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えっ?放置プレイなの?

 真っ白な光に包まれたかと思うと足元に現れた魔法陣がさらに輝きを増した。僕は目を開けていられなかった。何が起きたのか、突然のことに理解が追いつくはずもない。右腕で光を遮って光が収まるまで待った。恐る恐る目を開ける。眩しい光はあっという間に過ぎ去って、いったいなんだったのか呆然としていた。

 見回してみるが、六畳くらいの小さな部屋だ。魔法陣とくれば異世界召喚しか思いつかないが期待したものとはかけ離れている。

 「誰も居ないの?」

 心細くなってきた。こういうのは「よくぞおいでくださいました勇者様。」って大勢に迎えられるんじゃないの?僕の場合は放置プレイかよ。異世界召喚といえば、異世界の住人に熱烈に歓迎されて、特別な能力を得て高待遇でのスタートを切るのが定番だと思っていたのに。まさかRPGでよくある最初の家なのだろうか?僕の冒険は称号無しの村人から始まるのか?ちょっと納得いかない。勝手に連れてきて放置プレイなんて、僕は怒ってもいいと思う。なんにしても誰に怒っていいのかもわからないので最初の装備品くらいは見つけておこう。

 この部屋にあったのは鞘に収まった剣だけ。いつ使われたのかわからないほど古く見える。こんな使い古しでもないよりマシだろう。鞘には革のベルトが付いていてズボンのベルトを通せばしっかりと固定することが出来た。剣を装備するだけで異世界って感じになってくる。少しだけ気分が晴れた。今居る部屋に窓がひとつも無いことが少し気になったが、それよりもこのドアの先に何があるのかを知りたくてドキドキしていた。新しい世界の幕開けって気分に浸っていたんだよ。

 それなのに・・・

 「ダンジョンRPGかよ。」

 部屋を出てみたら、ちょっと暗めな通路が左右に延びていた。学校の廊下と変わらないくらいの広さでトンネルのように明かりが等間隔に点いてはあるけど先が見えない。僕はとんでもない場所に来てしまったかもしれない。少しだけ気分が腫れたのにドアを出たらすぐに気落ちした。期待と昂揚感がまたしても打ち砕かれた。先のわからない不安がどっと込み上げる。

 誰か助けて。

 これはもしかして怠惰な僕に誰かが罰ゲームを与えたのか?それとも壮大なドッキリで僕が泣いて許しを請えば元の世界に帰れるものだったりしますかね?確かそんな昔話があった気がする。それはいたずらばかりする悪ガキが鐘の中に閉じ込められるって話だった。そんなことはどうでもいい。こんなことなら、もうちょっと真面目に高校生をやっとけばよかった。後悔先に立たず。先人の言葉の重みを異世界で思い知るとは。がっくり肩を落として嘆いていたが、物音がして顔を上げる。



 ピタリ・・・ピタリ・・・


 誰か歩いてる?


 ピタリ・・・ピタリ・・・



 遠くの暗がりから明かりのあるところへ、影が動いた。ここからはまだ遠くて、何かが動いていることしかわからない。


 ピタリ・・・ピタリ・・・


 静かに歩いて来るのは人か?


 ゴクリ・・・


 嘆いてばかりいられないか。

 ここがダンジョンで相手がモンスターなら、この剣で・・・

 一気に緊張してきた。影が近づく。

 手前の明かりに照らされてはっきり見えたそれは、人型ではあったが人間では無かった。

 「ゾンビ!ゾンビが出た〜〜‼︎」

 ピタリ、ピタリと、ゆっくり歩くものがゾンビだとわかると全身の毛が逆立った。

 や、やれるのか?僕は。

 孤立無縁でここがどこだかわからない。

 突然始まった異世界生活の最初となる出会いは、会いたくなかったグロテスクなゾンビとのエンカウントだった。

 ゾンビがゆっくり近づいて来た。剣を両手で持って構える。心臓がバクバクしている。

 息が詰まる。

 斬れるかどうかわからないが、できなければ死ぬ。

 〈死〉が一気に身近なものになった。

 ゾンビは変わらずゆっくり歩いている。

 僕に気づいてないのか?

 気づいていても、そうなのか?

 やるしかない。やらなければ死ぬだけだ。

 ゾンビが目の前まできた時、思いっきり剣を振るった。

 ズバッ

 斬りつけたゾンビが後ろに倒れる。ジタバタして悶えている姿を僕は見ているだけだった。とてもトドメを刺す気になれなかったからだ。やがて動きが止まり、身体が崩れていく。ゾンビが、黒いシミのようになって消えた。

 「ブハッ、ゴホッ、ハー、ハー」

 喉がヒリついて焼けるように痛い。

 「こんなのっ、無理ゲーだろ。」

 ゾンビ一体でこんなに消耗してたら身体が保たない。精神的にキツい。もう人ではないにしても動きは人間のままだったんだ。すぐには割りきれないよ。

 どこかで休みたい。

 少し歩いた先でドアを見つけてその部屋に入った。

 ゾンビはいない。

 リュックを下ろしてへたり込む。

 ゾンビと遭遇したことで、〈死〉が側にあると思った。生きてるってことが、たまらなく幸福に思う。

 しばらく動けそうもなくて、膝を抱えてぐっと堪えていた。手も足も震える。ああ。情けないな。異世界にきて最初の戦闘でこれではこの先が不安になる。ここがどこかってことも理解出来てないんだ。まずは今日これまでのことを整理してみよう。



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