ホルンのやり直し冒険譚 6
新たな仲間であるセシル・フェロットを加えてからカインがリーダーである【不退の歩み】の戦力は増強された。新たなメンバーのセシルは《剣士》らしくその剣捌きはカインにも引けを取らなかった。こうして彼等のパーティーはどんどんと名を馳せていき、そして今日の依頼達成で彼等のパーティーは遂にAランクへと昇格できたのだ。
「いやー遂にAランクまで昇格達成したな。まさかここまで上れるなんて予想していなかったりして」
依頼達成の打ち上げとランク昇格のお祝いと言う事でいつもよりも少し値の張る酒場で彼等は乾杯していた。
「これもセシルがウチのチームに来てくれたお陰だな。それにホルンさんの力も頼りになるよ」
「何を言ってるのよ。一番の功労者はリーダーであるあなたでしょカイン」
「その通りなのね。私は纏め上げ役なんてできないからカインが居てこその【不退の歩み】なのね。まあ調子に乗り過ぎて戦闘時に時折視野が狭くなるところが玉に瑕なのね」
もうすっかりとセシルもチームに馴染んでおりカインへと今の様に軽口を叩くほどに仲良くやれている。ただ気になるのはセシルは時折ホルンからやたら【真紅の剣】に所属していたメンバーの話を聞きたがっている気がするが……まあ別に大した問題ではないだろう。
ここまで順調に駆け上がっていった【不退の歩み】、一見すれば何もかもが順調に進んでいるかのように見える。だが実はこのパーティーには1つだけ欠点を抱えていた。
お祝いの打ち上げも終宴際まで進むとここでカインが少し真剣な顔つきになった。
「しかしAランク昇格ばかりにうかうかと喜んでいられないよな。今日の任務でも思ったがやっぱりウチのパーティーには無視できない問題があるよな」
「パーティーの火力不足……ね……」
酒を一口飲みながらそう言うホルンの言葉に対してカインは無言で頷いた。
これまでの戦闘の中で度々思い知らされる事、それはこのパーティーには大火力の持ち主が居ないと言う点であった。接近戦はダブル《剣士》のカインとセシル、サポート役は《聖職者》のホルン。だが後方からの攻撃役がこのパーティーには存在しないのだ。一応はホルンにも攻撃魔法はいくつか存在するがやはり純粋な《魔法使い》には劣ってしまう。それは悔しいがホルン自身にも分かっている事であった。
「これから先の事を考えるとやっぱり後1人は誰か仲間が欲しいところだな」
「それについては賛成なのね。でもこのパーティーで仲間を増やす事はかなり難易度が高いことなのね」
「そうね。私やセシルと一緒のチームに入りたいと思う人間がいるかどうかね」
「そ、そんな自分達の事を卑下するなって」
本来であればAランクパーティーともなれば希望者を募ればすぐに仲間を作れるだろう。しかしこのパーティーに居る二人の女性、ホルンとセシルの存在が新たな仲間を作る事において難点だった。ホルンは過去の【真紅の剣】時代の悪名が大分薄れているとは言えそれでもまだ多少の陰口を言われているみたいなのだ。まあ彼女が更生してやり直している事を理解し認めている冒険者も大勢いるので彼女に対しての悪印象は大分沈静化したがそれでも一緒のパーティーで仕事はちょっとなぁと言う者が多いのだ。そしてセシルの方もギルド登録初日からやらかしたせいで悪い意味で目立ってしまい恐れられている。
勿論カインは二人を責める気は一切皆無なのだが当の本人達はそれなりに落ち込んでいる。
「(う~ん…でもやっぱり今後の事を考えるともう1人仲間が欲しいのも事実だ。実際にここまで依頼の中で危険な部分もいくつかあったし……)」
別にSランクの昇格を目指したいなどと功名心があるわけでもない。カインにとっての1番優先すべき事は仲間の身の安全だ。新しい仲間が欲しいと言うのもそのためである。
「まあ一番はパーティーの火力不足を補う為に《魔法使い》あたりにでも加入してほしいがそこはこの際いいだろう。まずは仲間を探すことから始めてみるか」
カインがそう言うと落ち込んでいた二人も顔を上げて憂鬱そうな表情を多少は晴らしながら同意した。
その直後であった。タイミングよくこのパーティーの加入を申し出る人物が現れたのは。
「ね、ねえ。今あなた達《魔法使い》の仲間が欲しいって言っていたけどちょっといいかしら?」
「「「え?」」」
振り返るとそこにはとてもグラマラスで仲間のホルンやセシルにはない大人の魅力を携えた女性が期待に満ちた目をしながらカイン達を見ていた。
「盗み聞きしていたみたいで少し申し訳ないんだけどお願いがあるの。実は私ここ最近自分のパーティーを解散してちょっと困っていたのよ。もし《魔法使い》が必要と言うなら私を仲間に入れてくれないかしら?」
「え、えっと…」
カインとしてもメンバーが増えるのは喜ばしい事だが流石に急すぎて戸惑っていると相手の女性は少し大胆なおねだりをしてきた。
「ねえお願い。私も早く仲間が欲しくて困ってるのよぉ♡」
「ちょちょちょ……!」
女性はカインの腕に抱き着いて豊満な胸を腕に押し付けて来る。
その様子を見てホルンの顔色がスンと能面のようになる。その恋人の視線を気にしながら張り付いてくる女性を引き剥がした。
「ごほんっ! まずは自己紹介から始めてくれないか。話はそれからだ」
「あらごめんなさいね。私の名前はマホジョ・フレウラよ。よろしくね可愛いリーダーさん」
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