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混沌都市のデカイ姫騎士と”推し活”異世界人達  作者: ライラック豪砲
第一章 混沌都市のデカイ姫騎士

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第四話 姫騎士と反社と魔公爵

用語


・旧魔王軍 その2

 現在では廃工場区画を根城に商人や露天商からみかじめ料を取ったり、非合法なダンジョン探索や物品の密輸入等の不法行為に従事する反社会的勢力となっている。

 旧魔王軍以外の異世界の亜人や魔物、怪物なども傘下に収めその勢力は実質的な列強とされることもある。


・廃工場

 銀河連邦が竜王国王都の復興のために設置した物資や資材を製造するための大規模な工場群、その成れの果て。現地人の製造業保護のためという事で復興事業完了時に製造設備を撤去して箱だけ放置した結果、現在では不法居住民の巣窟となり一種のスラムとなっている。 


・障子

 エルフによる第三帝国の同盟国である大鬼国や一部の異世界で用いられる木と紙で作られた間仕切りや戸として用いられる建材。一部の東方趣味のエルフが持ち込んだことで安価な建材として混沌都市(カオスシティ)でも普及している。


・魔族、魔人、魔物、亜人

 よく同じものとして扱われているが、厳密には違う。

 魔族――魔王傘下の魔人、魔物、亜人の総称。種族は問わず、魔王に協力するものは皆含まれる。

 魔人――魔人と呼ばれる青肌に角を持つ指導的立ち位置の種族。人間型の者だけでなく、エリゴスの様に身体の一部が異形の者も含まれる。

 魔物――オークやデュラハン、ゴブリンなどの人間と対立する生命体の総称。人間と遜色ない知性を持つ者から知性を持たない動物の様な者まで、その種類は幅広い。

 亜人――ホモサピエンスに近い生態を持ちつつも人間とは異なる特徴を持つ種族の総称。人間とは交配不可能な種族をさらに異業種として分ける場合もあるが、異世界出身者の場合事情が異なる場合もあるためこの辺りは不明瞭である。

 余談だが、エルフ帝国のエルフは亜人では無く『妖精種』であるが、別世界のエルフの場合亜人種の場合もあり大変にややこしい。


・プデチゲ

 地球出身の異世界人が広めた鍋料理。

1 豚バラ肉とキムチ(葉物野菜の発酵唐辛子漬け)をごま油で炒める。

2 水を入れ、醤油(大豆発酵調味料)、酒(米や小麦の酒が望ましい)で味付けする。物足りなければ味噌や好みのスープの素で味を補強する。

3 インスタントラーメン、ニラ、燻製豚肉、トーフ、豚の腸詰、豚の加工缶詰を入れ煮込む。

4 仕上げにチーズ、粉末唐辛子をかけて完成。

 という料理である。

 現在パクという異世界人が鍋に一通りの材料を入れた物を固形燃料と一緒に配達するデリバリーサービスを始めて大人気になっている。


・都市条約

 混沌都市内での様々な規約を列強間で調整して定めた条約の事。

 基本的には日本という異世界の国出身者が違和感がない程度の法律が定められているが、列強本国の横やりなどで細部がしょっちゅう変わるため注意が必要。

 翌朝。

 

 姫騎士は部下を一人引き連れ、混沌都市(カオスシティ)の歓楽街の隅にある廃工場に来ていた。

 ここはかつて、銀河連邦の支援によって造られた食料や建材の製造施設だ。

 魔王軍の奇襲とその後に起きた災厄によって焼け野原になった王都を復興させるため、一時期は労働者と大量の物資に溢れた活気ある場所だった。

 

