故郷で起きた凄惨な過去
母さんとの話も終わり日も沈んで来たのでムゲンは自分の部屋のベッドの上で横になっていた。
久しぶりに帰って来た自分の部屋は数年ぶりではあるが気持ちが落ち着く。自分の為の部屋であるが故に宿で借りている部屋よりも居心地が良いのだ。
ベッドに身を預けながらムゲンの脳内では色々と考えが散りばめられており纏まりがついていなかった。
「まさか自分の父親が竜だったとはなぁ……」
物心つく頃にはもう亡くなっており顔も憶えていないからだろうか。自分の父の死について語られてもいまいちピンとこない。だが父の命を奪った相手が【ディアブロ】の人間である事を知ると何故か腹の奥底が少し熱くなっていく。
巨大闇ギルド【ディアブロ】……くそっ、あいつ等はどこまで俺の人生に関わってくれば気が済むんだよ。
まさかのあの腐った組織の人間に父の命を奪われていた。その事実を何度も頭の中で繰り返すと無意識に下唇を噛んで悔しそうな表情になる。
「だが竜である父を殺すとなると生半可な実力者では不可能なはずだ。恐らくはあのナナシと同じ支部長クラスなんだろうな……」
別にムゲンは自分から【ディアブロ】に近づいて組織の壊滅をしようなんて大それた事を考えてはいない。闇ギルドに自分から感情に任せて攻め込むなんて勇敢ではない。それはただの考えなしの無謀な自殺志願者だ。
だがしかし、もし何かしらの形でまたあのギルドの人間とぶつかり合う時は……今までよりも感情が荒れそうで自分自身が怖いくらいだ。
「まあ今は【ディアブロ】よりもこの村の現状の方が遥かに問題だよなぁ」
今のこの村で生活をしているのは母のスーザンだけなのだ。一体他の村人達はどこへと消えてしまったのか、その理由を母から聞いた時にムゲンは反吐が出そうな気分にされた。
目をつぶりながらムゲンは母の口から出たこの村の閑散とした説明の時の会話を思い返す。
『村の外れの池から〝呪い〟が漏れ出ている?』
母の口から出て来た〝呪い〟と言う単語を聴いてムゲンは眉を顰める。
この村の様な古い地域ではよく大人が子供を脅かす為に使う与太話でその類は耳にする。だがそのどれもが信憑性の無いくだらぬものだ。
しかし他の誰かが言うならばまだしも自分の母はこんな下らない冗談は言わない。それは今話している彼女の真剣身を帯びている瞳を見れば明白だった。
『呪いとは言ったけどそれはあくまで比喩表現にすぎないわ。ただこの村の外れに大きな池があるでしょう。そこから漏れ出る魔力とは異なる力が村を蝕んでいるの』
この村の惨状を語る前にかつてこの村で起きた〝悲劇〟について母の口から語られた。その話の内容はとても同じ人間のした行いだとは思えなかった。そしてこの村の惨状も『自業自得』としか言いようがなかった。
それはまだレッドとスーザンがこの村に身を置く時よりも十数年前まで遡る話だ。この村には一人の少女が楽し気に生活を送っていた。少女の名前はアルメダ・クーデレと言う名の明るい性格をしていた普通の女の子だ。だが彼女には村人達に隠し続けたある秘密を抱えて生活していた。
その少女の背中にはまるで人間の顔の様な痣があったのだ。しかもその痣はまるで苦しんでいるかのような苦痛に歪んでいるような表情をしていた。だが所詮はただの痣にすぎない。実際にその痣は偶然そのような形であっただけで一切村にも彼女の身にも害は無かった。ただ恥ずかしいから見られたくない、それだけの秘密にすぎないはずだった。
しかしその少女が14歳の頃に村で大事件が起きた。その事件とは前村長の原因不明の病による死であった。
原因不明などと言われているが大きな町の名医などに診せていれば病名も解明されて前村長も助かったのかもしれない。しかしその村長は余所者を心底毛嫌いしていた。決して村の外には出ず、自分自身も外に足を延ばす事はしなかったそうだ。もしこの前村長が今も存命であれば母さん達が村で生活する事も認めなかっただろう。
だが外部に冷たい分、その前村長は村の人間を愛していた。だからこそ村の中では彼は全ての村人から慕われていた。そんな人物が亡くなり村は悲しみに暮れる。
そしてこの前村長の死が何の罪も無いアルメダの死につながってしまう。
『私もレッドもその頃はまだ村に移住していなかったら詳しくは知らないわ。でもどうやら前村長が謎の病死を遂げた事で村人達の一部が疑心暗鬼に陥ったそうなの。そして前村長が死んだその日に彼と顔を合わせていた人間達を徹底的に調べ上げたそうなのよ。アルメダと言う少女も前村長と会っていたから調べられ、そして彼女の背中にある奇妙な痣の存在もこの時に知られてしまったそうなの』
『でも結局前村長の死は病死なんでしょ? 正直その日に関わっていた人物を調べても意味がないと思うんだけど……』
『そう…それが正常な人間の判断よ。でもね、前村長を慕っていた1人の村人がとんでもない事を言い始めたの』
前村長が原因不明の病で死んだのはこの少女の呪いに違いない! この苦悶の顔を浮かべている痣を見て見ろ! この少女が前村長を呪い殺したんだ!!
それは完全な言いがかりだ。前村長は呪いでなく病気で命を落としたのだ。だが1人の村人の馬鹿な妄言に対し次第に周囲の村人も感化されつつあり、このままでは村人達から殺されかねないと悟ったアルメダの両親は信じ難い行動に出たのだ。
『俺たちの娘の周りでは昔から奇妙な現象が起きていて俺も妻も苦しんできた。この呪われた娘に俺達村の全員でケジメをつけようじゃないか!!』
己の命可愛さにアルメダの父と母はあろうことか娘を差し出したのだ。
そして少女はこの村の理不尽によって苦しみ藻掻き命を落とす事となる。
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