第十六話 姫騎士とエルフとの出会い―4
用語
・サード戦車
エルフによる第三帝国の主力戦車。
機関銃装備のファースト豆戦車。機関砲装備のセカンド軽戦車に続く5cm砲装備の中戦車である。
画期的な新技術がふんだんに用いられており、列強初の魔術装填弾を採用した初の車両でもある。
現在では主力を後発のフォース支援戦車、フィフス主力戦車に譲り二線級戦力として扱われている。
・多聞闘拳
ブートハイに古代から伝わる一子相伝の殺人拳。
生命の持つ気を練り上げ放出する事で人知を超えた作用をもたらすことが出来る。
気を相手に流し込む事でまるで爆発したかのような破壊をもたらすため、ブートハイでは死の拳法として恐れられている。
「展開、サード戦車! アースウォール! 光の壁よ!」
全身を光に焼かれたアナベルは、急ぎ追加の防御手段を展開した。
無手で魔術格納からサード中戦車を壁代わりに展開し、より防御力のある土属性の防御魔法を展開し、魔力を多く消費するが鉄壁の光の壁を展開した。
だが、戦車は一瞬にして水飴のごとく融解し、土の壁は焼け落ち、光の壁はトカゲの放った光と混ざり合い壁として機能すらしなかった。
(瞬きほどの時間で!?)
自身の全力がたったそれだけの時間しか稼げないことに驚愕した次の瞬間、再びアナベルの身体は焼かれ始めた。
皮肉なことに手を尽くした防御魔法よりも、数万年間を生きたアナベル自身の防御力の方が強靭でトカゲの熱線から後ろの少女や騎士団を守ることが出来ていた。
(とはいえそれも……もって数秒……まさか、こんなところで、意味も分からずに死ぬのか)
不思議な虚無感と、じんわりとした絶望、そして困惑の入り混じった感情の中、アナベルの脳裏に不意に昔の光景がよぎり始めた。
無数のエルフたちがガラスでできたカプセルの中で眠る不思議な部屋の中、目覚めたときのこと。
皇帝に連れられて空飛ぶ船に乗り星の世界を旅してこの世界にやってきたときのこと。
そして出会った、仲間たちと過ごした前期魔法文明時代。
最も親密だった愛おしいノスフェラトゥ。
キザだが優しかった伊達男の豚頭。
豪放磊落な大酒飲みの天使。
乱暴者だが、ふかふかでいい匂いの狼男。
怠け者で寝てばかりの、祖父のような存在だった龍。
いつも一人で本を読み、絵を描いてばかりいた引きこもりの鬼巫女。
クソゴブリン。
皇帝崩御後、分裂した世界で冒険者として生き、幾人もの仲間と繰り広げた後期魔法文明時代の冒険の日々。
人間の魔法力が衰退し、亜人種に支配された中世暗黒時代。
人間を種族と文明維持の手段として保護するようになった近世。
そして、ナブリオによって『人権』が確立され、魔法を科学が超え始めた近代。
忘れていたはずの出生からこの世界に来た記憶、そして現代までが脳裏に浮かび、懐かしい友の顔が浮かぶに至り、アナベルは悟った。
(そうか……とうとう、いや、やっと、死ねるのか)
それが、走馬灯というものだと。
そんな諦めの気持ちを自覚した瞬間、アナベルの脇を大きな人影が通り抜けた。
ツンと鼻をつく、汗と革、血の匂いがした後、眼前に筋肉に覆われた背中が現れた。
身の丈はアナベルよりも頭三つ分、幅も倍近い巨漢だ。
突然のことに困惑しつつ、魔力の一切ないその存在が人間だとわかった瞬間にはアナベルは叫んでいた。
「馬鹿、下がれ、君では無理だ!」
その罵倒のような叫びには、死という安寧を奪われかけた怒りと、純粋な人間への心配が混ざり合っていた。
しかし、すぐにアナベルは異常に気が付いた。
(なぜ焼けない!?)
サード中戦車が一瞬で溶ける超高熱に対し、目の前の巨漢はアナベルが叫ぶほどの時間がたってもなお立っていた。
両手と足を大きく広げ、あの巨大なトカゲに物怖じすることなく、不落の壁のごとく。
「女、いいから見ていろ」
ゆったりとした低い声だった。
優しさなど微塵もないそんな声が、なぜだかアナベルにはたまらなく頼もしく感じられた。
「多聞闘拳奥義……無念無想・天返掌!!!」
巨漢が叫ぶと同時に広げた両手を現前に突き出し、渦を巻くように回転させ始めた。
すると、魔力がないはずの巨漢の眼前に光る壁が生じ、みるみるうちに熱線がその壁に押し返されていった。
「ば、馬鹿な!? あの純粋な破壊へ転化した魔力の塊を、ただの人間が……」
驚愕するアナベル。
だが、巨漢はこともなげにこう言ってのけた。
「何を驚いている? この武帝に防げぬものなどないのだ。ふんっ!」
巨漢がただ一息気合を入れると、それだけで熱線が霧散した。
唖然とするアナベルに対し、巨漢が振り向く。
「……さて、だ。助けたのだから、対価を貰おう。ここはどこだ?」
「えっ……いや、私も知らんのだが……」
「むぅ……」
「……」
「……」
「あの、お二方」
間の抜けたやり取りの後、思わず沈黙する二人に背後から声がかかった。
疲れ切った、少女の声。
あまりの出来事に忘れかけていた、背後にいた騎士の少女だった。
振り返る巨漢の拳法使いとエルフの第三帝国兵士の目に、麗しい少女騎士と寝間着の少女が写った。
「可憐だ」
アナベルの耳に、巨漢の場違いな言葉が入った。
だが、アナベルも同感だった。
美少女騎士たちは大層可憐だった。
次回更新は9月22日の予定です。




