ミリアナの後悔物語 1
ホルンの次に番外編の主役としてスポットライトを当てたのは主人公の幼馴染であるミリアナです。幼馴染の後悔の物語…スタートです。
商業都市トレドにある冒険者ギルド【コマース】では多くの冒険者達で賑わっていた。
だがそのギルド内に1人の少女がやって来ると周りの冒険者達は一斉に静まり返ってその少女に視線を向けた。
その少女は美しい黒髪の長髪で凛とした瞳をしていた。堂々としているその端正な顔立ちは男性だけでなく同性の冒険者をも虜にするほどの魅力を放っていた。
「はあ~今日も凛としてカッコいいなぁ〝戦姫様〟はぁ。私もあんな風な女性になれたらなぁ」
このギルド【コマース】には3組のSランク冒険者が存在する。そしてこの少女、ミリアナ・フェルンはソロでSランクの称号を持つ冒険者の1人だ。《剣士》の職に就いておりその剣捌きは神がかっており、彼女の剣で斬れないものなど無いとギルド内の冒険者達からは噂をされ羨望の眼差しを向けられている。
周りから向けられる視線を意に介さずミリアナは受付まで行くと依頼達成の報告を済ませようとする。そんな彼女に一人の美男子の青年が3人の女性達を引き連れて近寄って来た。彼はAランク冒険者のモブルと言う名の青年でそれなりに実力がありミリアナと同じ《剣士》だ。ただ彼は女遊びが少し激しいと噂されている。何しろ彼と一緒にパーティーを組んでいる3人の仲間も全員が女性なのだ。しかも全員が美少女でなおかつリーダーであるモブルに惚れこんでいる。その為か他の男性冒険者からやっかみの視線を向けられている。
彼は真っ白な歯を見せながら自分のイケメン顔を近づけてミリアナを食事に誘う。
「いやぁいつ見ても貴女はとても凛々しく魅力溢れる女性だ。どうかなミリアナさん。どうやら仕事帰りみたいですのでこの後一緒にお食事でも?」
人当たりのよさそうな笑みを浮かべて更にもう1歩モブルは近づいてきた。
彼の後ろではミリアナに対して彼に惚れこんでいる女性達が嫉妬に満ちた視線をミリアナに向けている。心配せずともこんな軟派な男などミリアナの眼中にはない。それ故に彼女はモブルの誘いに対して即答する。
「お断りするわ。食事なら宿に戻ってすませるから」
「そう言わずに。いつも自分の誘いを断っていますが偶には息抜きも必要ですよ?」
「悪いんだけど私は息抜きと称してあなたに抱かれる気はないわよ。あなたの女癖の悪さはとても有名だと自覚したら? それに後ろの彼女達も私にずっと嫉妬心むき出しの視線を向けて来て居心地も悪いわ」
そう言いながらミリアナはモブルとまともに視線すら合わせようとはせず、受付の職員に伝えるべき事を伝えるとそのままギルドを出ていこうとする。
表面は優し気な困り顔を浮かべるモブルであるが内心では唾を吐きながら不満を垂れ流していた。
「(くそ…このアマ、相変わらずガードが堅いな。この俺様が食事に誘ってんだぞ? 他の女共はホイホイと付いてくるのにコイツだけは思い通りにならねぇ……)」
モブルはこれまで何度もミリアナに対して今回の様にアタックを繰り返していた。彼は持ち前の美顔とAランク冒険者としての実力で気に入った女を何人も虜にして自分の物にしてきた。今彼とパーティーを組んでいる3人の女性は特にモブルにとってのお気に入りだからこそパーティーメンバーにしたのだ。だがその3人以上に目の前のミリアナを彼は自分の女にしたかった。
「ちょっと待ってくださいよ。せめてお茶ぐらい…!」
これまで何度も声掛けをしてきたにもかかわらず進展する様子が無い事に内心で苛立ちが募っていたモブルは思わずギルドを出ようとする彼女の肩を掴んで強引に引き留めようとする。
だが気が付けばモブルは浮遊感と共に自身の視界が逆さまになっていた。
「いだっ! ぐ、な、何を……」
地面に背中から落ちてようやくミリアナに背負い投げをされた事に気付く。
「気安く女性の体に触れるべきではないわ。全ての女性があなたに対して好意的になると思わない事ね。今までそれなりに気を遣って来たけど分からないならハッキリ言うわ。私はあなたみたいな男性は好きになれない」
そう言うとミリアナはそのままギルドを出ていった。
「何よあの女。周りから〝戦姫〟なんて言われてお高く留まってくれて!」
「モブルも気にしなくてもいいよ。あの女は人を見る目がないだけだから」
「それよりもモブル、代わりに私達と一緒に食事に行きましょうよ♪」
そう言いながらモブルのパーティーメンバーの女達は彼を慰める。だがそんな彼女達を雑に振りほどきながらモブルは内心でこんな事を考えていた。
「(俺様はまだ諦めねぇぞ。俺が欲しいと思った女は必ず手に入れて見せる。例えどんな汚い方法を使ってもな)」
そう言いながら舌なめずりをして彼の端正な顔つきが一瞬だけ醜く歪む。だがすぐにいつもの人の良さそうな柔らかい表情になると自分の仲間である女性達と一緒にギルドを出る。
「少しドタバタしてしまったね。それじゃあこれから4人で近くの高級料理店でも行こうか」
先ほどまでミリアナに対して怒りを覚えていた彼女達はモブルに優しくされて一瞬で上機嫌になる。そんな単純な自分の女達を見ながら彼は内心で小さく笑う。
「(本当に扱いやすい女達だよな。待ってろよ〝戦姫〟ちゃんよ。いつかはコイツ等と同じく俺の虜にしてやるからよ……)」
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