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IF もしもムゲンが闇落ちしたら 2

定期的にこの闇落ちシリーズも上げていきます。


 どうしてこんな事になった? 理不尽な理由から自分が面倒を見て来たパーティーメンバーから追放をされ挙句にはギルドからも、そしてライト王国からも追い出されてしまった。俺が一体どんな罪を犯したと言うんだ。なあ神様…教えてくれよ…俺がアンタの癪に障る何かをしたって言うのかよ!?


 幼いころから自分の身に宿っていた暴虐の力が周りの冒険者の嘲笑により思わず解放してしまい自分はギルドの人間を大勢傷つけてしまった。大勢の冒険者を瀕死状態にしてしまい、もしかしたら中にはあの後に命を落とした者も居たのかもしれない。

 もうギルドどころかライト王国にも居られなくなったムゲンは急いで追手の届かぬ場所まで逃げ続けた。

 どれだけの時間を逃げ続けただろうか。気が付けば人気の無い森の中へと辿り着いていた。


 「これからどうしたらいいんだよ……」

 

 そう言いながら項垂れて悲痛な表情を浮かべる。

 今の彼には完全に行く当てなど無かった。当然だがライト王国にはこれで二度と近づけないだろう。かと言って故郷に戻る事も出来やしない。恐らくだが数日の間には自分の手配書でも作成されてあらゆる町の至る所などに貼り付けられる事だろう。


 「くそ…俺の人生って一体何なんだ?」


 故郷の人間達からは〝怪物〟と蔑まれ村を追い出されて悲惨な人生だった。だが今の自分は最底辺にまで落ちぶれている。だからここからは這い上がって行けばいいと思っていた。だが故郷を出てからの自分は本当に這い上がっていたか? ギルドに入り【真紅の剣】と言うパーティーを結成した時はようやく自分にも〝仲間〟ができたと喜びを噛み締めていた。しかしまるで天から下界を見張っている神が自分に幸福など与えてやらないと言わんばかりに仲間達からパーティーを追い出された。そして最終的にはギルドからも追い出されまた孤独に逆戻りだ。


 どうして俺の人生はこうも周りの人間から嫌われるのだろう? 別に俺だって顔を合わせれば誰とでも仲良くなりたいなんて陽気な事は考えてはいない。でも心から信頼の置ける仲間を作る権利なら自分にだってあるはずだ。だが結局はまた独りぼっちとなってしまった。しかも今の自分は間違いなくお尋ね者として悪名を轟かせる事になるだろう。


 「はは…ははは…何だか生きているのが嫌になってきたな」


 そうだよ、こんな惨めな人生の中で藻掻き続ける行為を繰り返す事を〝生きている〟なんて言えるだろうか? むしろ不幸の代表の神の手のひらの上で弄ばれ続けているだけなのではないか。


 「今や犯罪者にまで落ちぶれた俺にはもう希望に満ちた未来はない。それならいっその事この場で死んだ方が……」


 虚ろな瞳をしながらムゲンは指先を魔力で強化した。

 このままこの刃物以上の切れ味を誇る手刀で自らの頸動脈でもぶっちぎった方が良いのではないかと本気で考えていた時であった。


 「やめてぇぇぇぇ!!」


 林道から少女と思われる悲鳴が聴こえてきたのだ。


 「……本当に神様は俺を楽にしたくないらしいな」


 今まさに死のうかと思っていた矢先に耳に聴こえてきた悲鳴にげんなりとしてしまう。普段の彼であればすぐに悲鳴の元まで駆け出していたのだろう。だか生きる気力を失っている今のムゲンは心底めんどくさそうな顔をしながら林道の方に顔を出して様子を伺ってみる。


