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モルモットの過去


 それはこの場に居る全ての者にとっては完全に予想外の訪問者であった。ムゲン達側だけでなく山賊側だって全員がもう決着だと思い込んでいた。ただエッグだけが無意味な悪あがきを働こうとしているだけで無事に終わると思っていた。


 だがそんな終わりかけの空気を霧散するかのように現れたのは最強最悪の闇ギルド【ディアブロ】の人間、しかも第2支部の支部長と言う猛者が出現したのだ。

 

 「こ…子供がどうしてここへ……?」


 アセリア姫は相手が自分よりも幼い子供と言う事でむしろ心配して近づいて手を差し伸べようとする。だがそんな彼女の前にローズが壁のように立ちはだかり腹の底から大声を出す。


 「お下がりくださいアセリア様!! この少年は危険です!!」


 「な、何を言っているんですの? あんな小さな子供……」


 「いえ王女様。ローズさんの言う通りここは下がっていてください。彼女の護衛は頼むぞウルフ」


 「うん任せて。王女様はこちらに」


 いつの間にかアセリアの周りには3人が全員集合して少年を睨みつけていた。

 だがアセリアは正直この状況に納得が出来なかった。あんな無防備で弱々しい少年に寄ってたかって敵意を向ける事は間違っていると思っていた。

 しかしすぐにこの王女様は知る事になる。ビクビクとしている一見ひ弱そうなあの少年の振る舞いは〝擬態〟であると言う事に。


 「えっと久しぶりですねエッグさん。その…腕が1本ない状態で気の毒ですけど死んでもらいますね?」


 「ひいいい!! な、何でお前が出て来るんだよ!! やっとあのクソ【ディアブロ】から逃げ出せたってのによぉ!!」


 今のやり取りを聞いてあのエッグとやらが元は【ディアブロ】の人間であることを悟るムゲン。


 そう言えばさっきあの子供が『ケジメを付ける』とか言っていたな。と言う事はあの支部長を名乗る少年は俺達でなく裏切り者の粛清の為にやって来たと言う事か?


 彼の考えている通りエッグは元々はディアブロの一員であり、そしてユーリ・コロイの部下でもあった男なのだ。そして彼とユーリには同じギルドと言う事以外にもある共通点があった。


 「ぼ、僕たちを助けてくれた【ディアブロ】を裏切るなんて許されないことです。だ、だからエッグさんには僕が直接報いを与える……!」


 実はこの二人は【ディアブロ】に加入する前まではとある闇ギルドの戦闘用の為に人体実験を行われ作られた〝殺戮兵器〟だったのだ。エッグの持つ肉体を魔獣の一部に変化させる力も戦闘能力向上を目的に植え付けられた力なのだ。人体に魔獣の肉体の一部を移植してその力を引き出されるように改造を施され、同じような改造を施された他の人間のほとんどは植え付けられた魔獣の細胞に適合できず肉体が崩壊したり、精神が狂い自害するなどして死んでいった。そしてユーリの施された改造は彼よりもより凶悪なものでエッグはいつも彼に恐れをなしていた。

 だがある日のこと【ディアブロ】の第1支部の支部長である女性が彼等の闇ギルドを襲撃して壊滅させた。そうして彼等を苦しめていた牢獄はなくなりユーリ達は自由を得た。


 壊滅したギルドのアジト内の片隅でユーリは破壊されたアジトの光景をぼーっと眺めていた。

 そんな動く気すら見せようとしないユーリ達実験体へと第1支部の金色の美しい髪の女性が歩み寄って来た。


 『このギルドで噂になっていたモルモット達か。色々と非人道的な行為をされ続けたらしいな』


 『……何で殺さないの?』


 そう言いながらユーリはどす黒く濁った瞳を女性へと向ける。この時の彼はまだ5歳の子供であった。本来ならば感情豊かな子供が全てに絶望して諦めきっているその目を見て女性は剣先を向ける。


 『お前には強力な力が有るだろうに。何故向かってこない? 例えこのギルドの為でなくとも自分の身を守るために与えられた力を使ったらどうだ?』


 『その後はどうしたらいいの?』


 彼女の見抜いている通り今のユーリは非人道な実験や改造で与えられた強大な力を持っている。実際のところその気になればこの女性が攻め込まずとも彼はこのギルドに居た人間を全員殺すことも出来たかもしれない。

 だが今の彼はもう自ら思考する事を完全に放棄していた。


 『もう親にも捨てられた僕がお姉さんに勝ったところでその先の未来がないんだよ』


 『そうか。力が有っても生きる目的がないか。確かにそれならお前は生きていても仕方がないのかもな』


 そう言うと女性は手に持っていた剣を横一閃して切断した――彼の首に巻き付いている首輪を。


 『それなら私がお前の生きる目的になってやる。力を使う意味が欲しいのならば私の為だと思え。生きる意味が欲しいのならば私の為に生きろ』


 そう言うと女性はユーリの小さな手を掴むとそのまま引っ張り抱き寄せる。

 ボロボロで薄汚れ虫がたかっている汚らしい彼を何の躊躇もなく抱き寄せると耳元でそっと囁いた。


 『今日からお前は【ディアブロ】の一員だ。そしてこの私の下僕でもある』


 この日実の親にすら売られ、人として扱われず人体実験を受け続けたモルモットのユーリ・コロイには生きる意味が誕生したのだった。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] ディアブロという組織がいまいちわからないでいるがどこか一本筋の通った組織のように感じるな。まぁ大半の構成員はただのクズなんだろうけど。
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