 しかし今は復興需要の終結で廃墟となり、行き場のない者たちの吹き溜まりとなっていた。


 今も遠巻きに姫騎士たちを見つめる瞳が建物の影から向けられる。

 やらかしたアウトロー、脱走した元エルフ兵、行き場のない異世界人、エイリアンの放浪人(バックパッカー)……ここにいるのはそんな者たちだ。


 しかし、姫騎士たちが用があるのは彼らではない。

 ここを実質的に支配する、混沌都市(カオスシティ)の暗部を牛耳る者たち。


 反社会的勢力”旧魔王軍”だ。


 そうして目的の場所である、旧魔王軍のアジトである廃工場にたどり着いた姫騎士は、入り口のシャッターに向かって堂々と歩いていく。

 入り口には当然見張りをする魔族の者たちがいた。

 無表情ながらも温和な調子で、姫騎士は彼らに尋ねた。


「やあ魔族のみなさん……エリゴスいる?」

「コロンポン!」

「なんだぁ、てめえ! 騎士団が何の用だ!」


 姫騎士への返答は罵声だった。

 彼らは反社会的勢力が治安組織の人間を見た時に取る当然の対応として口先での威嚇を試みる。


 混沌都市(カオスシティ)においては舐められたら終わりである。

 その点において、彼らの行動は正しかった。

 しかし、相手とタイミングが悪かった。


「……ふぅ」


 姫騎士は吐息と共に笑顔と、こめかみに青筋を浮かべた。

 

「かつて竜王国を圧倒した旧魔王軍も、今やこんな廃工場に落ちぶれて…その上門番はチンピラ……ははは」


 入り口にいた魔族たちは姫騎士の笑顔に遅まきながら恐怖を覚えた。

 しかし、全てが遅かった……。 


「こらあエリゴス!」


 姫騎士の可愛らしい声が、不似合いな音量で廃工場に響き渡る。

 同時に入り口のシャッターが、まるで障子の紙を裂くように破かれ、その隙間から表で門番をしていたオークが勢いよく投げ込まれた。


 シャッターの近くで固形燃料で煮込まれた鍋をつついていたゴブリンと女デュラハンがそれに巻き込まれ、吹き飛ばされる。

 おまけに女デュラハンの頭が鍋に落ち、絹を裂いたような悲鳴が響き渡った。


「お、プデチゲじゃねえか。いいもん食ってんな」


 あまりの事に反応できずにいた工場内の魔物たちに代わり女デュラハンの頭を拾い上げたのは、シャッターの隙間から入り込んできた赤いモヒカンに肥満体のアウトローだった。

 アウトローは指先で髪の毛をつまんだ女デュラハンの頭を胴体の方に無造作に放り投げると、彼女らが椅子代わりにしていた木箱に座り、ぐつぐつと煮えるプデチゲを食べ始めた。


「ちょっとジャング、何食べてるのよ」


 シャッターの裂け目から身体を窮屈そうにかがめて入ってきた姫騎士がアウトローに声を掛ける。

 そう。

 この典型的なアウトローこそ、治安騎士団のメンバーの一人。

 雑務から荒事まで幅広くこなす、姫騎士第二の部下ジャングだ。


「何って、朝飯っすよ姐さん。朝いきなりたたき起こされて、何も食ってないんすわ」


 口からふやけたインスタント麺を飛ばしながらジャングが主張すると、姫騎士は肩をすくめた。 


「……まあいいわ。そこで入り口封鎖してて。誰も出さないでね」

「おいっす。あ、姐さんも食います?」

「いらない。あんた直箸してるじゃない」

「お、おいてめえら……」


 そんなのんびりとした会話を遮ったのは、一人の男だった。

 姫騎士より小さい身長ながらも肥大したボディビルダーの様な筋肉、水色がかった肌色に大きな角という典型的な魔人。

 通称“若頭”と呼ばれ、若手魔族のまとめ役を務めている男だ。


「……」


 呼びかけに対して、姫騎士は何も言わない。

 無言で若頭を睨みつけ、ゆっくりと近づいていく。


「何か言えよ! いきなり押し入ってくるなんて、頭おかしいのかてめえら! シャッター壊した上に飯勝手に食って、おまけに若いもんに暴力なんて不法行為が許されると……」


 若頭の真っ当な主張は近づいた姫騎士が素早く若頭の角を掴み、下に引き倒して顎に膝蹴りをくらわした事であっさりと中断された。

 屈強な魔人でなければ、頭部が水風船のようにはじけ飛んでいたであろう凄まじい威力だ。

 若頭は一瞬で意識を失い床に倒れ伏す。


「若頭がやられた…」

「わ、若頭を一撃で!?」


 屈強な魔人である若頭が瞬殺された事に構成員たちは驚愕した。

 姫騎士の眼光と暴力に、工場内の魔族たちは誰もが恐怖する。


「……私は穏当に話をしようとしたの……それを、ここに来るなり暴言浴びせてきたのはそっちでしょうが? あ、当然だけどさっきぶん投げたオーク以外の連中も気絶させたからね」


