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露天風呂での会話


 「あ~~~~~生き返るぅ~~~~~~」


 まるで中年オヤジのようなセリフと共に温泉に入浴して心身の疲れをソルは癒していた。

 絶景の景色を堪能しながら露天風呂を満喫する。どうやらタイミングが良かったようで他の客は誰もおらず完全に彼女一人がこの絶景を独り占めしている。だからこそ親父臭いセリフも堂々と口に出せる。


 だがしばらくすると脱衣所に続くガラス戸が開く音が耳に入り振り返る。


 「な……」


 「あなた……」


 やって来た人物を見てソルのリラックス状態だった表情が一瞬で引き締まってしまった。


 何故ならやって来た人物は自分の恋人を過去に苦しめていた女、ホルン・ヒュールだったのだから。


 「……失礼するわね」


 お湯をかぶって汚れを洗い落とすと温泉に入って来たホルン。

 彼女としてもこの邂逅は予想外だった。旅館でばったりとムゲンと会い気分を落ち着かせようと露天へ向かったがまさかの人物と顔を合わせてしまったのだから。


 向かい合いの状態で互いに無言の状態がしばし続いた。その静寂を先に切り裂いたのは意外にもホルンの方だった。


 「……ムゲンは…あなた達のチームで上手くやれてるかしら?」


 「オマエ……」


 思わずタオルも纏わずその場で立ち上がってしまった。それほどまでに今の目の前の女のセリフは癇に障ったのだ。

 あれだけ自分の大好きな人間を長期に渡って苦しめていた人間が一体どんな面でそんな質問をしている? 


 その場で『ふざけるな』と怒鳴ってやろうかと思ったが次のホルンのセリフで彼女は踏みとどまる事となる。


 「私はムゲンがあなた達と巡り合えたことに安堵しているわ。だって…今の仲間であるあなた達は私達と違って〝本当の仲間〟として彼を見てくれるから……」


 「………」


 「私は正直どんな顔をして【ファーミリ】のギルドに居ればいいのか未だに分からないわ。でも…彼が私を許してくれた。だからと言ってそれで私の罪が無かったことにならない。そして彼を真の仲間だと認めているあなたも私を許せないのでしょう?」


 「当たり前だろう。こっちは【真紅の剣】の時からお前達に何度も殴りかかろうとしたことか」


 「……それが望みなら抵抗はしないわ」


 そう言うとホルンもその場で立ち上がりソルの真正面に立つ。

 

 「私を許せないと言うなら好きなだけ殴りなさい。心配しなくても一切の抵抗はしないわ」


 タオルすらも取り払って完全な無抵抗をアピールする。その瞳には強い覚悟と大きな後悔が垣間見えた気がした。

 

 「そうか、なら歯を食いしばれよ」


 そう言うと彼女は拳を渾身の力で握りしめる。普段は細くしなやかな腕の筋肉が隆起し血管まで浮かび上がる。Sランクの《魔法剣士》ならば武器は無くともその気になれば人間を絶命させられる打撃すらも繰り出せる。無論だがソルだってその気になれば素手でも人の命を断ててしまう。

 流石に膨れ上がった腕を見て少しビビったホルンだが後退りはしなかった。それどころか目をつぶり覚悟を固めたのだ。

 

 「お前が今までムゲンを苦しめ続けて来た報いをきっちりと受けろ!!」


 そう叫ぶとともに放たれた彼女の一撃はホルンの鼻先まで伸びていき――そのまま鼻先で寸止めされた。


 「ど、どうして…?」


 殴られても文句は言うつもりなど無かった彼女からすれば寸止めされた事は不思議で訳を尋ねる。

 すると彼女は勢いよくお湯の中へと浸かり込むと不満そうにしつつもこう述べる。


 「もしもお前が口先だけで反省しているような事をほざいているならば容赦なく殴ってやったさ。だが本当に反省の念を感じさせる瞳を見せられたら殴るに殴れないだろう」


 「だとしても私にはあなたに殴られても文句を言う資格はないわ」


 「……あるだろうに」


 確かに自分はムゲンを苦しめた目の前の女が許せないと言う気持ちが未だにくすぶっている。だが張本人のムゲンが彼女を許してしまっているのに自分が彼のあずかり知らぬ所で彼女に制裁を加えるのはおかしな話だ。それでも…もし目の前の女が一切の反省をしていなければ例え本来自分に殴る資格がなくともぶん殴っていただろう。


 でも……そんな心底自分を悔いている表情を見せられると手を出せないだろうが……。


 今まで自分は【真紅の剣】の連中はロクデナシの集まりだと決めつけていた。あのメグ・リーリスが【ディアブロ】に堕ちていた事で猶更にだ。だからこのホルンと言う人間も今も昔も最低な人種だと言う考えがこびりついていた。

 でも思い返してみると自分は目の前の〝過去〟の少女に怒りを抱いていたが〝現在〟の彼女を見てはいなかった。見ようとすら…していなかった…。


 「ほら、いつまで突っ立っているんだよ。体が冷える前に座ったらどうだ?」

 

 「ええそうね…」


 ソルに促されて再び二人は向かい合って湯に浸かる。そしてまたしばし無言の時間が続くが今度はソルの方から静寂を振り払い話しかける。


 「なあお前、殴られる代わりにもしよかったら昔話を聞かせてくれないか? 昔のお前と今のお前についての過去話をさ……」


 そう言いながらソルは肩の力を抜いて笑みを浮かべながら彼女と真っ向から話し合ってみる事にしたのだった。言葉にして口に出さなければ今の彼女がどのような人間かは知れないから。そして自分が抱え続ける〝怒り〟を今でも自分が持ち続ける必要があるのか知りたかったから……。



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