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ホルンのやり直し冒険譚 5


 「んん……眩しい……」


 とある宿の室内、その窓の外から差し込む朝の眩しい光に刺激されて閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げる少女ホルン。

 まだ眠気が抜けきっておらず目元をこすりながらも自分の隣をふと見る。そこには童顔の自分の愛する少年が可愛らしい寝息と共にまだ夢の世界の中に居た。


 「もう朝よ。早く起きなさいカイン」


 自分のパーティーメンバーであり、そして恋人である愛しい少年の体を揺さぶる。すると彼は大きなあくびをしながら寝返りを打った。

 

 「(本当に無防備な寝顔ね…)」


 一緒に依頼に出て戦っている時とはギャップが激しく思わず苦笑が顔に出てしまう。


 「ほら起きなさいな。ほれほれ」


 女性にも勝るとも劣らない男性のものとは思えない柔らかい頬をぷにぷにと突いてくすぐったそうにしている彼を見ていると少し癒される。


 「本当…今の私がこんな生活を送れるなんてね……」


 そう言いながら自分の指にはめられている指輪を眺めてそんな事をしみじみ思っているとようやく寝坊助の彼氏が起床した。


 「んん…あさぁ? ふわ~…おはようホルンさん」

 

 「ええおはよう」


 ようやく目が覚めた彼の頬にホルンはおはようのキスをするのだった。



 ◇◇◇



 朝の支度を済ませると二人は【ファーミリ】へと足を運ぶ。

 いつも通り仕事を求めてギルド内はざわついている。だがその中に見慣れない人物が1人居たのだ。


 「(何だあの娘? うちのギルドにあんな娘は居なかったよな?)」


 カインが視線を向けた先に居たのはまるでどこぞの大富豪の娘さんと思わせるほどの美しい金髪の髪の少女であった。

 このギルドにあんな目立つ人物は間違いなく今まで居なかったはずだ。もしかしたら最近ギルドに入った新人だろうか?


 「ちょっと何を見とれているのかしら?」


 「いひゃいって。別に見とれていたわけじゃないから」


 あくまで初めて見た顔と言う事で少女を見ていたカインだったがホルンにはそれが気に入らなかったようでプチ嫉妬共に彼の頬を引っ張る。

 まあ別にギルドに新人が加入したからと言っても実際のところ自分達には関係はないことだ。そう思い少女から視線を切って掲示板の方へと向かおうとした。だが相手の少女はカイン達と目が合うとどういう訳かこちらへと歩み寄って来たのだ。


 「少し尋ねたい事があるのね。そっちの女の人、もしかしてホルン・ヒュールさんなのね?」


 「え、私かしら? まあそうだけど一体何の用かしら?」


 かなり独特な語尾ね。まあ人の個性何てそれぞれだけど……。


 それはさておき自分に話しかけて来るとは思わず少し驚くホルン。間違いなく初対面のはずの自分に一体何の用かと思っていると彼女が頭を下げてこんな頼み事をしてきたのだ。


 「お願いがあるのね。元Aランクパーティー【真紅の剣】のあなたと同じパーティーで仕事をさせてほしいのね」


 それは予想外の頼み事であった。まさかいきなり自分とパーティーを組んで欲しいとはさすがに予想外だ。それに気になるのは彼女はどうやら自分が【真紅の剣】と言うパーティーで活動していた過去を知っている。まあ調べればこの程度の事実などすぐに知れるのだろうが。


 「実は私はこのギルドに居た【真紅の剣】と言うAランクパーティーの活躍を度々耳にして憧れていたのね。だから是非とも元【真紅の剣】の一員であるあなたと組みたいのね」


 「そう…【真紅の剣】に憧れていたね……」


 正直なところこの少女の言葉に対してホルンは嬉しくなどなかった。

 もしも自分が昔と変わらない性根の腐りきっている人物ならばこの言葉を喜んでいたのだろう。だが過去の自分には何の値打ちもない。ただ見栄だけがでかく中身がすっからかんの空虚な人間、それが昔の自分なのだ。