 「このアマ! 逃げようだなんてふざけたことをしやがって!!」


 「お願い助けてください!! どうしてこんな事するのぉ!?」


 「どうしてだと? お前達が〝売り物〟だからだよ!!」


 視線の先では猫耳を生やしている自分と似たような年齢の少女が泣き叫びながら屈強な男に押さえつけられていた。

 よく見るともみ合っている二人の少し先では大きな幌馬車が停車している。ただ気になるのはその幌馬車が運んでいるものだ。


 「奴隷商か…」


 馬車の荷台には首輪と手錠を付けられている者達で溢れていた。しかもその全員が若く男受けしそうな容姿をしている亜人だった。


 「全員が女性…亜人専門の娼館にでも売り飛ばされる商品か」


 だとするならば自分が出る幕ではない。奴隷商は国から認められている商売だ。たとえ非人道だと思われても定められたルールを逸脱していないのであれば止めに入る権利はない。それに…今の自分には人助けなんてとても考える気力もない。


 そのまま見て見ぬふりをしてその場を立ち去ろうとするムゲンであるがまたしても少女の悲鳴が聴こえてきた。だが今度の悲鳴は先程までとは質の異なるものだった。


 「うぐっ、ひぎぃ!?」

 

 「この小娘がいい加減にしろよ! こっちは大事なお得意様から時間指定されていて遅れたら料金半額にされちまうんだよ!! それに信用だって落ちちまう!!」


 必死に抵抗する猫耳の少女に怒りが堪えきれなかった男は手を上げて無理やり馬車に戻そうとしていた。殴る蹴るの暴行を目には見えない服の上から行っている。

 その光景を離れた場所から見ていた相方の男が咎める。


 「おいあまり傷物にするなよ。いくら見た目が良くても痣だらけだと〝売値〟が下がっちまうよ」


 それは少女の身を案じているのではなく得られる金の心配からの発言。


 理不尽な暴力に晒され、その上に誰からも心配されない少女を見てムゲンの中にかつての故郷でのトラウマが蘇りつつあった。


 どうして同じ命をここまで差別できる? 俺やあの娘が差別されるような行いをしたのか? いや違う、所詮誰もかれもが自分の利益を優先して生きている。だから自分以外がどうなろうと知ったことではないんだ。村中や仲間から迫害されようが、奴隷として金銭に変えられようが知ったこっちゃない。自分さえよければ良いとこの世界の誰もかれもが考えているんだ。


 だったら…俺も自分のやりたい事を優先してやる。その結果誰がどう損害を被ろうが知ったことか。俺のその身勝手な行いで最悪誰かが〝死んだとしても〟……構うものか。


 そこまで思考が行くとムゲンは既に走り出していた。そして猫耳の少女を殴りつけている男の頭部に魔力で強化された拳を叩き込んだ。


 「おごえ!?」


 ムゲンの拳はまるで粘土の様に男の頭部をへこませて絶命させる。その光景を見ていた相方の男が悲鳴を上げようとするが、男の口が開いた瞬間にムゲンは全力で手近にあった石を投擲していた。その石はその男の頭蓋を貫通してそのまま即死させる。


 「ああ…罪悪感がまるでわかない。これが…ルールに縛られない生き方かぁ」


 初めて人を殺したにもかかわらずムゲンはかつてないほどの爽快感に包まれていた。


 そうだ、誰もが自分の利益を一番に考えるのならば俺だってそうやって生きていけばよかったんだ。どうしてこんな簡単な結論に辿り着けなかったのだろうか? 村の連中だって怖れられた力を使って黙らせればよかったんだ。理不尽にパーティーを追放した【真紅の剣】のメンバーも腹いせに半殺しにしてやれば良かったんだ。


 「くは……くははははははは!!!」


 たった今、二人もの人間を殺したにもかかわらずムゲンは笑っていた。


 その笑みは完全に〝人間〟の浮かべる笑みではない。他者を食い物にする〝怪物〟の浮かべる笑みだった……。



もしこの作品が面白いと少しでも感じてくれたのならばブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。自分の作品を評価されるととても嬉しくモチベーションアップです。

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