表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/22

『願いを叶える石』と昔話

 今より150年ほど前。

 この地に3つの国があった。

 争いはなく国同士の友好は深く、平らかな時代だった。その時代において『石』の所有者は王国最強剣士まで登りつめた男であった。


 若くして剣を極め魔法にも才があり右に並ぶもののない最上の地位を得ていた。それでも飽き足らず、自分の地位を盤石にするために王国の姫を妻にしたいと願い出ていた。


 すべては自身の欲のために。


 姫と結婚することで王国への影響力はさらに増す。すべては男の欲望のままに成就されるかに思われた。


 その頃である。


 北方の大地が何やら騒がしいとの通達が隣国より届く。


 北方の大地は広大で寒冷地帯ではあるが雨雪は降らず、乾いた土地であるため人の集落はない。


 そこには人間達が魔族と呼ぶ種族が住んでいた。

人間よりも身体が大きく褐色の肌をしているのが特徴で、どんな環境にも適応するのだ。

 言語を持っているようだが人間との交流はまったくなかった。人間のように集団生活をせず家族単位で暮らしている。


 そのような社会性のなかった魔族が急速に集団行動をし始めた。

 その中心には魔族より背の低い者が居た。


 国を追われた者が北方の大地へ逃げ延びたと言う話は王国にも伝わっていた。


 権力を欲した男にとって、かの者は邪魔でしかなく謀略により失脚させたのだった。


 (アイツがくる)


 かの者は魔法に優れた王国筆頭の魔術師だった。


 剣と魔法。2人の天才が国を支えるはずだった。

 それを壊した恨みか。


 (標的は俺だろうな。だがなぜ今になって)


 それから数ヶ月後、国が落とされたとの報が届く。

 北方の大地に一番近かった国だ。


 前触れもなく魔族の軍勢が押し寄せ、あっという間に城が落とされたのだという。


 難民が隣国へとなだれ込んで恐慌状態となった。


 そうして混乱の最中、新たな報が届く。

 隣国ではなく滅びた国の新国王を名乗る者からだった。


 〈新たな国王の誕生を祝い、姫を差し出し平伏せよ。さもなければ貴国も滅ぶであろう〉

 

 到底飲むことのできない報に男は怒り心頭であった。

 隣国にも同じ報が届いていたためすぐさま協議が行われ、


 (新国王を討つべし)


 との合意に至ったのは必然である。

 国を滅ぼした悪を討つ。大義名分を得てかの者を斬ることができる。

 男はここへきて歓喜に打ち震えた。


 (アースラよ。俺の願いは盤石だな。お前さえいれば俺は新たな国すら造れるだろう)


 すべては男の意のままに進んでいく。

 


 かの者は魔王を名乗り魔族を従えてやってきた。多くとも300人くらいだろう。


 魔族たちは獣の皮で作った防具を全身に纏い、棍棒や木槌、木を削っただけの槍を持っている。


 隣国との共同部隊は総勢1000人で魔王の国との以前の国境付近で迎え討つ。

 

 男は王国最強剣士の名のもとに先陣をきって斬り込む。魔王となった、かの者を自分の手で討つために。


 そして、血みどろの戦いとなった。


 魔族は強く人間側は多くの死者が出た。

 しかし、戦術を持たない魔族達は次第に数を減らしていった。



 男は魔王の眼前に迫る。


 (今こそ我が願い成就されるべし)


 剣を振りかざし、討ち取ったと確信したその時、魔王の魔法が放たれた。


 魔王は男が自分を斬りにくると確信して魔法の詠唱を密かにしていたのだ。

 その魔法技術は魔王以外到達したものはいない。

 隠し持った7つの宝玉に魔力と共に詠唱を終えた魔法を留めるということをやってのけたのである。



 膝から崩れ落ちる男は魔王となったかの者の顔を見た。


 嬉しそうに笑みを浮かべている。その瞬間、人生最大の怒りが込み上げた。


 (こんな奴のせいで俺の願いは潰えるのか?アースラは何をしていた。俺の願いをすべて叶えるんじゃなかったか?)


