反省しないパーティー
「お前ら一体全体あのざまは何だ!?」
見事に依頼を失敗した三人は自分達の泊っている宿に戻るとすぐに反省会を開いていた。
真っ先に感情を荒げて口を開いたのはリーダーであるマルクだった。木製のテーブルを苛立ちを混ぜて全力で叩くと他の二人の体がビクッと驚きに揺れる。
「後方支援であるお前達がしっかりしないから俺は全く思い通りに戦えなかったんだぞ! 何を遊んでいたんだ!?」
あのダンジョン内でいつも通りに戦えなかった原因は支援を怠った二人にあるとマルクは本気で思っていた。
だがマルクの怒りで最初は少し驚いていたメグもまるで一方的に自分達が悪いと責められた事で怒りを露わにして噛み付いていく。
「あのさぁ、言わせてもらうけど私だってマルクに文句あるんだけど。複雑で大きな魔法を使うには魔力の溜めが必要だって知ってるでしょ? それなのにほとんどモンスターをこっちに流してさ、あれじゃ私達だってあんたの援護を満足にできる訳ないでしょ!! 私達に魔力を無駄遣いさせて自分は何も悪くないって顔やめてくれない!!」
「ああん!? 何逆ギレしてんだよ!!」
「それはこっちのセリフよ!!」
互いに身を乗り出して失敗の責任を押し付け合う二人。
そんな頭に血が上った二人とは違いホルンは冷静に話し始める。
「二人とも…もしかしてだけど今回の失敗の原因はムゲンが抜けたせいじゃないかしら?」
「はあ? 何でここであの無能が出てくんだよ」
「私達は誰一人としていつも通りに戦えなかった。今にして思えば私達が大きな技や魔法を使う隙だらけの時、そのフォローを彼がしていた気がしない? だからこそ私達も身を守ってもらっていて安全圏で自由の戦えていたんじゃないかしら?」
「そ…そう言えば……」
ホルンの口から出て来た仮説は正直に言えばメグにも思い当たる節があった。
上級クラスの魔法を扱う時は初級魔法の時より発動に時間が掛かる。中には瞬時に上級魔法を発動できる者も居るだろうがそんな才能ある者は一握り、それこそ現役Sランクの《魔法使い》くらいだ。基本はランクの高い魔法を使う際には隙ができてしまう。そんな無防備な時はいつもあの無能が盾となって敵を押さえ込んでいた気がする。
それに比べ今回は誰も自分を守ってくれなかった。そのせいで大きな魔法を扱えず発動が簡単な魔法を連発していた気がする。
だがメグやホルンとは違いマルクはその事実に納得できず彼女の考察を全力で否定した。
「そんな訳ねえだろ。それじゃあ俺達が今までずっとアイツに守ってもらっていたみたいじゃないかよ。あり得ないつーの」
「だけど…今回の失敗を考えると……」
「いい加減にしろってホルン。お前は少し考えすぎなんだよ。今回は結局俺達全員の調子が悪かっただけだ。あの無能の助けなんてなしでも何の問題もない」
「そうだよね。私も一瞬あれって思ったけどあんな無能が重要な存在だった訳ないじゃん」
最初はホルンの考察を受け入れかけていたメグだが彼女もマルクと同じくプライドが高いタイプだ。それ故にマルクに便乗してホルンの考えすぎだと片付けた。
だが二人とは違いホルンは本当にただの思い過ごしかどうか自問自答していた。
確かに冒険者だって人間である以上は疲労や油断から調子が悪く成果を上げられない事は珍しくないだろう。だがムゲンが抜けるまでは全ての依頼を達成して来たのに彼が抜けた途端の初依頼失敗だ。しかも全員が碌な成果もあげれず無様を晒しダンジョンの入り口付近で逃走となった。
「(……こんな偶然が本当にあるのかしら?)」
とは言えここで自分のこの不安を口にしても他の二人は聞く耳を持たないだろう。特にマルクはこのパーティーのリーダーとしての誇りも兼ね備えている。そんな人物が無能扱いした人物に守られ続けていたなんて受け入れられないに決まっている。
しかしこのまま調子が悪かったと言う理由で納得し解散するのは不味い。そこで彼女はマルクにある提案をする。
「ねえマルク、次の依頼を受ける前に新しい仲間を見つけない? もしかしたら4人体制から3人へ減少した事も今回の失敗の要因かもしれないわ」
しかし彼女のこの提案を何故かマルクは首を横に振って拒否した。
「依頼を失敗した直後のこのタイミングで仲間を募ったら俺達三人だけじゃ実力不足だから仲間を募集していると流布するみたいじゃないか。ギルドの連中に変な勘違いでもされたら俺達Aランクの評価にも傷がつく。ましてやSランクを本気で目指しているこのタイミングでだ」
「確かにマルクの言う通りだよホルン。私もまずはSランクに昇格してから仲間集めをした方が良いと思う」
「……そうね」
本音を言うのであれば完全に二人の意見を納得した訳ではないが二人とも言い出したらきかないタイプだ。自分以外の二人が反対を唱える以上は自分も納得せざるを得なかった。
しかしホルンはこの時に無理を押し切ってでも仲間を集めるべきだったのだ。
そうしていればこの先の未来、【真紅の剣】があそこまで失墜する事もなかったろうに……。
何も反省しない反省会を終えた後に自分の部屋へと戻ったマルクはベッドに座りながらさきほどのホルンの言葉を思い返していた。
「今回の失敗はムゲンが抜けたせい。違う…そんな訳がないだろ」
確かにまだ自分達が新米冒険者だった頃はまだ使い道のあった男かもしれない。だが所詮は魔力値が低く殴る蹴るしかできない《拳闘士》だ。今やAランクまで成長を遂げた自分達とは冒険者としての格は天と地ほどの差があるのだ。もう用済みのガラクタ、自分だけでなくメグもホルンも同意したからこそクビにしたのだ。
「そうさ、今回はたまたま運悪く依頼を失敗しただけだ。第一依頼の失敗なんて冒険者の間じゃ珍しくないだろ」
自分の失敗をありふれたものだと言い聞かせ今日の依頼の失敗を忘れようとする。
冒険者が依頼をしくじること自体は珍しくもない。だが仕事をミスすればその者達は何が悪かったのかを反省して次に生かすものだ。だがこの【真紅の剣】は違う。何も反省せず意固地に自分達は優秀だから運が悪かったのだと片付けてソレで終わりだ。これでは何も成長しない。唯一ホルンはこの失敗の対策を考えようと意見したが結局は他の二人に流されてしまった。
結局こんな自己中心的な彼らがここまで成長できたのはムゲンのお陰だったのだ。彼が縁の下で支えていたからこのパーティーは順調にやって来れたにすぎないのだ。
「次の依頼で挽回すればそれでいい。俺達はAランクの【真紅の剣】なんだから…」
だが彼等の輝かしい功績はこの日以降から途切れてしまう。
この先の未来、彼等はドンドンと落ちぶれてしまう事を今の彼らは知る由も無かった。
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