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混沌都市のデカイ姫騎士と”推し活”異世界人達  作者: ライラック豪砲
第一章 混沌都市のデカイ姫騎士

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第七話 姫騎士とダンジョン探索―1

用語


・10フィート棒

 10フィートの棒は10フィート (3m)の長さの木製の棒。

 ダンジョンを探索する際冒険者がこの棒を持ってダンジョン内の先をつつくことで、安全を調べることに用いる。

 今回紙兵が用いる銃剣付きライフルの長さは1.7m程度なので、10フィート棒に比べると探知に用いるには短め。


・戦車

 タチハナ大尉が所有する大扶桑皇国陸軍の戦車。

 今回用いられてるのは軽戦車と呼ばれる小型の車両で、重量約七トン程。

 紙兵三名で運用され、武装は主砲に37mm戦車砲一門、砲塔後部と車体前面に重機関銃×2。

 エルフによる第三帝国の戦車に比べると非力だが、対人戦闘や市街警備には十分な性能を持つ。


「大佐、流石ですね」


 姫騎士が紙兵とWDを連れて大佐の所へ駆けつけながら声を掛けると、大佐はゆっくりと振り返った。


「いや……もう少しスマートに済ませたかったんだけどね。思ったより硬くて手間取ったよ。……やっぱり馴染みのある……」


 大佐はそこまで言うと、言葉を止めた。

 そして、無意識に触れていた腰に差してあるロングソードの柄から手を放す。

 視線は姫騎士の背後にいる紙兵とWDに向けられている。


「……大佐?」

「……ごめん、何でもないよ。さあ、準備はいいかい? コロちゃんはダンジョンは初めてだよね」

「はい。一応、今日来るにあたって下調べはしてきましたが……大佐はやっぱりお詳しいんですか?」


 姫騎士が尋ねると、大佐は彼女に歩み寄り皮手袋を纏わせた不可視の手で頭を撫でた。

 小さく、「もふもふ」という呟きが大佐の口から漏れる。


「まあね。ダンジョン探索に関する報告書には目を通しているし……ここには潜ってないけど、昔ダンジョン探索自体には経験があるからね」

「昔……ですか」


 姫騎士は思わず絶句した。


 エルフは長寿である。

身体と精神が赤ん坊から成人に達するまでにおおよそ50年ほどもかかり、その後はほぼ老化せず、いつまでも若々しい種族だ。


 とはいえ、そこは妖精種という通常の生物とは違う存在である。

 その存在は精神性に大きな影響を受けるため、だいたい500年ほどもすると人間で言う所の中年の様な特徴を持つようになり、1000年ほども経つと精神的な老化は痴呆の様な症状とそれにともなう衰弱をもたらし、死に至る。


 だが、その中でもこのアナベル大佐はひと際長く生きている節がある。

 エルフと言えども10年と言えばそれなりの時間なのだが、大佐は姫騎士と話すとき常に「この前」「さっき」という言葉を使い10年前事を表現するのだ。


 駐留軍司令などを交えて話した経験も姫騎士にはあるが、その際も数十年……もしくは500歳程の駐留軍司令が子供の頃の事をごくごく最近の様に話していた。


 その大佐が「昔」などという言葉を使ったのだ。

 少なくとも姫騎士は初めて聞いた。


(いったい、どのくらい前なんだろう)


 姫騎士は疑問を覚えたが、口にはしなかった。

 自分を可愛がってくれる、まるで祖母の様なこのエルフの触れてはいけない部分の様な気がして口にするのが憚られたのだ。


「……懐かしいな。王国の戦士に誘われて、一緒に姫を助けに行ったっけ。戦士の友人の神官。学院の賢者……王都の盗賊にクソドワーフ……みんなの顔も名前は忘れたけど、あの冒険は覚えてる」

