数年ぶりの親子の会話
「まったく数年間もどこをほっつき歩いていたの。でも無事に帰ってきてくれて良かったわ」
「うんそうだね母さん。でも……ここまでボコボコにしなくても良かったんじゃないかな?」
無事に感動の再会を果たした親子はしばし互いを強く抱きしめ合いながら涙を流し合った。そしてひとしきり涙を流すとスーザンは涙を拭いながらこう言った。
『帰って来たのは嬉しいわ。でも勝手に数年も居なくなった罰はちゃんと受けてもらうわよ』
その言葉と共に再び笑顔を浮かべた母だったが、その笑みは再会の時に見せたものとは違いあまりにも怖ろし過ぎた。顔は笑っているのにムゲンの眼には母の顔が般若の様に映ったのだ。
そしてお仕置きと称してボッコボコにタコ殴りにされてしまい今の今までしばらく気を失ってしまっていた。
ま、まさか実の母親にマウントを取られて殴られるとは……平手打ちの2、3発は覚悟していたがこれは少しオーバーキル過ぎるのでは……。
まあ母の立場からすればそれだけ勝手に居なくなった息子が心配で許せなかったのだろう。これぐらいの痛みは甘んじて受けるべきだ。
腫れあがった頬を押さえているとスーザンはミルクを1杯淹れてくれた。
「はいどうぞ。ホットミルクよ」
「ありがとう……」
この温かなミルクを飲むと昔を思い出す。寝る前や泣いている時などよくこのホットミルクを母さんは淹れてくれて気持ちを落ち着かせてくれた。
や、ヤバい。今はこのミルクを飲むと気持ちが落ち着くどころか涙が……。
久しぶりの母の淹れてくれた飲み物にまた涙腺が緩みそうになる。それを誤魔化す為に一気にミルクを飲み干した。
「あぢゃ!! あつつつ……」
「もう何をしてるの。成長したように見えるけど中身は昔のおっちょこちょいのままね」
そう言いながらも母はどこか嬉しそうに笑う。
その笑みにつられてムゲンも思わず吹き出してしまいそうになる。
別に中身など全くない会話だが数年ぶりの親子の会話は本当に楽しかった。
だが会話をしながらもムゲンにはどうにも気になって仕方がない事があったのだ。
「(どうして母さんは〝両目〟がしっかりとあるんだ?)」
幼いころに自分のせいで母は片目を失明したはずだ。しかし今のスーザンにはしっかりと〝綺麗な両目〟があるのだ。
「母さん、その目はどうしたの?」
やはり質問をぶつけない訳にもいかずスーザンへ失明したはずの片目が何故ちゃんと存在するのかを問う。
「ああこの目のことがやっぱり気になるわよね。実はこの片目は義眼なのよ。でもただの外見だけを模して作られた飾りではないわ。ちゃんと普通の眼と同じく見えているわ」
「ど、どうやってそんな代物を…まさか母さんが作ったのか?」
確かに母はかつては腕の立つ《魔法使い》の職に就いていた冒険者としての経歴があるがまさかこんな高性能な義眼まで作れたと言うのか?
そんな驚愕しているムゲンの質問に対して首を横に振りながら答えを教えてくれる。
「この義眼については〝とある冒険者〟に作成してもらったのよ。それよりもムゲン今度は私の方から質問をさせてちょうだい。あなた…今は一体どこで何をしているの?」
この数年間何の音沙汰の無かった息子がちゃんとやれているのかずっと不安で仕方がなかった。こうして目の前に現れてくれたがきちんと生活できているのか直接訊くまでは心から安心できない。
そんな息子を想う母の質問に対してムゲンは正直に村を出てから今に至るまでの自分の足跡を赤裸々に話した。
故郷を出てからしばらくは浮浪者の様な困窮した生活を送っていた事、しかし紆余曲折を経て今は仲間も出来て冒険者パーティーを結成し上手くやれている事まで話した。そして――自分が過去の様に我が身に宿る強大な力で暴走した事実まで……。
「そう…ちゃんと仲間が出来て生活は問題なくできているのね」
「うん(恋人の件はもうしばらく黙ってよう)。でも…この村を出た原因である力の暴走をここ最近に2度も引き起こしてしまった。仲間の皆は優しいから気にしないで大丈夫と言ってくれた。でもやっぱり怖いんだよ。この力が母さんの時の様に大事な人を傷つけてしまったらと考えると……」
もしも自らの手で大事な人を傷つける、そんな取り返しのつかない事態をまた引き起こそうものなら自分はもう立ち直れなくなるかもしれない。何よりも愛する人にまで怖れられ嫌われてしまったら……かつて誰よりも仲良くしてくれたあの〝幼馴染〟のように……。
「教えてほしいんだ母さん。子供の頃はあなたは俺の異常な力や体についてははぐらかしていた。でも…もう俺だって冒険者をやれるまで成長した。だから隠している〝真実〟を話してほしい。そうしなければ俺はこの先も己の力に悩まされる」
「………」
真っ直ぐに自分を見つめる息子の瞳を見て覚悟が十分に備わっている事をスーザンは理解し、小さく一度だけ深呼吸をすると頷いてくれた。
「分かったわ。どの道あなたが村を出ずとも時が来たら全てを話すつもりだったの。何故あなたはそんな強大な力や強靭な肉体を持っているのか? そして、あなたの父親についてもね……」
そう前置きを呟き終わると母は息子へとこれまで隠し続けていた秘密を語りだした。
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