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混沌都市のデカイ姫騎士と”推し活”異世界人達  作者: ライラック豪砲
第一章 混沌都市のデカイ姫騎士

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第七話 姫騎士とダンジョン探索―2

用語


・近衛騎士団

 竜王国王都に駐留していた精鋭騎士団。

 王族の護衛を主な任務とするが、魔族との戦いでは前線へも投入された。

 コロンポンが団長になったのは魔王軍との戦闘の末期。

 人材不足もあったが、勇者の力を持ち魔王を倒しうる者として認められた故だった。


・ブラスターガン

 WDの主兵装。

 様々な威力のプラズマを射出する事で標的の神経や筋肉組織に直接ダメージを与えて無力化、ないし殺害する兵器。

 生物相手には無類の強さを誇るが、ある程度の装甲や防御装備で容易く無力化されてしまうため、基本的には非殺傷兵器として用いられる。


・プロテクション(光壁よ)

 竜王国のあった世界の代表的軍用防御魔法。

 支援役を務める者の反射速度では防御魔法が敵の攻撃に間に合わない、という欠点を因果律への干渉という高度な術式で解決した画期的な魔法。

 つまり、発動した時点でごく短時間だけ時間をさかのぼって発動したことになり敵の攻撃を防ぐという魔法である。

 防御能力にブレがあるのが欠点。


・炎雷よ

 竜王国ではファイアボルトと詠唱される魔法。

 高速で飛来する火球を射出する魔法。

 火球は超高熱で対象を融解させ、しかも命中後爆発するという必殺の威力を持つ。

 その分発動に時間がかかり、消耗も大きい。


・遺跡帝国

 竜王国北方にあった竜王国を遥かに凌ぐ大国。

 国内に先史文明の遺跡を大量に抱えており、そこに国営冒険者ギルドの冒険者を派遣することで遺物を得ていた。

 

「……前方15m、異常なしマーム」

「了解だ紙。探知しつつ前進する紙!」

 

 WDと紙兵の無機質な声と間の抜けた声が響く。

 次いで紙兵が銃剣をゆっくりと自分の頭上から床まで振り下ろし、最後に床を軽く押す。

 そして押した床の部分までポテポテ、カシャカシャと音を立てて前衛コンビが前進する。

 前進すると再び紙兵が銃剣を振り下ろし、床を押すとまた前進……。


 そうして10m進むと、またWDが石造りの墳墓内をセンサー類で走査し、また進む。

 それは遅々とした、非常に慎重なダンジョン探索だった。

 

 ダンジョンの罠は、単純なダメージを与えるようなものばかりではないのだ。

 一度かかってしまえば脱出困難な罠や、致命傷を与える複雑な罠。

 呪いや身体機能の制限の様な悪辣な魔法的な罠。


 そういった単純な戦闘能力では回避不能なものも多い。

 だからこそ、トラップの専門家であるシーフを治安維持用の機械で代用している現状にあって、この慎重さは当然のものだ。


 だが、理解していても心情まではそうはいかないのが人間である。

 特に今日初めてダンジョンというものに潜った姫騎士などは……。

 

「……大佐、ダンジョン探索ってさ。読んだり聞いたりしたのと違って……暇、だね」


 姫騎士が小声で後ろの大佐に話しかけた。

 ダンジョン探索について冒険者の武勇伝や、創作物や冒険者の宿にある報告書といった読み物でしか知らない姫騎士にとって、この単調な作業じみた歩みは想定外だったのだ。

 

 そんなベテラン冒険者ならば眉をしかめるような姫騎士の言動に対しても、アナベル大佐は優しかった。

 いつもの姫騎士に対してだけ行われる甲高い声で応じる。


「そうだねコロちゃん。けど、こうして慎重に進むのがダンジョン探索のコツさ。ダンジョンと言えばモンスターとの激戦なんかが注目されるけど、こうして慎重に進み、悪辣なトラップを避ける事こそが肝心なんだ。そうだな……。行軍と一緒さ。軍を率いて進むときだって、ほとんどがただ歩くだけだろ? だが、そうして歩く事こそが……」


