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混沌都市のデカイ姫騎士と”推し活”異世界人達  作者: ライラック豪砲
第一章 混沌都市のデカイ姫騎士

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第八話 姫騎士とA級冒険者

用語


・A級冒険者

 遺跡帝国が定めた冒険者の格付け制度の内、上から二番目のランク。

 Sは実力に加え名誉やもたらした国益などを踏まえて評価されるため、実質的な最強格。

 上からS、A、B、C,D、Eランクに格付けされる。


・コロンポンの世界のエルフ

 妖精種ではなく、確固たる肉体を持つ亜人種。

 森林地帯で狩りをして暮らす不老長寿の種族。

 天性の魔法、弓矢の才能を持ち、中でも矢に付与魔法で様々な効果を付ける付与弓兵としての技能に優れている。

 そうして態勢を整えた二人は、トラップを警戒しつつ慎重に通路を進んでいった。

 通路のあちこちに、WDの残骸が通路に散らばり、かすかに火花を散らしていた。

 今は何も探知しない頭部のカメラが二人を映し出していた。

 

「前衛の二人がいない今、トラップにかかるとまずいですね……どうしますか大佐?」

「……WDの探知では、この通路にはトラップは無いということだったからね。そこまではWDを信じよう。角を曲がった後は……」

「後は?」


 大佐は申し訳なさそうな顔をしつつ、姫騎士の身体をさわさわと撫でまわした。


「大佐……?」

「コロちゃんの、身体の頑丈さに賭けるしかないね」

「大佐!?」


 姫騎士の小さな悲鳴の後、諦めた姫騎士は身構えつつ通路を進んでいった。

 幸いにも曲がった直後の魔法による攻撃や、危険なトラップの類はほとんど無かった。


「釣り天井に仕込み矢、トラばさみ。コロちゃんなら問題ないトラップで助かったね」


 大佐は宙に浮いた革手袋で姫騎士が罠を受けた場所を撫でた。

 どのトラップも通常の人間なら危険な代物だったが、姫騎士の身体の頑健さの前にはかすり傷だ。


「けど、敵はどこに誘い込むつもりなんでしょう? 曲がり角やトラップの発動直後はチャンスだった筈なのに……逃げたんでしょうか?」


 姫騎士の疑問に、大佐は少しだけ考え込んだ。

 通路の奥の暗闇を宙に浮かせた電灯で照らし、ジッと見つめる。


「もしかすると、向こうもそれなりに被害や損耗が出ているのかもしれないな」

「被害ですか? けど、そんなに攻撃した覚えがないですけど」

「私がライフルで滅多打ちにした時に誰かに当たったのかもしれない……。8mm弾に高威力化の術式を込めたからね。かすっただけでも威力は大きいはずだ。手に当たれば指が何本か飛ぶはずだよ」

 

 大佐が用いている弾丸は、その全てが魔力装填弾だった。

 魔力装填弾には使用時に様々な効果を込める事が可能であり、メジャーな所では高威力化、貫通力強化、炸裂、焼夷などがある。

 

