聞き込み開始
「ここが商業都市トレドかぁ……かなりでかい都市だな」
母のスーザンに渡された地図を頼りに何事もなく無事にトレドまで辿り着いたムゲンはその都市の規模に驚いていた。
巨大な城壁にぐるっと囲まれ中の様子は未だ見えないが少なくともかなり賑わっている事だろう。
『ここに私の体を用意できる人が居るのよね…』
ムゲンと一緒にここまでやって来たアルメダもトレドを守る城壁を見て驚いていた。特にムゲンと違いアルメダは生前ずっと自分の村の外へと出ていった事は無かったのでここまで巨大な都市を見るのは新鮮なのだろう。
「(とにかくまずは母さんから聞かされたギルドの方まで足を運ぶしかないよな…)」
幽体であるアルメダの肉体を用意できる人物はこの都市内にある【コマース】と言う冒険者ギルドに所属しているSランク冒険者で名前はドール・ピリアナと言う名前らしい。しかもかなりの人間嫌いでありギルドでも誰とも組まずソロで冒険者活動を行っているらしいのだ。
人間嫌いと言う難儀な性格に加えてSランク冒険者か……。面倒な性格の人間が力を持っていると面倒ごとに発展しそうで少し不安だな。
とは言えここでどれだけ悩んでいても物事は何一つとして進展はしない。何にしろまずは直接本人に出会う必要がある。
「とにかくまずは都市の中に入ろう。行くぞアルメダさん」
『ずっと思っていたけどアルメダで良いわよ。一応は享年はあんたと似たような年齢なんだから。それよりも……あまり人の目がある場所では私に話しかける時は気を付けなさい』
そう言いながらアルメダは都市の入り口の方に目を配る。
そこにはこの都市の検問を行う警備員が居るのだが自分に対して難しい顔をしながら見つめていた。
『私の姿や声は私が認めた相手にしか感知できないのよ。つまり今のあんたは独りで虚空に話しかける危ないヤツに見えているんでしょうね』
「(し、しまった。ここまでの道中でほとんど人とすれ違わなかったからうっかりしていた!)」
羞恥心から顔を赤くしながら都市の入り口で検問を受ける。
検問中に警備員は自分を訝しんだ眼で見ていたが特に怪しげな物を所持していた訳ではないのでトレドに入る事は何とかできた。ただ最後に『何か危ない薬は服用していないだろうな?』なんて少し厳つい顔で睨みを利かされたが。どうやら他の人間には見えないアルメダとの会話が筒抜けだったようで顔から火が出そうだった。
何はともあれ無事に都市内部に入り込む事が成功した二人は目の前に広がる光景に圧倒されてしまう。
商業によって発展したと言うだけあって街の中はかなり賑わっていた。見渡す限り様々なジャンルの商店が立ち並んでおり大勢の人間が行き交って活気に溢れている。
「凄い人数だな。何だか目的の人物を見つけられるのか少し心配になってきたぞ」
『流石に都市全体がこの辺りみたいに人がごった返している訳ではないでしょ。もっと都市の中央まで行けば人数も少なくなるんじゃない? この都市で暮らしている人だって大勢いるわけだし都市全体がすし詰めだと生活するだけで一苦労よ』
どうやらアルメダの予想通り都市内を進んでいくと少しずつ人の数がまばらとなり始める。そしてこの都市の中心地辺りに目的のギルド【コマース】があるらしい。
とは言え自分が知っているのは中心部辺りにギルドがあると言う事だけでギルドの正確な場所までは解らない。
「この都市はかなり広いからな。とにかく人に聞いていくしかないか」
そう言いながらムゲンは一番近くを歩いていた女性に声を掛ける。
見た感じでは二十台の整った顔立ちをした女性だが少し髪の色が独特だった。何しろ左右で黒と白の2色ヘアーの髪色をしているのだ。
「あのすいません。この近くに【コマース】と言う冒険者ギルドがあると聞いたんですが…」
「………」
質問をするムゲンに対して女性はそのまま歩き去って行こうとする。そのまるで反応を示さない女性を見て首を傾げるムゲン。
あれ、もしかして聴こえなかったのか? 結構近くから声を掛けたんだけどなぁ……。
改めてもう一度同じ質問を繰り返すムゲンであったが勢いよく女性が振り向くと驚きの言葉を返してきた。
「うるさいわね。わざと聞こえないフリをしているのに丁寧に改めて質問してくるんじゃないわよ。何で私が初対面の人間の質問に答えないといけないのよ」
「え…す、すいません」
「まったく…」
不快感を隠そうともせずそのまま歩き去っていく女性を呆然と眺める。
まさかこんな返され方をされるとは思わずしばし呆気に取られているとアルメダが代わりに口を開いた。
『何なのよあの女は。ただ場所を尋ねただけであの態度は失礼じゃない?』
「ま、まあ世の中には色々な性格の人間が居るし、もしかしたら男嫌いだったのかもな。別に人は他にも大勢居るんだから聞き込みは続けられるし別にいいさ」
これまでの理不尽な境遇を考えると今更あの程度の態度などそこまで腹が立たなかった。どうせあの女性とはこれから関わる機会もないのだから。
そう思っているムゲンであるがまさかすぐに彼女と再会を果たすことになるとはこの時の二人はまだ知る由もなかったのだった。
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