アースラ解放
朝、目が覚めると、ギルドマスターからは応接室に行って待機するように言われただけだった。昨日と違ってほっとかれる状況になって気が抜ける。
メアリィが来たことで何か変わったのだろうか。
あれからだいぶ経って、メアリィが朝食を二人分持ってきてくれた。
防具を外して服装も変わっていた。少し大きめの服でパンツスタイルだ。露出の少ない服なのでドギマギしなくて済む。
「これから先行班が帰ってくるからって起こされちゃった。」
少々不機嫌そうだ。
僕が起きてからだいぶ時間が経ったように思うが時計がないのでよくわからない。
「もっと寝たかったのに。」
パンを頬張りながらグチを言ってる。
食事を終えてからメアリィは、いたずらを思いついたように笑って言う。
「ね。抜け出しちゃおっか?」
「それはまずいって」
何を言う。
「ま。そうなのよね。じゃあ昨日の続きね。いろいろ聴かせてよ。」
メアリィの目は宝石箱を見つけたかのように輝いている。
僕はこんなキラキラした目を向けられたことは今までにない。
勘違いしてしまいそうだ。
メアリィはとても眩しく、僕が一生かけても出逢えない輝きを持っていた。
僕だけのアイドル。
これだけ可愛いなら男がいても不思議ではないが、あったばかりの女の子にそんなことを聞く勇気は僕にはなかった。
ギルドマスターが応接室に入ってくる。続いてもう一人。
「ステファンさん。お疲れさまです。」
「メアリィもね。昨日は大変だっただろう。緊急招集まで来ることはなかった。」
「うん。でもこなくちゃいけない気がしたの。」
「そうか。無理はするなよ。」
メアリィとステファンさんが親しげに話す。
ステファンさんは二十代前半くらいだろうか。メアリィとは歳が離れているようだから男という線はないはず。
メアリィのせいでそんな思考になってしまう。
「こいつは話には加わらないが同席させる。いいね?」
マスターは真剣な顔つきだ。
「ステファンさんなら平気だよ。大丈夫だから。」
メアリィが僕を見て言う。
心配してくれてる?
僕がうなづくと、マスターが話し始める。
「調査隊からの報告では瓦礫周辺の脅威度は低い。内部の状況把握に移行したいが、現状は瓦礫を退けるのに時間がかかる。となると君の話しを聞いておくのがいいと思ってね。」
ギルドマスター、僕、メアリィ、ステファンさんの4人で話すことになった。
「お父さま、彼の名前を考えたの。アーサーよ。」
「おお。そうか、助かる。君はそれでいいのか?」
「はい。」
「私は、アーサーのことを信じるから。」
メアリィが擁護してくれるのが不思議で仕方ない。初めて会った見知らぬ男の言うこと信じる根拠はどこにもないはずだ。
迷宮で起きたことというより僕に起こったことを話すことにした。
僕にとっては順序が違うからだ。
魔法陣に触れたら見知らぬ場所だったことや、それから石を見つけたこと。
「石とは何かね?」
「これです。」
アースラの封印された石をテーブルに置く。
メアリィが口に手を当てて目をパチクリさせている。
「これが願いを叶える石です。」
マスターとステファンがお互いの顔を見て目配せする。
「本物なのか?いや、私には本物かどうか判断が出来んが。噂や昔話でしか聴くことがなかったものだ・・・」
願いが叶うというなら誰もが欲しがるだろう。しかしそれは一度も味わえば手放せなくなる。自身の生活を顧みず欲望にはまっていく。
「存在自体は王宮が隠してきた。それでも噂話までは止められん。だから作り話として流し教育に利用されてきた。この国で産まれたものなら、石の所持者の栄光と破滅の顛末を教えこまれる。」
都市伝説にされてるんだ・・・
「魔王襲来以降、噂話すら消えたが迷宮にあったとはな。」
実際に見るのは初めてなのだろう。
人の世を騒がせた伝説を目の当たりにして、腫れ物に触れたような顔の大人2人と、怖いもの見たさのメアリィの顔も、どちらも驚愕という意味では同じだ。
「何を願ったのかね?それ次第では話が変わってくるぞ。」
きつい目つきで僕を見る。
それに対して毅然と返す。
「僕が願ったのは簡単なことです。迷宮から出て安全な街へ行くこと。」
「・・・それだけか?」
目を丸めている。
睨みが効かないばかりか、想定外の返答に肩の力が抜けたようだ。