 大佐は騎士団を率いた事のある姫騎士に気を使ってたとえ話を始めた。

 だが、姫騎士は気まずそうに大佐の言葉を遮った。


「ごめんなさい大佐。私の騎士団はいつも転移魔法で移動していたので……」


 しばし沈黙が生じた。

 姫騎士が王族ながら近衛騎士団を率いることになった頃には、すでに竜王国はかなり追い詰められていた。

 戦場は王都近郊にまで迫り、近衛騎士団といえども王都に温存する余裕などなく、そして新たなる指揮官の姫騎士にはろくに引継ぎや訓練の時間も無かった。

 故に、姫騎士はその腕っぷしとカリスマだけを以て近衛騎士団を率いていた。

 細かな指揮や行軍のノウハウなど学ぶ余裕なく、転移魔法で戦場に行き、個人武勇だけを頼りに先頭に立って切り込み、敵を倒してきたのだ。


「……大丈夫。コロちゃんは何も恥じる事はないさ。軍の目的の第一は敵を倒すことなんだからね。ただ、今覚えておいてくれればいい。軍にしろ、冒険者にしろ。華々しい戦いよりも、そこに至るまでの方が長く、重要だって言うことをね」

 

 いつもの優しい言葉と共に、宙に浮かぶ革手袋が姫騎士の頭を撫でる。

 大佐は姫騎士に対して、いつだって優しい。

 そんな彼女の態度は、姫騎士に会った事のない祖母の様な柔らかく甘い優しさを感じさせる。


(けれども、どうして大佐は私にこんなによくしてくれるんだろう? 腕っぷしだけの、こんな身体のデカい女を……)


「大佐は…………っ!?」

「コロちゃん!」


 そうして、姫騎士が疑問を口にしようとした瞬間。

 後衛にいた二人は気配に気が付いた。


 一瞬。

 ほんの一瞬だが、強烈な殺気を感じたのだ。

 前方の通路。

 明かりで照らしきれない闇の中に、赤く光る眼が見えた様な、そんな感覚。


 それは、機械や魔力探知と言った技術的なものではない。

 長年戦いに身を置いた者特有の、ある種の勘だった。


「どうしましたかマーム?」


 唐突な二人の反応にWDが疑問を呈する。

 紙兵も同じように困惑しているが、こちらは銃を前方に向け警戒態勢を取っていた。

 WDと違い人間以上の探知能力を持たないからだ。

 WDは違う。

 WDのセンサーには殺気のような曖昧な気配などを感知することはできない上に、それ以外の反応が無いという事実をすでに認識している。

 それ故に、後方の二人が突然騒ぎ出したのを疑問に思っているのだ。


「WD、もう一度走査して。前方から……殺気だ!」


 姫騎士が通路の遥か先、明かりでも照らしきれない闇を見据えながら叫ぶ。

 

「ピッ、しかしマーム。すでに十秒前に走査を……」


 WDの、珍しく困惑という感情のこもった音声は、最後まで発声されることはなかった。


「かみッ!」


 という紙兵の短い悲鳴と共に、突然紙兵の頭部が斬り飛ばされたからだ。

 紙風船に墨で書いたような間の抜けた顔が驚愕に染まり、次いで石畳に転がる。

 殺気を感じた闇を警戒していた後衛の二人ですら、反応できなかった。

 崩れ落ちる紙兵越しに見える、フルフェイスの金属兜に革鎧をまとった剣士。

 兜のスリット越しに怪しく光る目に宿る殺気が、先ほどの感覚の主がこの剣士であることを示していた。


「!!! 敵襲マーム!!!」


 あっけなくぽてんっ、と床に転がる紙兵をよそに、WDがとった行動は素早かった。

 いつの間にか紙兵の眼前に出現していた敵性存在に対して、即座に反撃を試みた。


 独特の発射音と共に生物の神経系にダメージを与えるプラズマが即座に射出される。

 銀河連邦のブラスターガンはある意味必殺の武器だ。

 暴徒鎮圧の非殺傷モードだろうが殺傷モードだろうが、命中さえすれば相手の神経や筋肉にダメージを与え、一撃でノックアウトさせることが出来るうえ、弾速も亜光速に達するという凄まじさだ。