 怒りのすべてが呪いへと変わる。


 (俺の最後の願いを聞いてもらうぞ、アースラ。)


 膝をつき今にも倒れんとする中で、命が尽きる前にコイツだけは討たねば気がすまない。


 (道連れだ。俺とコイツの魔力を暴走させろ)

 

 引き攣った笑みを浮かべ、男は魔王を見据える。次第に2人の魔力が溢れて周囲に満ちていく。

 途方もない魔力が拡散することなく滞留して・・・


 男は最後に何か魔法を唱えた。



 2人のいる場所が爆心地となり戦場を飲み込みながら大爆発となった。

 それだけでなく魔力を帯びた衝撃波が二つの国を瓦礫の山に変えてしまった。



 魔力暴走。

 制御を失った魔力が、力の奔流となってあふれて、次第に膨れ上がり大爆発を起こすのである。

 熟練の者が意図的にそれを引き起こすことはできない。



 アースラは男の願いを叶えてきた。


 自身の望みを叶えるために様々な言葉で男の欲を揺さぶり、満足させぬようにしてきた。

 膝をついた男の欲した最後の願いはまさに呪いであった。

 一瞬の綻びで崩れ去った男の願望は一転して呪いとなってしまったのだ。

 

 アースラには魔王の詠唱に気がつけなかった。いくつもの隠蔽と用意周到な準備でアースラの目すら欺いていたのだ。


さすがは天才といったところだろう。



 2つの国が国土ごと消えた。


 魔王が起こした魔力暴走として歴史に刻まれる。魔王の隠し持っていた7つの宝玉と男の持っていた宝玉が2人の魔力を極限まで溜め込んだまま二つの国土に散らばり、やがて迷宮を生み出した。


 迷宮は自らの魔力を維持するためだけに魔物を呼び、取り込んで糧にする。


 討死にした者たちはすべて英雄として記される。

 しかし、願いを叶える石のことはどこにも書かれていない。


 『願いを叶える石』や『アースラ』と言う名前は表舞台にででこないのである。



 話を聞き終えた。

 迷宮の生まれた原因になんとも壮絶な過去だよ。恐ろしくて仕方ない。


 「アースラって呼ばれてたのか。いい名前だね。」


 『ふん!あの男が勝手につけたものだ。われの本当の名ではない。』


「まぁいいんじゃない。僕もそう呼ぶよ」


 『好きにしろ』


 話し終えてからもなんだか機嫌が悪い。それでもまだ気になることがあるので聞いてみた。

 「そのあと150年はどうしてたの?」


 『われの最大の汚点だ!』


 どうやら魔力暴走による大爆発のあと、魔力を溜め込んだ宝玉が散り散りに飛ばされて迷宮を生み出した時に獣が2つの袋を持ち込んだらしい。


 それからミミックが袋を飲み込みずっとそのままだったという。


 「ミミックの、腹の中で、150、年!」


 僕は腹を抱えて笑い転げてしまった。


 『だから汚点だと言っただろう』


 「ごめん、ごめん。」


 これはもう平謝りである。


 『われはもう人間の欲にはつけ入らん。損をするのはわれだと気づいたからな』

 

 人の欲望を刺激することで軋轢を生む。


 確かにアースラのやったことは自業自得なのかもしれない。しかし欲望であったとしても叶えた願いは大きい。

 少しくらい見返りがあってもいいんじゃないかと思ってしまう。


 アースラが可哀想に思えてきた。



 アースラを解放する条件がいまいちわからない。


 人の願いを叶えるのが第一条件だとして付随するのが回数なのか貢献度、もしくは好感度なのか。


 ゲームであれば裏テーマが存在していてクリアするために何が必要か用意されている。

 それにしてもパラメータやステータスウィンドウなどはない。

 条件を満たすための目に見えるメーターなどは存在しないのだ。


 

 この世界は僕に都合よく動いていない。

 それは初めからわかっていたけれど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