「願いをなんでも叶えるというのに?」
「はい。僕にとって迷宮の中に1人きりという状況は死活問題でしたので、最優先でした。」
ぶっ、っと吹き出して大笑いになった。
「そうか、そうか。確かに死活問題だ。」
顔に手を当てて「参った」という顔だ。
「石が言うには迷宮を攻略出来れば街まで一人で歩けるとのことなので攻略したんです。もちろん石の助言があってこそです。」
ふー、とマスターは息を吐く。
「ことが大きくなってきたな。魔法陣に召喚。それから禁忌の石。迷宮が沈黙したと断定して動くべきだな。」
僕はここぞとばかりに身をのりだす。
「信じてもらえますか?」
「信じるしかないだろう?それを見せられちゃな。」
マスターは、やれやれといった顔でおどけて言い放ったが、すぐに真剣な顔つきになった。
「だがな、石を使った者は王宮が無視できんぞ。魔王の時に石が関わってるんだ。王国の筆頭剣士が持ち主と断定されている。150年経ったとはいえ、国が二つ消えた事実を王宮は見過ごせない。」
この世界の責任ある大人たちにとって最重要案件らしい。
僕の世界の言葉で言うなら、タブーでありシークレットなXファイル的なやつっぽい。
「それならここで解放しましょうか。」
身の安全を図るなら、人前で封印を解いてしまうほうがいい。
「何?出来るのか?数千年、人の手を渡ってきた怪物だぞ?」
コロコロ呼び名が変わってますよ?
「できる、と思います。彼は最初からそれを望んでいるんです。」
僕には当てがあった。
解放するのに必要なことは「僕ら」にとっては当然のことだった。
「信じられん・・・」
マスターはヘナヘナとソファに背を埋めた。
僕は意を決してアースラと話す。
「待たせたね、アースラ。」
『ああ、なんのこともない。』
「何度も助けてくれたおかげて街へ来れた。少し大変なことになったけど、きっと大丈夫。僕の願いは叶った。君のおかげなんだ。ありがとう。心からお礼を言うよ。」
『ああ。うまくやれよ。』
アースラの声は僕にしか聴こえない。何が起こるのか、皆が固唾を飲む。
アースラの返答のあと、紋様のところにひびが入って煙のようなものが出て、すぐに消えた。
お別れはやけにあっさりしていた。
僕は泣くかもと思っていたくらいだったのに、街に来てからのほうがいろいろある気がする。
「終わりなのか?こんなことで永く人身を惑わせた悪神が去ったと?」
「はい。封印を解く方法は心からの感謝だったんです。今まで誰も感謝を口にしなかったんじゃないですか?」
人は1を得れば10を求める生き物。
なんでも叶えると言われれば貪欲になってしまう。
僕の場合は迷宮という極限状態での願いだから、感謝以外あり得ないんだ。
「ねぇ。解放した後はどうなったのかな?」
マスターと僕の会話をじっと聞き入っていたメアリィが訊いてくる。
「この世界に興味はないから別の世界を創りにいくんだって。」
それからは今後の対応策を話し合った。話し合いというよりマスターがどんどん決めていくのを他3人が同意していく、確認作業みたいになった。
まずは神殿へ行って石を納める。
神殿には創造神である慈愛の女神が祀られていて、女神が夫神を封じたという伝記があるという。
「石の状態を鑑定してもらうのがいいだろう。そこで脅威なしと判定されれば次は王宮への報告をすることになる。神殿の鑑定書があれば王宮もすんなり受理するはずだ。それでも王宮から監査がくる。厳しい目を向けられるだろう。辛抱するしかないな。その後は監視対象となるかもしれん。そこはまぁ、おいおい考えるかな。」
言い終えて、マスターは頭をポリポリかいている。何か策があるような、僕にはわからない手を考えているのだろうか。
「で、最後になるが調査中の崩れた迷宮についてだ。」
迷宮は攻略されて沈黙した。
迷宮の主を倒したのはモグリのハンター。
迷宮最奥で死体が発見される。
という筋書きでいくそうだ。
最奥まで調査する部隊の人選は厳選する。
これで万事解決丸く収まって僕は渦中の人にならずにすむ。
厄介ごとはマスターに任せれば丸く収まる、これは長くハンターをやっている者の共通認識らしい。
重要なキャラ。アースラとあっさり別れる。それは異世界から来た主人公だからこそできたことだろう。