 高威力化はこのうちもっともポピュラーな効果で、単純に弾丸の威力を増すことが出来る。

 大佐の魔力量で施したその威力はかなりのもので、姫騎士は大佐が高威力化した弾丸を受けたアウトローが腰から真っ二つになったのを目撃した事があった。


「痕跡は無かったですが、そうだといいですね」

「まあ、もしかすると単純に……」

「単純に? ……あっ」


 会話は途中で中断された。

 大佐の言いかけた事が、はっきりと目の前の光景に現れていたからだ。


「……単純に、待ち伏せや彼らの戦闘に適した場所があるからだね……はあ、これは厄介な」

「腰を屈めないと……」


 そこに広がっていたのは、天井の低く幅の狭い通路だった。

 それまで姫騎士の身長でも飛び跳ねる事が出来るほどだった天井が180cmほどにまで低くなっている。

 さらに幅も問題だった。

 それまで重装備の人間が余裕ですれ違う事が出来た道幅が、すれ違うのがやっとなほど狭くなっている。


「おまけに……脇道だらけと来てる。奇襲し放題じゃないか」


 大佐の言う通り、この狭い通路には十数歩ごとに左右に脇道があった。

 脇道の先がどうなっているのかは探索しなければ分からないが、もし脇道同士が繋がっていれば絶好の奇襲箇所となる。


「しかし、こんな都合のいい場所があったとはね。運のいい連中だ」

「残念だが幸運だけではこうはいかない。魔法と肉体労働で作らせてもらった」


 唐突に響いたのは、若い男の声だった。

 姫騎士と大佐は即座に戦闘態勢に入る。

 だが、狭い。

 特に後方にいる大佐は射線の確保が困難になり、姫騎士の隙間からライフルを突き出す形になり照準を付けるのが困難だった。


「……陣形を間違えたかな?」


 大佐が半分本音、半分軽口と言った調子で言った。


「この状況ではどの道です。……しかし、わざわざ声を掛けて来るなんてどういうつもり……」


 姫騎士が疑問を口にすると、その疑問をさらに拡大させる事態が起きた。

 十数メートル程先の脇道から、先ほどの剣士が姿を現したのだ。


 フルフェイスの兜に革鎧。

 短剣に、先ほどの小型盾よりさらに小さいバックラーを持った剣士。

 戦闘態勢にすら入らず堂々と通路の真ん中に立っている。


「突然申し訳ない。私はA級冒険者チーム”成功者”のリーダー、スレインだ。前衛の女戦士……竜王国王女コロンポン・ドラグニア様とお見受けするが相違ないか?」


「答えるなコロちゃん……罠だ」

 

 スレインと名乗った男の言葉を、大佐は即座に罠だと主張した。

 この状況下で会話で注意を引く。

 古典的だが、有効な常套手段だからだ。

 だが……。


「……正々堂々と名乗られ、問われては無下には出来ません。如何にも。竜王国王都治安騎士団団長、コロンポン・ドラグニアである」


 姫騎士の後ろで大佐は天を仰いだが、すぐに気を取り直した。

 前方のスレインに注意を払いつつも、その後ろの脇道や後方に警戒の目とライフルを向ける。


 一方で、答えを得たスレインは持っていた短剣を鞘に納めた。


「治安騎士団……それが今のあなたの肩書か」

「……そうだ。いろいろと、あってね」

「それは見れば分かる。可憐で小さな姫騎士が……ご立派になられた」

「……スレイン殿、私と会ったことが?」


 姫騎士が尋ねると、スレインはゆっくりと首を横に振った。


「お会いした事はないが、故あってお姿は知っている。そして、あなたとお会いできたからには言わねばならない。どうか、私たちと共に来ていただけないだろうか? そうしていただければ、我々はこのダンジョンから大人しく引き上げると約束しよう」


 落ち着き払った口調からの、提案。

 だがそれに対する返答は素早かった。


「断る」

「……ほう。無難な道を廃するか、姫?」

「無難な道? 何を言う! 共に来るのは君たちの方だ!」

「なんだと?」


 スレインの口調に困惑の色が滲む。                                                                      


「当然だろう、”成功者”諸君。君たちにはダンジョン内での冒険者襲撃、及びモンスター暴走への関与の容疑が掛かっているんだ。治安騎士団として、君たちを見逃すわけにはいかない。大人しく捕縛されろ!」


