第十八話 姫騎士と銀河連邦-3
こうして、時空竜をどうにか封じた瞬間の話は終わった。
もっとも、タチハナ・オニメイが邪悪な雰囲気を醸し出していたことは語らなかった。
コロンポンはその時のことを知らず、アナベルの方には確証がなかったからだ。
事実、あの後落ち着いてからアナベルは幾度となくタチハナ・オニメイを問い詰めたが、いずれもしらを切られている。
「この世界に現出していきなり、意味も理屈もわからぬ魔導エネルギーを吸収するなど……出来もしないしやる意味もない……違いますかな?」
(あの野郎……)
あのにやけた面を思い出し、アナベルは歯を食いしばった。
あの男が魔導プログラムがキチンと働かなかった原因なのは間違いないのだ。
しかし、証拠がない。
当の吸い取った魔力自体の行方も分からないので、証明しようがないのだ。
「じゃあ、時空竜はその……『こうしぎょらい』で傷を負ったから動けなく?」
アナベルが人知れずイラついている最中もジジの質問は続く。
その問いに対して、コロンポンは首を横に振った。
「いや……光子魚雷を以てしても時空竜に行動を制限するほどの傷を負わせることは出来なかった。結局、今の膠着状態を作り出しているのはあれだよ」
そう言って、コロンポンは時空竜の真上を指さす。
青空の彼方、薄い雲の切れ間に、かすかにそれは見えた。
白い影のように見える、丸い物体。
「……なんですか、あれ?」
「さっき言っただろ。ハストゥール級宇宙戦艦だ。時空竜から攻撃を受けた破損しながらも、主砲を最大威力まで貯めて発射体制に入っているんだ。そして、それに気が付いた時空竜もハストゥール級宇宙戦艦に対して最大規模の魔力を口腔にため込んで真上を向いている……」
「なるほど……」
コロンポンの質問に対して軽く相槌を打ったジジだったが、次第に言葉の意味を理解したのか、顔色が悪くなっていった。
そう。
あくまで膠着状態なのだ、今の状況は。
時空竜は確かに半端にしか作動しなかったとはいえ魔導プログラムの影響を受けた。
ハストゥール級宇宙戦艦の主砲も受けた。
さらに、光子魚雷という超兵器の攻撃も受けた。
それでもなお、動ける余力を残しているのだ。
その余力を、かろうじで身動きできない状態にまで封じて追い込んでいるのが、ハストゥール級宇宙戦艦なのだ。
「それで……膠着? でも、もし打ち合いになったら……」
「そうね。この街は滅ぶ。でも、みんなここ無しではもうやっていけないから」
姫騎士は呟くと、ジジの背中を軽く叩いて促した。
「説明しながら歩こうか」
困惑するジジを連れ、コロンポンは歩き出した。
アナベルも、それについていく。
そして歩きながら、姫騎士は語り始める。
「私たち王都のみんなはもちろんそうだけど、他の勢力もみんなここに依存してるの」
そう言って、コロンポンは混沌都市内の勢力を上げていく。
「エルフによる第三帝国は元の世界で世界大戦の真っ最中なの。そして、戦況はかなり悪いみたい。もう、ここの東部にある油田や他の勢力から取引で得ている物資なしじゃ防衛もままならない」
「油田?」
ジジが不思議そうにつぶやくが、コロンポンは無視した。
ジジに石油やガソリン。プラスチック製品のことを説明するのは骨が折れると判断したのだ。
「アウトローもそう。武帝はブートハイっていう彼らの世界を統一しようとしているけど、そのためにここから得られる食料や物資は欠かせない。」
「銀河連邦もそうよ。彼らは強大だけど、ここにいる部隊以外……特に本国は衰退していて国としてのまとまりすら維持できないらしいの。だから、彼らは他の次元へのアクセスのカギであるここを手放せない。たとえ虎の子の宇宙戦艦を一隻付きっきりにしてでも」
道行く異世界人を見ながら、ジジはコロンポンの言葉を反芻していた。
正直、言っていることにはわからない部分が多かったが、各世界の事情がおぼろげにわかってきていた。
そして、もう一つ。
大切なことが、ジジは理解できてしまっていた。
「だから、みんなの希望であるこの混沌都市を。きわどいバランスで保たれてるこの安寧の場を……。私たちは守っているの」
コロンポンはそう言って、混沌都市……かつての王都をゆっくりと見回した。
そう。
この街はすでに、竜王国の王都ではない。
数多異世界の人々が求め、頼り、暮らす場所。
混沌都市なのだ。
(でも、それじゃあ公爵領にいる王都の民は……)
ジジが人知れず悩み始める中、一行は一路治安騎士団の本部へと向かうのだった。
投稿予定から遅れて申し訳ありませんでした。
多忙でいろいろうまくいきませんが、頑張っていきたいと思います。
次回更新は10月30日の予定です。




