第六話 姫騎士とパーティの仲間たち
用語
・関東大砂漠
ブートハイに広がる広大な砂漠。戦前は島国の首都だった土地だと言われているが、ブートハイの人間でも詳細は不明。
・元地下墳墓
竜王国が元々存在していた世界の先史文明の王族のモノと言われる広大な地下墳墓。
現在深部では空間が不安定になっており、その作用でモンスターや様々な異界の遺物が湧きだし、墳墓にあった財宝が復活したりといった現象が起きている。
結果として構造が毎回変わる危険地帯であると同時に、宝の尽きない無限のダンジョンであり続けている。
・小銃手
紙兵の内、ボルトアクション式ライフルを装備した最も一般的なタイプ。
・機関銃手
紙兵の内、三脚付きの重機関銃や二脚付きの軽機関銃を装備した者のこと。
射手一名、運搬員兼射撃助手二名で運用する。
大扶桑皇国軍ではこれに弾薬や部品、工具を運搬する者を含めて一丁辺り10名で運用していた。
都市部の治安維持では過剰火力のためあまり用いられないが、護衛や警備といった状況では多数配備される。
・擲弾筒手
紙兵の内、小型弾頭を射出する筒形の発射機を持った者のこと。
大規模暴動や混沌都市の危機以外では通常出動する事はない。
・WD
銀河連邦で治安維持に用いられるロボット兵器。
戦闘能力はお世辞にも高くないが、センサー類は高性能なためパトロールを行って犯罪を抑止したり犯罪を発見する能力に長けている。
武装は小型ブラスターライフル。
低出力だと生物を感電させることが出来るため、警察活動にはうってつけである。
・WD554G
通常パトロール班にいるWDの上位機種。
四脚に腕部固定式の大型ブラスターガンを装備しているため火力と精度に優れている。
さらに最大の特徴がリフレクターと呼ばれるエネルギーシールドを装備していること。
これによりある程度の攻撃に耐える事が出来るため、高い生存性を誇っている。
・シーフ
冒険者の内、トラップの探索、解除を行う役割の総称。
歴史的に盗賊とも呼ばれるが、別に盗みを必ず働くというわけではない。
数時間後。
パトロール班からダンジョンアタックのための要員を二名借り受けた姫騎士と大佐は、ダンジョンの入り口を監視可能な丘へとやって来ていた。
そこで大佐はダンジョン突入の準備作業を行い、姫騎士は要員を連れて大佐から借りた双眼鏡でダンジョンの入り口を観察した。
ダンジョンの周辺は、竜王国時代は草原と小さな森に囲まれた緑豊かな場所だった。
しかし、今では遥か東方でブートハイの関東大砂漠と繋がった影響からか、弱弱しく枯れかかった木々と砂と赤土が広がる荒野と化している。
そのため、姫騎士たちがいる岩だらけの丘からは邪魔する木々も無く元地下墳墓であるダンジョンの入り口がはっきりと見て取れた。
「……そういえば、意気揚々と来たけどどうやって入ろう」
だが、それを見た姫騎士は先ほどまでの意気込みとは裏腹に頭を抱えてしまった。
そう。
ダンジョンの入り口である石造りの小さな神殿の様な建物の周辺を徘徊する、無数のモンスターたちを見て……。
「ざっと見て数百体……勝てはするけど手間だなあ。君たち……じゃあ無理だよね」
姫騎士は呟きながら振り返った。
そこにいたパトロール班から引き抜いた治安騎士団員は、静かに首を振った。
「無理だ紙。僕は小銃手だからあの数は無理だ紙。あんな数を相手にするなら機関銃手や擲弾筒手を連れて来るべきだった紙!」
一人はまるで白い紙風船の様な質感の丸っこい身体に、オニメイ大尉と同じ色の軍服を着込んだ間の抜けた顔(墨で書かれたものを顔と呼べれば)をした奇妙な存在だった。
彼は紙兵。
オニメイ大尉の陰陽術によって生み出された使い魔の様な存在、大扶桑皇国軍制式の軍用式神である。
紙と空気で作られた身体は一見脆そうだが、術により人間並みの強度を持ち、大尉に刻まれた術式により人間並みの自意識と判断能力を持っているという優れた存在だ。
その上、紙の身体は軽度の損傷ならば糊で補修できるという特長もあった。
大尉が収納術式によって大扶桑皇国から持ち込んだ武器を装備し、パトロール班として混沌都市の治安を日々守っているのだ。