 そこまで言うと、姫騎士は大きくため息を付いた。

 別段彼女も、今更魔族差別の意識など持ち合わせてはいない。

 しかし、開口一番敵意むき出しで罵られて穏便な態度を取る程優しくもない。


「だいたい、あんたたち違法行為上等の反社会的勢力が、治安騎士団に喧嘩を売るっていう事がどういうことか分かってるの?」

「だ、だが銀河連邦は私たちにも権利を……」


 先ほど鍋で頭を煮られた女デュラハンが口を開くが、次の瞬間にはそれも沈黙してしまう。

 頭を抱えていた手にアツアツの鍋の具材がぶつけられたのだ。

 投げた張本人であるジャングがぐへへ、と悪役の様な笑いを浮かべていた。


「銀河連邦が言う権利っていうのはあくまでも銀河連邦内での事だぜー? ここは混沌都市(カオスシティ)……俺たちは住民の権利は尊重はするが、そいつはあくまでも都市条約の範囲内での事だ。銀河連邦並みの権利が欲しけりゃ、あそこに移住するんだな~」


 再び魔族たちが押し黙ったのを見て、姫騎士は腕組みしつつ口を開いた。


「さて本題に入るわよ。今回のダンジョン封鎖の件について話を聞きたいの。洗いざらい話しなさい」


 姫騎士が本題を切り出すと……再び場を沈黙が支配した。

 魔族たちは誰もが顔を見合わせる。


「ダンジョン?」「何かしてたっけ?」「封鎖?」という、困惑するような呟きが聞こえる。

 さすがの姫騎士も怪訝な表情を浮かべる。


「南部の地下墳墓の入り口が、魔物の集団に封鎖されてる件について聞きたかったのよ! あんたら前から何かって言うと混沌都市(カオスシティ)の魔物は全員傘下にあるって言ってたじゃない!」


 だが姫騎士のこの言葉にも反応は薄い。

 彼女は不機嫌そうにこの場の顔ぶれを見渡した。

 先ほど気絶させた若頭以外は下っ端ばかりだ。


「あんたらに聞いても埒が明かないわね……エリゴスを呼びなさい! あいつなら何か知ってるよね?」

「は~い♪」


 姫騎士が名を出した瞬間、媚びた様な甲高い声が響く。

 次いでズルズルと這う音が響き、暗がりから全長5m程の巨大なラミア型の魔人”エリゴス”が姿を現した。

 

 エリゴスは肉付きの良すぎる、だらしない体つきを揺らしながら、特注のTシャツ(美少女アニメ柄)を隠す様子もなく姫騎士たちのいる入り口に向かってきた。

 

 魔公爵エリゴス。

 唯一生き残った魔王の身内にして……。


姫騎士~(コロンポン~)……会いたかったよ~♪ そっちから訪ねてくれるなんて、いつぶり~?」

 

 再びの猫なで声に姫騎士が顔を歪める。


「……私は会いたくなかったけどね。あんた、舐めた事してくれるじゃない」

「……殴り込みかけて若頭殴っておいてそれ言っちゃう? まっ、コロンポンならいいけど」


 魔王の身内にして竜王国と魔王軍との戦争時代から執着してくる変態(ストーカー)に、姫騎士は怒りが萎えるような徒労感を感じた。


 この巨大な蛇女は昔から……姫騎士がその名の通り甲冑を着込み騎馬に乗り、勇者の血を引く者として騎士団を率いていた頃からこうして執着してくる妙な魔人だった。

 確かにこうしていれば、一見友好的に見える。

 しかし、その実態は魔公爵の名に違わぬ恐ろしい存在だった。

 姫騎士はそのことを覚えているからこそ、決してエリゴスに油断する事はしなかった。


「私なら、ね……つまりそれは私以外なら何してもいいって事?」


 姫騎士が視線に圧を込める。

 魔王軍の一員としてこの蛇女が、王国民や騎士たちにどのようなむごい事をしたか誰よりもよく知っているからだ。

 

「ふ、ふへへ……そんな怖い顔しないでよ……昔の戦争の時の事なら、謝ったじゃん。あの頃はお父様や四天王がいて、私も好き勝手……」


 ぱーん!!!!