 だが、WDの動きとほぼ同時に響いた声がそれを許さなかった。


光壁(こうへき)よ!」


 凛とした幼さを感じさせる少女の声がダンジョン奥の暗がりから響くと同時に、発射されたプラズマがあっさりと霧散する。


「馬鹿な!? 亜光速のプラズマだぞ!? それを……」

「違う、大佐! 発動時に因果律に干渉して自動的に防ぐ……防御魔法だ!」


 驚愕する大佐に対して姫騎士が叫ぶ。

 竜王国では”プロテクション”と呼ばれる防御支援魔法だった。

 

 軍用に開発された強力な魔法で、防御力もさることながら発動すると同時に因果律に干渉し、数瞬だけ時間を遡行して発動するという特長があるのだ。


「やはり、王国の……」


 大佐は敵に攻撃を加えるべく、前にいる姫騎士から半歩身体をズラす。

 そうして射線を確保すると、剣士に向かって四丁のライフルを向ける。

 同時、小さな影が大佐の視界に入った。


「大佐!」

「くっ!」


 敵の方が上手だった。

 大佐が照準を付けたその時には、すでに敵は手を打っていた。

 姫騎士と大佐を狙った矢が一本ずつ、すでに眼前といっていい場所に飛来していたのだ。


「舐めるな!」


 姫騎士の声が響く。

 タイミングこそ秀逸だったが、この程度の攻撃ならば二人にとって脅威ではない。

 姫騎士は素手で。

 大佐はヌルハンダーによって浮いた革手袋で矢を払いのける。

 しかし、敵の意図に気が付いた大佐が警告を発した。


「牽制だコロちゃん!」


 一瞬の防御の隙に、敵の騎士が突撃の姿勢を取っていた。

 位置取り的にWDをすり抜け、後衛の姫騎士を狙っているように見える。

 姫騎士は慌てて構えを取り、全力の拳を以て剣士を向かえ討とうと……。


炎雷(えんらい)よ!!!」


 ダンジョン後方の暗闇から再び響いた大音声が、そんな姫騎士の行動をかき消した。

 先ほどの防御呪文とは違う、今度は成人女性の声だった。


「大佐!」


 姫騎士は咄嗟に後方に……。

 つまり大佐の方へと跳躍。

 庇うように覆いかぶさった。


「コロちゃん!?」


 一瞬嬉しそうな大佐の悲鳴が響くが、次いで生じた轟音がそんな歓喜を覆い隠す。

 爆発で石畳が砕け、ダンジョンの壁にひびが入る。

 ばらばらと降り注ぐ砕けた石畳や壁の破片、WDの部品が姫騎士の背中を殴りつける。


「くううっ、コロちゃん!!」


 爆発の衝撃と煙が未だ晴れぬ中、大佐は床に落ちたライフルを慌てて浮かせると、剣士がいた位置に乱射した。

 今の状況で、突撃や再びの魔法攻撃を避けるためだ。


 手ごたえこそ無かったが、敵は慎重を期したのか仕掛けてはこなかった。


「爆裂式の高威力魔法か……やはり、王国民なのか?」


 身を起こしつつ、大佐が尋ねる。

 だが、姫騎士は首を横に振った。


「違います。あの呪文、あの訛り……。あれは帝国のものです。竜王国北方の、世界最大の冒険者の国、ダンジョンとなる先史文明遺跡の中心地。遺跡帝国の冒険者……しかもかなり手練れの!」


 姫騎士が身を起こすと、ちょうど煙が晴れた。

 通路の奥に、慌てたように角へと身を隠す四つの人影が見えた。

 先ほどの革鎧の剣士、弓矢を持った小柄な影、ローブのような服装に杖を持った者、同じくローブ姿でメイスを持った者。

 見た限り、非常にバランスのいいパーティーのようだ。


「逃げた?」

「いいや、コロちゃん……あれは誘いだ。上手い、なるほど。これは手練れだ」


 大佐は楽しそうに呟くと、四丁のライフルに弾丸を装填した。

 そんな大佐を見て、姫騎士は緊張したように尋ねる。


「誘いに乗りますか?」

「当然さ」


 珍しくいつもの声色のままで大佐は応じた。

 その表情には、これまた珍しい愉悦の色が濃く出ていた。


「こう見えてね。可愛い人間からの誘いは断った事がないんだ」


 冗談なのか本気なのか分からない大佐の言葉に、姫騎士は曖昧な笑みを返した。

次回更新は5月7日の予定です。

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