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「信じられない!」



 魔法実践の授業中、メアリは未だにプリプリと怒っていた。



 確かに、自分はまだ子供だという事を理解しているが、それでも大人の女に現を抜かすだなんて頭にキてしまう。何より、自分の知らないところで彼を大して理解していない女が、彼の愛を受けるのが許せないのだ。



「ズルいですっ!」



 ――キュバンッ!



 無詠唱で杖から繰り出された帯電する火球が、高速で直線起動を飛び50メートル先にある木偶人形の頭部を木っ端微塵に破砕した。1500ジュールまでの威力を吸収する木偶の惨状に、周囲の生徒は驚きを隠せないでいる。



「無詠唱でこれとは、やはり殿下の魔法は素晴らしいですな」



 調整を間違えたことに肝を冷やしながら褒め称えた担当教員は、修復魔法をかけるから別の班と合流してくれとメアリのチームへ指示すると、木偶人形の構成成分を取りに駆け足で倉庫へ向かった。



「……申し訳ございません。少し、力が入ってしまって」

「いえいえ、学校側の配慮は足りていないのが悪いのです。メアリ様は、ご自分のお力を発揮したに過ぎません」

「メアリ様がこうして強くいてくださるから、僕たちは学院生活を平穏無事に過ごせているのです。天晴ですよ」

「王たる者の風格を、我々と同じ年齢にして身にまとわれるだなんてなんとも素敵です」



 今日も、いつも通りだ。みんなが、自分の魔法を崇める。みんなが、自分の才能を羨む。みんなが、自分の強さを誇る。民を率いる者としてこれほど光栄なことなど他にないハズなのに、クロードと出会ったことでメアリの認識は変わってしまった。



 こんな時、きっと先生ならば私の知らない事を教えてくれるとメアリは考える。

 実際、この火球に帯電させる方法を思いついたのも彼の教えがあったから。周りの生徒は実践しないだけで、彼は平等にチャンスを与えてくれているハズなのだ。



 そもそも、彼は破壊を褒めてくれたりしない。彼の理想から最も遠い場所で自分の才能が発揮されていることに、メアリは少し悲しくなったりもしていた。



「……医療魔法」



 メアリには、医療魔法の心得がない。



 高等部では基礎知識を学ぶことしか出来ない上、専門性が高すぎる故に替えが効かないにも関わらず取得難易度が圧倒的に高いからだ。



 お伽噺には、『ヒール』と唱えるだけですべてを治療してしまう魔法使いが多く登場するが、それはきっと現実の厳しさの裏返しだ。



 再生は、破壊の労力を遥かに凌駕する。おまけに、医療魔法は一度としてミス出来ない精密な工程の連続を一瞬でこなさなければならないのだから苦労も半端ではない。



 メアリは、そんな狂気の世界へ飛び込む第一歩として、担当教員の木偶人形修復へ立ち会う事にした。



「本当に、一瞬で直してしまいますね。先生の脳内にはどんな回路が構築されているのでしょうか」

「無機物の修復ならば、構成成分を魔力でパーツに変換し部品を組み替えているだけです。修練を積めば、難しいことではありません」

「医療ですと、そうはいかないのですよね」

「もちろん、比較になりません。命を繋ぐための膨大な工程を回路に組み込むワケですから。常人であれば、その回路を覚えるだけで一生を終えるとも言われておりますな」



 本当はもっとたくさん教えて欲しかったのだが、これ以上は授業に支障が出ると考えてメアリは口を閉じた。

 しかし、何だろう。医療魔法を学ぶという行動は、クロードを救う為の何かが根本的にズレているような気がするのは。



 疑問は、いつの間にか彼女を支配していた。



「……本当に、医療魔法でいいのかしら」



 その考え方こそが、正しく世の中の常識を覆して変えたクロードの真たる生徒というべき思考であることを、彼女自身はまだ気が付いていない。


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