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掘り起こされるトラウマ


 拳の乱打の最中にユーリの腹部から1匹の魔獣が飛び出してきた。顔面目掛けて飛んできたその魔獣の噛み付きを間一髪で回避する事は出来た。しかしそれは致命的な隙を目の前の少年に対して見せてしまった事にもなる。


 「オラァッ! ガラ空きだぞ間抜けがッ!!」


 「あぐっ!?」


 自分の腹部へと竜の拳がぶち当てられる。

 殴られる直前に腹筋に魔力と力を籠めて致命には至らなかったがそれでもダメージは大きく血反吐を吐き出す。

 しかも地面に倒れ込んでしまった自分にユーリの腹から飛び出して来た魔獣が喉元へと食らいつこうとしてくる。


 「ぐっ、離れろや!!」


 空中へと跳んで自分目掛けて落下してくる魔獣目掛けて拳による弾丸、拳圧を飛ばして迎撃する。だが相手の魔獣はかなり勘が働くのか目に見えない空気の弾丸を空中で身を捩って躱して見せたのだ。


 「(今のを避けるなんてかなりレベルの高い魔獣だぞ。しかもどういうカラクリか知らないがあの魔獣は間違いなくあの少年の腹から飛び出してきた……)」


 一旦距離を取ってユーリと魔獣と対峙する。

 最初は腹から魔獣が飛び出してきた光景が鮮烈すぎて気が付かなかったがあの魔獣の身体能力に戦闘勘の良さ、そしてあの出で立ちは間違いなくフェンリルだろう。何故伝説とまで怖れられている魔獣が腹の中から飛び出してきたのかは不明だが今はその謎の解明は後回しにすべきだろう。


 「(さっき話を盗み聞きしていたが確か人体実験とか言っていたな。あの竜の腕と言い腹から魔獣が飛び出て来た事と言いその実験の産物と言う事なんだろう。だが今一番ヤバいのはあのフェンリルが俺を無視してウルフ達の方へと向かった場合だ)」


 まさかのフェンリルと言う最悪の魔獣まで追加されてしまった。この状況、2対1は確かに厳しいがもしもあのフェンリルがウルフ達の後を追ってしまえばかなり不味い。フェンリルは鼻も利くらしいので今からでも彼女達を追えるだろう。

 もし追われる対象がローズとウルフだけならまだ問題ない。だが今の二人には守るべき対象が居る以上はさぞ戦いずらいだろう。


 「……やるしかないか」


 たとえ相手が自分よりも小さな少年だとしても自分の大事な人に危害を加えると言うならば認めるわけにはいかない。それに何よりこの少年はれっきとしたあの極悪非道の【ディアブロ】の一員、しかも支部長を務めているほどの存在だ。自分には余裕などない。


 「(それに味方が傍に誰も居ないこの状況なら巻き込む心配もない。ならば……)」


 ムゲンは大きく深呼吸すると己の奥底に鎮座している力の塊を呼び覚ました。


 「何を急に黙り込んでやがる? それとも往生したのか。だったら潔く俺のポチの餌になれや!」


 構えを解いて無防備な状態のムゲンを見て諦めたと思ったユーリはフェンリルをけしかける。

 自らの主人からの命を受けたフェンリルはまるで稲妻のような速度で一瞬でムゲンとの距離を詰め終える。そして数多のモンスターや人間を食い千切って来た強靭で鋭利な牙を頸動脈へと突き立てた。


 ――バギンッ…パキパキ……。


 ムゲンの首へと牙が突き刺さった瞬間にアジト内には奇妙な音が響き、その音はユーリの耳にも届いた。それは例えるならばまるでガラス細工が砕けた時のような音だった。

 だが耳に入って来たこの音も気になるがそれ以上にフェンリルがムゲンの首に食らいついているにもかかわらず一向に彼の首元から鮮血が舞う様子がないのだ。


 「離れろよこの駄犬が」


 今までとは違い低い声が首を齧られているムゲンの口から放たれる冷淡な言葉。

 そして次の瞬間にユーリはとんでもない光景を目の当たりにする。


 「吹っ飛べよ犬っころ」


 ユーリが瞬きをした次の瞬間にフェンリルの巨体が自分の背後の土壁まで吹っ飛ばされていたのだ。

 あの伝説の魔獣が人間の拳で吹っ飛ぶ、そんな馬鹿げた光景など今まで一度も見たことのないユーリは一瞬だけ思考が停止する。


 「……ハッ、おい何をしているポチ!?」


 「く…くぅぅぅん……」


 「な…お前その牙は……」


 吹き飛ばされたポチの元まで駆け寄ると情けのない声をポチが上げる。そして口元を注視してみるとほとんどの歯が欠けているのだ。


 まさかさっきのガラスが砕ける様な音はポチの歯が砕けた音だったのか? 馬鹿な…いくら魔力で強化されているとは言え人間の肌に食いついてフェンリルの牙が折れるなんて事があるか!?


 「きゃうんきゃうん!!」


 「こ、こらポチ勝手に帰ろうとするな!」


 情けない鳴き声と共に伝説とまで怖れられたフェンリルは子犬の様に鳴いてユーリの体内の中に戻っていく。

 いつもならばペットの身を案じる彼であるが今の怒り心頭の状態の彼はペッと唾を吐き捨てる。


 「あの馬鹿犬が。今日は餌抜きだ」


 そう言いながらユーリはムゲンの方に向き直るが彼はどういう訳か頭を抱えて勝手に苦しんでいた。


 「うぐ…があああ………あああああ!!!」


 「ああん? な、何だぁ…?」


 頭を押さえて唸っていたかと思うとムゲンはいきなり壁に向かって頭突きを始めたのだ。

 完全にトチ狂っているムゲンの状態に隙だらけにもかかわらずユーリは不気味さから迂闊に近づけないでいた。


 この時にムゲンの脳内では忌まわしい記憶がぶり返していたのだった。


 「や…やめろ! 俺にこの記憶を思い出させようとするな……!!」


 自分に対してそう言い聞かせるムゲンだが無情にも彼のトラウマは脳裏にしっかりと描かれ始めた。



 

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