「イエスマーム。駄目デスマーム。当方ノ火力デハアノ数ハ相手ニ出来マセンマーム。ヨリ高性能ナWD554Gヲ選択スルベキデシタマーム」
そしてもう一人……いや、もう一体は、緑色をした二足歩行のカカシの様な形状のロボットだった。
ひょろひょろとしたシルエットが脆そうな印象を与える弱弱しい存在……銀河連邦軍の自立稼働型兵器、WDだ。
これは銀河連邦で用いられているものを中古で治安騎士団が買い取ったものだ。
最高速は人間の小走り程度、防御力は人並みという褒められたスペックの兵器では無いが、優れた通信機能と演算能力。高性能センサーによる監視能力を活かしてパトロール班の指揮官として用いられている。
姫騎士は今回のダンジョンアタックに際して、このパトロール班の主力をメンバーとして活用するつもりだった。
ダンジョンに関して姫騎士もそこまで詳しい訳では無いが、ある程度の一般常識は知っている。
ダンジョンではモンスターが集まってくるのを防ぐため、なるべく少人数でパーティを組んで潜る。
そしてそうなった場合、前衛と支援役である後衛、そして必要になるのがトラップへの対応役だ。
この役は一般的にシーフ、盗賊などと呼ばれ、戦闘力を度外視してでも必要なダンジョンアタックへの必須役だ。
そこで役に立つのがWDの高性能センサーによる探知能力と、トラップの解除で傷ついても補修が容易という紙兵の特長だった。
WDが見つけ、その指示の元紙兵がトラップを解除し、損傷しても姫騎士が持ってきた糊で治す。
姫騎士としてはこうして自身が前衛、大佐が支援兼後衛。
そして紙兵とWDを支援役兼トラップ対処役とするつもりだったのだが……。
「……ダンジョンの周りのモンスターを突破する時この子たちどうするのか忘れてたわ……ねえ大佐、どうし……」
姫騎士が自信の迂闊さを呪いつつ、先ほどから黙っている大佐の方に目をやる。
すると、そこにいた大佐は既に準備を、終えていた。
エルフによる第三帝国国防軍の完全装備に身を包んだ大佐は、凄まじい程の重装備だ。
帝国兵お馴染みのエルヘルムに、仕立てのいい将校用戦闘服。
腰に巻かれた装備ベルトには大量の弾倉とジャガイモつぶしの様な形状の柄付き手榴弾。
左腰にはロングソード、右腰にはギガントファウスト。
腰にあるホルスターには、エルフ帝国の象徴たるクリーク拳銃。
「ああ、コロちゃん大丈夫だ。もう銀河連邦からコソコソする必要はないから、全力を出せるよ。入り口までの道なら、私が対処する……Freisetzung der Technik, vollständige Arm-Entfaltung, vollständige Bewaffnung」
大佐が自分の魔力と予め身にまとっていた精霊の力を解放していく。
すると、大佐の両腕が肩口から消失した。
袖だけがだらりと垂れ下がり、上質な革手袋が地面に落下する。
「ヌルハンダー……」
姫騎士が畏怖を込めて呟く。
ヌルハンダー。
アナベル・シュミットというエルフの二つ名だ。
現在では仕事を碌にしない、という意味でエルフ軍内では用いられることの多い二つ名であるが、混沌都市の最初期からいる住人はその本当の意味をよく知っている。
大佐の消えた両手は、消えたわけでは無い。
むしろその逆。
普段高密度に圧縮されたった二本だけの、実体を持つ存在に擬態された腕を、無数の不可視の精霊へと解凍しているのだ。
「さあ、コロちゃん。耳を塞いで、口を半開きにしているんだ。そのカワイイお耳の鼓膜が破けたら大変だ」
対戦車砲二門、高射砲一門、重機関銃一丁、対戦車ライフル一丁、軽機関銃二丁、近接用に用意した短機関銃四丁にツヴァイハンダー一振り、銃剣付きのボルトアクション式ライフル一丁。
そして地面からゆっくりと浮かび上がる、中身のある両手分の皮手袋。
それら個人で扱うには常識外れの無数の武器が、何も無い空間から次々と湧き出し、大佐の周囲にまるで見えない巨人が玩具でも持っているかの様に展開される。
「三分で済ませる」
そう大佐が言うと同時に、周囲に浮かんだ対戦車砲と高射砲に砲弾と装薬が装填されていく。