「…………」


 姫騎士は、感傷に浸る大佐をジッと見ていた。

 彼女の呟きは途中から翻訳魔法でも補助しきれない言語へと変わっていて意味は分からなかったが、何か言い知れぬ、深い孤独の様な物が感じられた。


「……ああ、ごめんね。まあ、だから大丈夫。ダンジョン探索なら慣れてるよ。場所や世界が違っても、こういう所のノウハウはだいたい一緒さ。任せなよ」


 姫騎士の視線に気が付いた大佐は、いつもの言葉と雰囲気に戻ると笑みを浮かべた。


 そうして、大佐は戦闘に紙兵、そのすぐ後ろにWDを配置して、数歩開いた位置に姫騎士。

 そして最後方に自身を配置した。


「紙兵は銃剣付き小銃で地面と前方を探知して。10フィート棒の代わりだ。WDはその後ろからセンサー類で探知を行って、何かわかったらすぐに紙兵に知らせて」

「僕に任せる紙!」

「トラップ探知モードに移行シマス」


 紙兵とWDが元気よく応える。

 それに頷くと、大佐はさらに続けた。


「コロちゃんはその後ろで警戒しつつ、敵が出たらすぐに前衛に出て。私は後方警戒しつつ、コロちゃんたちを支援するから」


 そう言って大佐は、ヌルハンダーの能力で武器を取り出した。

 今度の武器は銃剣の付いたボルトアクション式ライフル四丁だった。

 姫騎士は弾丸による制圧能力に優れた短機関銃の方がいいのではないかと思ったが、大佐によるとそれは悪手なのだそうだ。


「いくら無煙火薬でも硝煙は馬鹿にならないし、前衛支援という関係上跳弾が増えすぎるのも問題だ。その点これなら射撃精度と制圧能力を、私の能力で両立できるからね」


 確かに、大佐の能力なら四丁のボルトアクション式ライフルを絶え間なく、照準を逸らさずに連射可能だ。

 それ以外にもテキパキと指示を飛ばす大佐に頼もしさを感じ、姫騎士は気合を入れた。


「よし、じゃあ行きましょう! ダンジョンを脅かす奴を倒して、行方不明者を助けましょう」


 こうして、姫騎士一行は地下墳墓への入り口をくぐり、階段を下り始めた。

 WDの頭部のライトと、大佐が持つ電気式ランタンと懐中電灯が石造りのダンジョンを照らし出す。


 ひんやりとしたダンジョンの空気と薄暗さが、姫騎士に久しぶりの緊張感をもたらした。



「あのババア気が付きやがった……隠匿符で隠した千里眼の術を。化け物め」


 混沌都市歓楽街にある連れ込み宿。

 地球出身の異世界人風に言うとラブホテルの一室、そこにある寝台の上でタチハナ大尉は呟いた。

 

 時間はちょうど、大佐がロングソードの柄に手を触れていた時。

 紙兵の視覚を通してダンジョン探索に乗り出した姫騎士を観察していた大尉は、大佐が漏らしかけた切り札の情報に思わず感情を動かしたのだが……。


「……術式を通じた感情の揺れ幅を察知したのか? つくづく精霊だの妖精だのは嫌だねえ……」


 ぶつぶつと愚痴る大尉。

 それなりに苦労して紙兵に仕込んだ遠方の存在と感覚同期する術式『千里眼』を、大佐の精霊によって無効化されてしまったのだから無理もない。


 そうして不満げに愚痴り続けた大尉は、イライラを腕枕していた相手にぶつける事にした。

 いきなり枕にしていた大尉の腕が引かれて、額に角のある赤い肌の女が眠りから覚める。


「わわ、なんだ!?」


 女が慌てた様に飛び起きるが、ほぼ同時に大尉が押し倒した。

 しばし、抵抗する女の声と荒っぽい大尉の声が響き……結局甘い女の声が聞こえ始める。


「ちょっと……!? こんな……こと、あぁん! してて、いいのぉ? 姫騎士様がいないのに……街の警備は……」


 息も絶え絶えに女が尋ねるが、大尉は女の両腕を押さえ付けながら笑みを浮かべた。


「なあに、問題ない。ジャングもいるし……少々本気を出してパトロール班を編成したからな」


 そうして、部屋に再び激しい音が響く。

 

 そして、それは外でも同じだった。

 混沌都市の市街地を、巨大な鉄の塊が轟音を立ててゆっくりと動き回っている。

 ここのところの騒乱の原因である荒くれ者たちが視線を向けるが、鉄の塊とその周囲にいる数百の瞳と具現化した殺意たる銃口が向けられると、たちまち黙り込んでしまう。

 学生服を着込んだ異世界人の中には興味深げに見る者もいるが、大半は轟音をたてる()()を目にするなり慌てて路地裏などに逃げ出していく。


 タチハナ大尉の切り札の一つ。

 機甲科の紙兵と彼らが運用する戦車だ。

 退くように出した警告を聞かなかった露天商の物品を引きつぶし、未舗装の地面や石畳を砕きながら、混沌都市を突き進む。


 さらに、そうして突き進む戦車の周囲には小銃や機関銃、擲弾筒を手にした数百の紙兵たちが間の抜けた顔で付き従い、荒くれ者を威嚇する。

 治安組織のパトロールとしてはあまりにも過剰な戦力だが、それ故に効果は絶大だ。


(だがなあ、エルフのばあさん。俺の術は潰せても、魔術に頼らない監視装置にはどう出る?)


 無数の紙兵を操り、女を攻めながら……タチハナ大尉は決して姫騎士には見せない笑みを浮かべた。


 そうして、大尉の邪推の対象であるWDの先導の元、姫騎士たちはダンジョンの深部へと下りていった。

次回更新は5月1日の予定です。

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