 エリゴスの言葉は、唐突な破裂音によって遮られた。

 姫騎士がエリゴスの胸を思いきりビンタしたのだ。

 さすがの魔公爵と言えども、姫騎士の圧倒的な力でデリケートな部位を殴られては無事では済まなかった。

 文字通り蛇がのたうち回る様にビタンビタンと身体を痛みに震わせる。


「あんたの毎度くだらない言い訳を聞きに来たんじゃないわ。さあ、聞かせてもらうわよ。南部のダンジョン封鎖の件について洗いざらい話しなさい」


 ビタビタ身体を震わせていたエリゴスは、小さく呻きながら涙目で姫騎士を見た。

 怒りに満ちていた姫騎士は気が付かなかったが、その目は喜悦に歪み頬が赤らんでいた。

 旧魔王軍の面々は毎度のやり取りにげんなりとし、入り口で鍋のスープを飲み干したジャングは満面の笑みを浮かべた。


「ひっ…ぃだい…ッ♡ はぁ~ん…………いや、知らないわよ。部下たちも言ったじゃない」


 唐突に冷静になりつつエリゴスははっきりと言った。

 姫騎士の眼光が再び鋭くなり、ゆっくりと右手が高く上がる。

 エリゴスはもう一回殴られたそうなそぶりを見せたが、部下たちからの視線を感じると名残惜しそうに再び口を開いた。


「……はあ。はっきり言うわよ。南部のダンジョンが中から湧き出したモンスターに封鎖されて中に入れない件でしょう? それならうちじゃないわよ」

「はあ!? いい加減なこと……だって魔物はあんたらの」

「確かに、混沌都市の魔物たちはうちの傘下にあるわ。いい、分かる? ()()()()()魔物よ? ダンジョン内の奴らは別よ。あいつらは意思疎通もできないから、私たちにも手に負えないわ」


 これが旧魔王軍が勢力を拡大した理由だった。

 彼らは混沌都市(カオスシティ)内にいる人間とは異なる生物の内、明確に迫害されるような存在を積極的に迎え入れているのだ。

 だからこそ、彼らは社会から疎外された者たちの拠り所。

 反社会的勢力と呼ばれる。


「そんな……嘘……」

「本当よ? そもそも、ダンジョン探索は私たちのしのぎでもあるわ。非公式だけどね、エルフやアウトローに混じってパーティーに助っ人として参加したりもしてるわ。今回の件は私たちも被害者よ」


 姫騎士は乳ビンタのために振り上げていた手を静かに下ろした。

 当てが外れた事への困惑と、エリゴスの言葉を信じていいのかという迷いからだ。


「でも……証拠も無しに……」

「エリゴスの言った事は本当だ」


 そうして迷いが口から出た所で凛とした声が工場内に響いた。

 声のした方に工場内の視線が集中する。

 そこにいたのは、エルフ帝国の軍服を着込んだ美しい隻眼のエルフ……アナベル・シュミット大佐だった。


「大佐!」

 

 姫騎士が呼ぶと、大佐はいつもより甲高い声で応じた。


「やあコロちゃん、元気だった? ようやく調査が終わってね。情報、いるだろ?」

「はいっ!」


 姫騎士の嬉しそうな態度に、エリゴスは半眼で大佐を睨みつけていた。

・オーク

 魔物の一種。

 豚頭にスモーレスラーの様な筋肉と脂肪を持つ巨漢だが、姫騎士の力には敵わない。

 精力絶倫のため、たまに物好きなエルフ相手に男娼をしている者がいる。


・女デュラハン

 自身の頭部を胸に抱え、騎乗した騎士の魔物。その女性体である。

 混沌都市内では武装と許可なき騎乗が禁止されているため、よく平服で徒歩でいる姿が見られる。

 それなりに上位の魔物のため、鍋で煮られた程度ではそこまで酷い火傷はしない。


・若頭

 人間体に青肌、角にマッシブボディという典型的な魔人の若者。

 腕っぷしと面倒見がいいことから若い魔族からは慕われている。

 趣味はプラモデル作りで懇意にしている異世界人からニホン製の製品を買い付けては組み立てている。


・魔公爵エリゴス その2

 全長5mのラミア型魔人にして、引きこもりオタク姫騎士ストーカーという属性てんこ盛り魔人。

 とはいえそこは魔王の娘だけあり、ぷにぷにの身体の割にその戦闘力は高く、旧魔王軍が実質的な列強と言われるのは彼女の戦闘力での貢献も大きい。

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