大佐の不可視の腕は、練達の砲手の如く瞬時に装填を終え、圧倒的な破壊力をその身に宿した。
「魔力装填……弾種榴弾。フォイァ」
小さな呟きと同時に轟音が響き、生き物を殺傷するための魔法術式が込められた弾頭がモンスターの群れに突き進み、瞬き程の間もなくモンスターに襲い掛かる。
ちょうど群れの外周にいたスライムの様なモンスターに命中すると、弾頭内に込められた魔力と精霊が炸裂。
無数の光弾となり、モンスターを殺傷して赤土をより赤い血と肉片で染めた。
そうして初手の砲撃でモンスターが壊乱するのを見て取ると、大佐は風の精霊でも纏わせたのか、まるで地面を滑るように高速で突撃を仕掛けた。
見る間に血と肉片の中に入り込むと、ようやく大佐に気が付いたモンスターたちに今度は近距離で火力を叩きこんでいった。
エルフの電動のこぎりの異名を持つ重機関銃がスケルトンの集団を骨片へと変えていく。
背後を付こうとトロウルが殴りかかるが、勢いよく大佐の背中に異動したツヴァイハンダーが殴りかかった拳を逆に切り払い、トロウルが痛みを認識するよりも早く、短機関銃とボルトアクションライフルがトロウルをひき肉に変えた。
「紙兵じゃ絶対耐えられない紙~」
「マーム……WD554Gデモ防御力不足デ対応困難……」
パトロール班の二人が式神と機械にも関わらず恐怖する。
それほどまでに、圧倒的な力だった。
大佐の不可視の精霊が武器を操作する速度は、最上級の熟練兵士の動きを超えている。
彼女は一個人にして最精鋭の部隊なのだ。
だがモンスターたちはそれでも抵抗を試みる。
モンスターの大集団は数を活かそうと、砲撃のショックから立ち直った者から順に大佐に攻撃を仕掛けていく。
中でもひと際巨大なオーガが咆哮を上げて突進してきたが、装填を終えた対戦車砲が一瞬でその頭を吹き飛ばした。
銃弾の物理攻撃を耐え忍ぶエレメンターの様な非実体のモンスターも時折いるが、そういった相手を見た大佐は対戦車ライフルの魔力装填弾に属性魔力を込めて発射し、瞬く間に撃破していく。
「もうあの人だけでいいんじゃない紙……」
「マーム。デモアノ火力ハダンジョン内デハ活カセマセンマーム」
「そう……。あの火力はあくまでもダンジョンの外限定。中では私が頑張らないと、ね」
姫騎士は耳を塞いでいた手を放した。
すでにオーガや巨人といった大型のモンスターはあらかた片付き、残るは小物ばかりだ。
いざというときは加勢しようと構えていた身体からも力を抜く。
「大佐、お見事です」
姫騎士の言葉と同時に、けたたましい大小の機関銃の音が止んだ。
最後まで残っていた、ダンジョン産のデュラハンが銃弾と砲弾で無残に歪んだ鎧を軋ませながら倒れ伏す。
こうして、十日間にわたり混沌都市の治安を乱していたダンジョンの封鎖は、大佐の宣言通り三分間で解除された。
「ま、中にはこいつらより厄介な奴がいるんだけどね……。今使った重火器は使えない。ここからが本番だ」
大佐が呟くと同時に、砲身や銃口が真っ赤に赤熱した火器が精霊によって異空間へと格納されていく。
彼女の言う通り、狭いダンジョンではあのような火器は使用できない。
よって、ここからは姫騎士の力とパトロール班の二人のトラップ対応に頼らざるを得ない。
血の海の中心で、地下墳墓の入り口が地獄への入り口の様に闇を覗かせていた。
登場人物
・紙兵
この個体は最も一般的な小銃手タイプ。
ボルトアクション式ライフル、銃剣を装備して日々パトロールに勤しんでいる。
・WD
最も一般的なWD。
ちなみに彼らが「マーム」とやたらと言うのは、購入時にマスターを姫騎士に設定したため。
・モンスターたち
デュラハンのように旧魔王軍と同じような見た目、種族の者もいるが生物種としては全くの別物で基本的には自意識も無い。
ダンジョンの深部から無限に湧き出してくると言われるが、詳細は不明。
次回からダンジョン探索と言ったな、アレは嘘だ……すいませんでした。
という訳で、次回からは正真正銘ダンジョン探索です。
お楽しみに。
次回更新は4月25日の予定です。