 だからここで自分が返すべき言葉はこれが正しいのだろう。


 「あなたは大きな勘違いをしているわ。かつてこのギルドで名を轟かせて来た【真紅の剣】は実際は1人の優秀な《拳闘士》のお陰で高ランクとして成り立っていたの。私達はそんな恩人を無下に扱って自分達が特別だと自惚れていた間抜けにすぎないわ」


 「ホルンさん…」


 彼女の言っている事は何一つ間違ってなどいないだろう。だが彼女を愛しているカインからすればやはり本人の口から出て来た言葉だとしてもやはりいい気分はしないのだろう。そんな彼に『大丈夫』と言って小さく微笑んで安心させる。


 「とにかく昔の私達に憧れていると言うのならば目指すべきではないわ。少なくとも私は誇れる冒険者ではないのだから」


 「そうだったのね……でも出来る事ならあなたのパーティーに入れてほしいのね」


 何故この話を聞いた後でも自分達のパーティーメンバーに加わりたいのかさすがに不自然さを感じ質問するとその理由を彼女は語る。

 

 実はこの金髪の少女がギルドに来た初日に新人いびりを趣味にしている冒険者に絡まれてしまったらしい。その際にその冒険者を返り討ちにしたらしいがその事で半端な冒険者達からは恐れられてしまったらしい。そうなれば誰もパーティーを組んでくれず半ば孤立状態。いくら実力が兼ね備わっていても冒険者の成り立てでは不安もありどこかのパーティーに入りたいそうだ。

 

 「ホルンさん、実はさっき言った【真紅の剣】に憧れていたと言うのは嘘なのね。あなたのパーティーに入れてほしいと言ったのはちょっとした打算があったのね。あなたがこのギルドで少し煙たがられているのはもう知っていたのね。だから仲間に入りやすいと言う計算があったのね」


 「なっ、お前な…!」


 さすがに失礼過ぎると思いカインが食い掛ろうとするがそれをホルン本人が制した。


 「別に気にしてないわ。どうせ全て事実なのだから」


 他ならぬ張本人にそう窘められたらもう何も言えず頬を膨らませて黙り込むカイン。


 「気に障ったのなら謝るのね。でも私も仕事をしていく上で仲間と言う存在は欲しいのね。改めて頼みたいのだけど私もあなた達の〝仲間〟に入れてほしいのね」


 少女の言葉の中に出て来た〝仲間〟と言うワードにホルンは無意識にかつての仲間、そして今の仲間である皆の姿を思い浮かべる。一度は全ての仲間と散り散りとなり独りぼっちとなった。でも隣に居るカインのお陰でまた仲間と一緒に戦える未来を掴めた。だが心の奥底ではカイン以外の人間と一緒に冒険者として進む道を無意識に怖くて避けていた。だがそんな自分を今は変えていきたいと思う心がちゃんとある。


 だとするならここから更にもう1歩進んでみようではないか。自分の目の前には仲間が欲しくて手を伸ばしている少女が居る。まるでもう仲間を持てないと苦しんでいた過去の自分のように。


 「ねえカイン、私は今の2人だけのパーティーじゃこの先は少し厳しいと感じているわ。それにこうして仲間に入れてほしいと困っている冒険者仲間が手を伸ばしているのなら私は……その手を取りたい。あなたが私にしてくれたように」


 「ホルンさん…ああそうだな」


 二人は顔を見合わせて小さく頷くとそれぞれ手を差し伸べる。


 「俺はカイン・グラドだ。これからよろしくな新メンバーさん」


 「もう知ってるだろうけど改めてホルン・ヒュールよ」


 二人の伸ばすその両手に自らの手を重ねながら少女は名乗る。


 「セシル・フェロットなのね。これからよろしくお願いするのね」


 二人と同じく口元に笑みを浮かべるセシル。


 だがカイン達が視線を切った直後に彼女の笑みは黒いものへと一瞬変化していた。



 

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― 新着の感想 ―
[一言] ホルンがやばいよぉ!これ以上ホルンを辛い目にあわせたりしないでよぉ! ホルンには幸せになってほしいんだよ!
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