 姫騎士の一喝。

 だが、スレインの態度は落ち着き払ったものだった。


「……まあ、そうだろうな。受けられても困ったが、そう言ってもらえると助かるよ。では、コロンポン様。姫騎士の実力、見させてもらおう」


 スレインの言葉に、身構える姫騎士と大佐。

 大佐の注意の通り、やはりこの会話は何かしらの目的を持った時間稼ぎだったのだ。


 だが、スレインは動かない。

 棒立ちのまま姫騎士を見つめたままだ。


「……何だ?」


 姫騎士の呟きの瞬間だった。

 スレインの額の辺りから、突然矢が飛び出してきた。


「幻影か!」


 大佐の指摘通り、矢が通過した瞬間スレインの姿が掻き消えた。

 通路の向こう側、光の届くギリギリの位置に弓を構えた人影が見えた。

 胸だけに革鎧を着込み、布の服を着こんだ軽装の女。

 白銀の短髪に、緑色に輝く瞳……。

 高練度の支援に特化したシーフだ。

 幻影を出して、その奥で矢を構えていたのだ。


「正面からの矢なんて!」


 だが、姫騎士にとって矢など容易に防げるものだ。

 先ほどと同じように手で払いのけようと、左手を振り払う。


 そして、鮮血が舞った。

 手の平を、まるで布を貫くように簡単に矢が突き破ったのだ。


「ぐっ!」

「コロちゃん!?」


 姫騎士が呻き、大佐の悲鳴が響く。

 トラップをものともしない姫騎士の肉体があまりにもあっさりと貫かれていた。

 手の平に突き刺さった矢を見つめて、姫騎士は呟く。


「矢への魔法属性付与……エルフ……私の世界の、エルフ族!」


 姫騎士の瞳は、先ほどまで見えていたシーフの耳が大佐と同様に尖っていたのを捉えていた。

 妖精種では無く、亜人種としてのエルフ。

 姫騎士の世界における、天性の付与魔法の達人たちだ。


「ご名答」


 姫騎士のすぐ目の前、左側の脇道から声が聞こえる。

 近い。

 慌てて姫騎士は狭い通路で窮屈そうに構えを取る。


 そして、右側の脇道から飛び出してきたスレインによる短剣の突きを、脇腹にまともに受けてしまう。


「くぅ!」

「コロちゃん!!!」


 幸いこの攻撃には特段の付与などがなかったため、皮膚を裂くにとどまった。

 だが、完全装備の男に鋭い短剣で突かれた衝撃は内臓へのダメージとなる。


 急ぎ大佐が姫騎士の隙間からライフルを発砲する。

 ライフルは一発だけ命中弾を出したが、先ほどの戦闘同様に「光壁よ!」という叫びが響き、生じた障壁によって弾かれる。

 さらに外れたライフル弾が壁を破壊した際の硝煙と粉塵が、二人の視界を塞ぐ。

 スレインは素早く飛び出したのとは反対の脇道へとそのまま逃げていった。


「そうか。こちらの銃の特性を知ったうえで、あえて脆く造って」

「ご名答」


 大佐の呟きに対し、再び響くスレインの声。

 今度は右の脇道から。

 思わず左を警戒する姫騎士。


 しかし、スレインが今度飛び出してきたのは、背後からだった。


「あんたの防御力はどれほどかな?」


 明後日の方向からの声により翻弄され、反応が遅れた大佐に手練れの冒険者の刃が迫る。

 

(音の偽装……だけじゃない! 短距離転移……本職の魔法使いによる支援魔法だ)


 ここに至り、姫騎士は敵の魔法使いの能力が攻撃よりも幻惑に特化している事に思い至った。

 そう考えると、先ほどの高威力の攻撃魔法すら今の状況を作り出すための仕込みだった事すらあり得た。

 対象の認識すら利用して相手を追い詰める。

 地味で手間のかかる戦法だが、上手くハマればこれほど有効で厄介な戦法もない。


(手練れ、どころではない。ダンジョン戦闘に特化した、その道では最高峰の……)


 姫騎士の思考はそこで中断された。

 大佐にスレインが迫るのと同様に、姫騎士にも付与魔法によって必殺の威力を持つ矢が無数に迫っていたからだ。

登場人物


・スレイン

 冒険者チーム”成功者”のリーダーを務める若い人間の男。

 ストイックな性格で、冒険中は兜を脱がないという堅物。

 頑強な装備に反して機動力と攪乱を重視したトリッキーな戦法に長けている。



という訳でいよいよ本格的なダンジョン内戦闘です。

姫騎士と大佐の運命や如何に!


次回更新は5月11日の予定です。

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