なぜか迷宮攻略へ
僕は腰を据えてこの『石』と話すことにした。
迷宮から出るには『石』の助けを得る必要がある。
それでも悪いやつだったら解放したくないので、情報を引き出そうと思った。
『運命の石』『導きの石』『願いを叶える石』と、時代によって名称は様々だったらしい。幾人もの願いを叶えてきたが封印は解けることなく、今は僕の手に渡ったのだ。
「騙されたんじゃないの?その連れ合いに」
軽く言ったらすごく怒られた。
『馬鹿者!あれはそういったことのできぬ性分よ。今でもわれを封じたことを悔いているだろう。あれを悪く言うのは、われが許さん!」
封印されたのに相手の肩を持つとは、どういう関係だったのだろう。
僕には理解できない。
『この迷宮のことを知らないんだったな?そこから教えてやるか。』
『石』は僕が何も知らない、とわかると迷宮について教えてくれた。
『人間が〔8つの迷宮〕と一括りに呼んでいるものがある。その中でも人間の住む土地に近いものだ。』
8つ?
そんなにあるの?
「じゃあ迷宮から出られれば街に行けるんだな?」
一刻も早くこんなところから出たいよ。
『行けるだろうが馬車でもない限り何日も歩くことになるぞ』
「え?ウソ・・・」
それだと食料が持たないかな?
パンと飲みかけのペットボトルしかない。パンは少しずつ食べるとしても水分は不安だ。
何日も歩くなんて現代人の僕には想像もつかない。
「生きて街まで行くには、どうしたらいい?」
切実な思いだ。
『では、この迷宮を攻略するのはどうだ?』
どうだ?と言われても突拍子もない。
生きるのに必死な状況で火の中に飛び込めと?
『まぁ困惑するのも無理はない。だが、攻略する価値がこの迷宮にはあるぞ?』
人を試すような言い方だ。
誘導するのが上手いのだろう。
この先に利があると。
われについて来いと。
そうやって人の世を渡ってきたのか。
『それにだ。お前の戦いを観ていたが、あんな小物一体に怯えるとは情けない。あれでは外を歩いただけで獣に食い殺されるぞ。』
外も危険なのか。
僕は一般人ですよ。
「誰か来るのを待つというのは出来ないかな?」
助けを待つのは一般人の権利ですから。
『ん?助けを待つか?いつ来るともわからんものを?』
詰んでいると思った。
コイツは迷宮を攻略しろと言うし、助けなんて待つだけ無駄みたいだし。
僕にできるのはは逃げの一手だけだよ。
争いを避けて、面倒を避けて、楽なほうへ流れるまま生きてきたから、今迎えている正念場ってやつに立ち向かえずにいた。
ひとりプラスサポートキャラのみというハードモードで、しかも僕はレベル1の初心者だよ?
これでは死にゲーだ。
無理ゲーだよ。
『石』は続ける。
『お前の願いは生きて街まで行くことだな?そのための助力をわれがしてやると言っているのだ。決して死なせはせん。』
力強い言葉だ。自信があるんだろう。信用してもいいのか?
「弱い僕でも攻略できるの?」
『できる。われがいればな。』
信用できなくても利用するしかない。
怖いけど戦うしかない。
突然始まった迷宮サバイバルは、己の望みを叶えるために人の願いを叶え続けてきた得体の知れない何かの指示のまま、この迷宮を攻略しなければならないという想像もつかない冒険へと発展してしまった。
とんでもない1日だ。
帰り道に人さらいにあった気分だよ。
思い描いた異世界召喚がまさかの地下迷宮に送られるとは。
そこで喋る変な石を拾って、その石が仲間になるとか。
ぶっ飛んだ世界だぜ。まったく。
話し疲れて眠くなってきて、いつのまにか寝入ってしまった。