕に注文が多くないかな?

 筋力が増えないとそこまで辿り着けないよ。



 『この先に強いやつがいるぞ。お前がどれだけやれるか楽しみだな。』


 いやいや。

 回避でしょ、そこは。


 「強いなら戦わなくていいでしょ?」


 僕が死んじゃうよ?


 『強いと言っても生前のやつより弱いさ。あの時は圧巻だったからな。人間の兵士を薙ぎ倒していく姿は惚れ惚れするほどだった。』


 いやあなた、今遠い目をしてませんかね?

 僕を見てね?


 

 それが現れた時、今度こそ死ぬと思った。

 2mを遥かに越えて3m近くあるんじゃないかという巨体が、僕を見下ろしていた。

 

 「やばいじゃん。こんなの!」


 『教えたようにやってみろ。』


 またそれかよ?


 その巨体は棒のような物を振り回したり叩きつけたりしてくる。

 一度でも当たれば死ぬ。


 まずはとにかく避け続ける。

 相手の姿全体を視界に収め、攻撃を見切るには必然的に間合いが遠くなる。

 避けるだけでは僕が攻撃出来ない。


 振り回しと叩きつけだけの単調な攻撃を避けつつ、僕が攻撃できる隙を探る。


 叩きつけの時に、ためが入る。

 ここしかないか。

 だとしても上半身には剣が届かない。

 目の前にある丸太のような太い足を斬れば崩せるかも?


 『相手よりも速く動け』


 アースラの言うことがわかった気がした。

 巨体が振りかぶるのを察知して素早く前に出る。

 目の前の腿に向け、深く抉るつもりで『横薙ぎ』をして後ろへ退がる。


 うまくいったと思った。

 巨体の腿がパックリと割れて骨まで見える。


 ブオオオオオオオオオオオオ


 片膝をついた巨体は大声を上げながら棒を振り回している。


 近づくのも難しくなったぞ。


 『上出来だな。あれを倒すにはひとりでは無理だろう。数で当たるのが定石なんだが戦場では敵無しだったやつだ。一撃入れただけで充分だ。』


 へぇ。そんな奴と戦わせるなんて、鬼畜じゃないか!


 疲れて言葉も出ない。



 あの巨体は魔族の中で特に大きい奴だったらしい。戦場で最後まで戦っていた魔族の中でも、ひときわ目立っていたという。

 その後、何体かの巨体の相手をさせられた。最初のほどは大きくなく、苦戦することもなく、2〜3回斬って動きを封じて離脱する、の繰り返しだった。


 僕の剣は、死なないための剣だ。

 危ない真似はしたくない。



 いよいよ最下層まできた。僕は強くなったし、アースラを信じている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