第十八話 姫騎士と銀河連邦―2
そうして開始された突撃の第二幕は、激しくも順調に推移した。
新たに参戦した無数の空飛ぶ艦艇は、時空竜の熱線に一定の耐性を持ち、地面を走るエルフやアウトローの集団を傘となって守った。
だが、それでも無敵というわけではなかった。
時空竜の熱線を装甲で耐えつつも、排熱が追い付かなくなれば装甲が融解し爆散してしまう。
「表面が赤くなってる艦艇を援護するんだ。障壁を張れるミュータントは前に出ろ!」
「氷系の魔法付与弾頭をあの空飛ぶ船に発射して冷却するんだ! 急げ、一隻でも我々の壁を守るんだ」
「墜落した船の乗員救護は回復魔法が使える者で行うぞ! 生き残った術者は臨時救護所で医者と共に待機だ、急げ」
「騎士や衛兵、動ける者は皆駆けろ! 動けぬものも、けが人の救出や治療にあたるんだ」
それに対し、誰が命じたわけでもなく、異界の者たちが手を取り合い始めた。
サイボーグ、エイリアン。
アウトロー、ミュータント。
エルフ帝国の兵士たち。
魔法使い、神官、騎士。
てんでバラバラな者たちが、眼前の脅威から逃れるために助け合う異様で、それでいて希望に満ちた光景が繰り広げられた。
「すごい……みんなが協力して……」
感極まった様子のコロンポンがつぶやくのを聞き、アナベルと武帝は顔を見合わせ、ニカリと笑いあった。
「いいものを見させてもらったな」
「ああ。ならば返礼として精一杯暴れねば」
そうして、武帝とアナベルは哨戒艇から身を投げた。
驚くコロンポンに対し、二人は叫んだ。
「行け姫騎士! ここは私たちが道を切り開く!」
「可憐なるものよ、お前があの化け物を止めるのだ!」
そうして、二人はそれぞれの能力を解放し、哨戒艇の道を切り開いた。
未だ降り注ぐ雨のような熱線を、魔力と拳法の力で防ぎ、小さな哨戒艇を守った。
それによってコロンポンが乗った哨戒艇は、まるで突撃に参加した一団の穂先のように先頭を進み始めた。
一回目の突撃では溶けるようにすり減った一団は、強固な槍となって時空竜へと突き進んだ。
繰り返し放つ熱線が全く効果を表さないことに、時空竜も気が付いたのか、恐ろしい化け物はまるで狼狽したかのように小さく後ずさる動きを見せた。
だが、その動きはコロンポンという穂先を回避するにはあまりにも小さすぎた。
「このまま、やつの頭上に!」
コロンポンは哨戒艇のパイロットに叫んだ。
返答は無かったが、哨戒艇のパイロットは機体を時空竜の頭上へ移動させ、コロンポンがいるドアを下に向けるように傾かせた。
「とっとと行っちまいな、お嬢ちゃん!」
パイロットの軽口と共に、コロンポンは哨戒艇からその身を投げ出した。
目的は時空竜の額。
足元に迫る軍勢と、頭上から射貫かんと狙いを定める宇宙戦艦の脅威に、この強大な怪物は明らかに意識を割かれていた。
故に、小さな一個人への対処が遅れた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」
コロンポンは雄たけびと共に、数十メートルの高度を魔法で軽減して時空竜の額に着地した。
「これで……サクロ様、お願い!」
コロンポンは叫びと共に、先ほど見に宿った力を全力で右手に込め、時空竜に流し込むイメージと共に魔力に乗せて解放した。
誰もが……。
人によってはエネルギー、闘気、魔力。
様々な呼び方があるそれが、時空竜へと勢いよく流れ込んでいった。
それと同時に時空竜が一瞬大きく身体を震わせ、動きを完全に停止した。
胸がすくようなその光景に、突撃していた皆が息を呑んだその瞬間……。
熱波によって近くにいた哨戒艇が墜落するほどの、過去最大規模の熱線がハストゥール級宇宙戦艦に対してい放たれた。
無論、コロンポンとてその影響の例外ではいられなかった……。
そうして、すべてが吹き飛ばされた瞬間。
熱波から身を守るために武帝と共に身を守っていたアナベルは見た。
時空竜の額から落下する寸前のコロンポンの陰からにじみ出るように出現した、どす黒い男。
どことなく、エルフ帝国の同盟国である大鬼国陸軍の軍服に似た服装のその男は、落下しそうなコロンポンを抱きかかえ、まるで支配者の如く時空竜の額に立っていた。
にんまりとした、この場に似つかわしくない嫌な笑みを浮かべた、薄気味の悪い顔の長い男。
(なんだ……あいつ……!?)
障壁越しに見ていて、アナベルは不意にその男と目があった。
まるで勝ち誇ったようなその男が、ゆっくりと口を動かす。
その男が話す言語もわからないのに、なぜだかアナベルには、男が言っていることが分かった気がした。
『この 女の 全てを 貰うぞ』
瞬間、アナベルは全身が粟立つのを感じた。
男から感じられる邪悪な意志、そして……。
男が言っていることが事実だと気が付いたからだ。
なぜならが、その男は……。
アナベルが持っていたはずの、皇帝ファーリュナスから託された魔導プログラムの魔力を持っていたからだ。
「貴様が……貴様が奪ったのか!?」
アナベルの叫びと同時に、時空竜へと小さな光が肉薄した。
まるで腕の生えた戦闘機を背負った少女のような物体……。
その時は知る由もなかったが、銀河連邦宇宙軍の戦闘ユニットを装備したサイボーグは、時空竜の口腔へと一発の弾頭を近距離から射出した。
反物質魚雷と呼ばれるその兵器は、時空竜の頭部を中心に巨大な爆発を起こし、わずかに残った王都の街ごと全てを吹き飛ばした。
これが、コロンポンに最も執着し、コロンポンから最も信頼を寄せられている男。
タチハナ・オニメイがこの世界に現出し、時空竜が一時的に動きを止めた、その顛末だった。
更新予定が大幅に遅れて申し訳ありませんでした。
というわけで、ようやっと回想は終わりです。
場を現在に戻し、話を進めていきます。
※今後の予定
第三章を終えた段階で、いったんプロットの再構築のためにしばらく更新をお休みします。
正直話がとっ散らかってきたので、ある意味仕切り直しに近い形になるかと思いますが、今回の小説も何とかエタらずに、かつ前回より完成度を高め、短期間に終わらせることを目標に頑張りたいと思いますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。
次回更新は10月20日の予定です。




