ホルンのやり直し冒険譚 7
次回この『ホルンのやり直し冒険譚』は最終話となります。今後はまた別のキャラにスポットを当てたお話をしようかどうかはまだ考えてはいませんがもしかしたら他のキャラの話が出るかもしれません。
新たな仲間のマホジョが加わった【不退の歩み】は更に強力なAランクパーティーとしてギルド内でも更に評判は上々だった。それに新たに加入したマホジョは元々はAランク【戦鬼】の《魔法使い》で実力も相当なものだった。しかも彼女の昔話を聞いたのだがあの【黒の救世主】のSランク《魔法使い》のハル・リドナリーに魔法のイロハを教えていた過去もあるらしい。
だがここ最近で少しカインには気になる事があったのだ。そう、無視できないことが……。
「………」
「えっとホルンさんどうかしたか…?」
「別に……」
依頼を無事に達成して町に戻る道中ではホルンが少しツーンとした感じでカインから目を逸らしていた。
ここ最近のホルンの様子が少しおかしい気がするのだ。何だか渋面を浮かべる場面が多くなり、今のように素っ気ない態度を取られる事が増えている気がするのだ。
宿に戻ってもむすっとした表情をしている事も何度もある。その原因を聞いても『別に…』としか言ってもらえないので困りきっていた。
せっかく依頼をこなしても最愛の人の不満げな表情を見ていると達成感なんてまるでわいてこない。それどころか虚しさすら胸に去来する始末だ。
そんなどかこギクシャクしている二人を見てマホジョとセシルの二人は何やらひそひそと話し合っていた。
「何だか最近あの二人の様子おかしいわねぇ。どこかぎこちないと言うか」
「正確に言うのならホルンがどこかカインを避けているような感じなのね。そんでカインが落ち込んでいるって感じなのね」
「そうねぇ…まあでもホルンちゃんがむくれている理由は私には明白なんだけどねぇ」
「それは私も同じなのね」
カイン本人には恋人の不機嫌な理由はよく分かっていないのだろうがマホジョ達にはその理由は明白だった。その理由と言うのはまあようするにホルンはマホジョとセシルに嫉妬しているのだ。
自分と言う恋人が居ながら他の女と仲良さげに話をするのは恋人の立場からすればまあ面白くはないだろう。
そしてこの予想は見事に大当たりであった。ちなみに今のホルンの心境はこのようになっている。
「(もう何よカインったら。最近他の二人にデレデレし過ぎなんじゃないの?)」
まさに予想的中である。マホジョがこのパーティーに加入してからはパーティーの火力不足の問題も解消して戦闘時の安全性もかなり増した。だが男1人に女3人と言うこの構図により必然的にカインの周りには自分以外の女性が集まった状態が出来上がってしまった。無論マホジョもセシルもあくまで仲間と言う関係だ。だがそれでも思わず嫉妬を焼いてしまう。
我ながらホルン自身も器量がない嫌な女だと言う自覚を持って入るのだが……。
ハッキリ言って嫉妬こそしているが本気で彼に怒りを抱いている訳ではない。しかし一度意地を張ってしまった手前ホルンとしても引くに引けなくなっているだけなのだ。何か1つでも打破する切っ掛けがあればすぐに二人のギクシャクした関係は修復されるはずなのだ。
「しょうがないわね。私達で一肌脱いで仲直りさせる?」
「はあ~~~めんどくさいけどそれが良いと思うのね。このままだと依頼中にも支障が出て来ると思うのね。あの二人もモンスターとの戦闘で負傷する可能性も高いのね」
「あら面倒だなんて言っているけど意外と仲間想いなのね♪」
「……私自身が一番驚いているのね。元々は『あの男』の情報収集が目当てだったはずなのに……」
「え、今何て言ったの? 小さすぎて聴こえないわよ?」
何やらセシルが最後に小さな声でボソボソと言っていたが聞き取れず聞き返したが『何でもない』と言われて判らなかった。まあそれはさておき気まずい二人が元の甘い恋仲の関係に戻れる切っ掛けを作る事を裏で企てるマホジョとセシルだった。
そして計画を画策してからその二日後にマホジョはとある提案をした。
「え、皆で温泉旅行へ行こうって? 藪から棒に何よ……」
「まあいいじゃない。定期的にガス抜きは必要よ」
いきなり温泉旅行などと言ったマホジョを横目で見つめるホルン。急に【不退の歩み】のメンバー全員に招集をかけたかと思えば頓珍漢な発言をしてきたので彼女が呆れているとセシルが手を挙げて賛成意見を述べて来た。
「私も大賛成なのね。ゆっくりと温泉に浸かって日頃の疲れを癒したいのね」
「そうよねセシルちゃん。カイン君もいいでしょ? それに恋人同士で温泉旅行なんて中々にロマンチックだと思うんだけどなあ~」
そう言いながらわざとらしく含みのある言い方をしながらカインとホルンを見つめる。恋人同士で旅行と言われて二人の頬がひっそりと赤くなるがすぐにホルンは小さく鼻を鳴らした。
「こ、恋人同士なんて言っても二人も同行するじゃない。あくまでパーティーメンバーでの旅行でしょう」
「そ、そうだよな。あはは…」
確かにホルンの言う通りなのだがカインの方は少し気落ちしていた。
こうして【不退の歩み】全員での温泉旅行が決定したのだが当日になってカインとホルンにとっては予想外の事態が発生した。
「ええ、どういう事よ? 言い出しっぺが急に行けなくなったって」
「それがねぇ私もセシルちゃんも野暮用が出来てしまったのよ。でももう準備も済ませて今更ナシだなんて勿体ないでしょ。だから二人だけで楽しんできてちょうだいな」
「いやでも…」
それなら日を改めようと言おうとするホルンに近寄り耳元でそっと囁いた。
「最近カイン君と上手くやれてないでしょう。この温泉旅行を機に仲直りしたらどうかしら?」
「……あなた達やっぱり仕組んで……」
「ふふ、わざわざセシルちゃんまで気を使って切っ掛けを作ってくれたのよ。無下にする気なのかしら?」
その言葉に視線をセシルの方へと向けてみると彼女も何やら嘘くさい理由を付けて二人で楽しんできてくれとカインへ話していた。
「それに同じパーティー内の人間がギスギスしていると私達も居心地悪いのよ。ね、二人で楽しんできなさいなホルンちゃん」
「………恩に着るわ」
こうしてマホジョ達の目論見通り恋人二人の関係修復の為の温泉旅行計画は見事に成就したのだった。
ホルン「私も本当は彼ともっと寄り添いたい。だから…二人のくれたこの旅行でちゃんと素直にならないとね……」