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ムゲンの抜けた【真紅の剣】


 「「「初任務達成おつかれー!!」」」


 依頼を無事に達成したムゲン達は報酬を受け取るとギルド内の酒場で盛り上がっていた。こうして依頼達成後の打ち上げなんて本当に久しかった。以前のパーティーでは極力仕事以外では他のメンバーと席を一緒にしたいとも思わなかった。どうせ他の3人から滅多打ちに悪口を言われるだけだったから。


 打ち上げが始まってからしばらくたつとソルがムゲンに絡んで来た。


 「それにしてもムゲン~、私もかなりやるもんだろ~?」


 「もう飲み過ぎですよソル」


 肩を掴んで身を寄せて来るソル、もう顔が真っ赤で完全に出来上がっている。

 だが確かに彼女達はやはりSランク冒険者だと今回の依頼でハッキリした。何しろ《魔法剣士》のソルは一切魔法を使わず自分同様の肉体強化だけで余裕綽々と依頼を達成したのだ。それにハルも初級魔法であの威力と速度だ。かつてのパーティー内で同職に就いていたマルクやメグと比べてもその差は一目瞭然だ。


 それからしばらく三人が談笑していると近くの席からこんな内容の話が聴こえて来た。


 「それにしてもこのギルドに遂に新しいSランクパーティーが誕生するかもな」


 「(新しいSランクだと?)」


 ギルド最高ランクの話と言うことで現役Sランクのハルとソルも少し声を沈めてコッソリと聞き耳を立てていた。まあ二人からすれば確かに気になる話題だろう。

 

 「確か次のSランク昇格候補は【真紅の剣】だったよな。ここ最近ますます勢いを増しているし」


 「ああ、昨日そのリーダーが新たに出現したダンジョンの攻略依頼を受けたらしいんだよ。ほら、この街から少し離れた場所に最近ダンジョン出来たって噂になっていたろ」


 自分がクビとなったパーティー名を聞きムゲンは少し驚き、他の二人は不快感を隠すことなく顔に出す。


 「イヤな話聞いちまったぜ。酒が不味くなる」


 ソルは鼻を鳴らしながら酒を一気に煽る。もう話も聞きたくないのかハルとソルは視線を戻すとまた談笑に戻る。だがムゲンとしては今の話は少し気になった。


 未知のダンジョン攻略は依頼の中ではかなりの難易度だ。何しろ突如出現したダンジョンはどんな罠やモンスターが待ち受けているか一切分からないからだ。


 未知のダンジョンの探索なんてハッキリ言って自己中揃いのあいつ等に務まるのか?


 【真紅の剣】は確かにAランクだ。しかしその実態はムゲンのおんぶ抱っこの思い上がり連中でもある。ムゲン本人はそこまで連中を見下す気はないが一緒に仕事中にメンバー達の何度も危なっかしい場面を見てフォローを入れているのであの三人が無事に依頼達成をこなす未来の映像が中々浮かばなかった。

 

 「(まあ命の危険になるほど大事にはならないだろ。流石に無理と判断して撤退するくらいはできるだろ)」



 ◇◇◇



 ファラストの街から少し離れた洞窟、その内部に新たに誕生したダンジョン内では【真紅の剣】のメンバーが現在進行形で依頼をこなしている真っ最中であった。


 だが彼等にはこの依頼を完遂させられる可能性は限りなくゼロであった。


 「おい何やってるんだ!? 早く魔法でサポートしろよ!?」


 前線に立って剣を振るいモンスターに必死の形相で攻撃を繰り出すのはリーダーのマルク。

 彼の持つ剣は炎剣と呼ばれ魔力を籠めれば自動的に炎が纏われる剣だ。だが彼の剣筋は甘くほとんどの攻撃は避けられ炎によるダメージも殆ど与えられていない。ならば剣に更なる魔法を付与しようとするがその隙にモンスターが攻撃をしてくるので魔法の付与どころか防御するのが限界だ。

 本来であれば他のメンバーがマルクのサポートをしてその隙に攻撃力の強化を施すが他の二人もそれどころではない。


 「この、こっち来ないでよ!」


 「くうう…ちょっとマルク、もう少し敵の数を押さえ込んでちょうだい!」


 メグもホルンもマルクの援護をする余裕がない。前線に立っている彼がモンスターを仕留めきれずその討ち漏らしが自分達に次々と攻撃をしてくるのだ。二人とも自分の身を守るだけで手一杯だ。

 各々が自分のことしか考えず他の人間のフォローなど論外、チームワークもまるで出来ず次第に劣勢に立たされる。


 「くそ、まだダンジョンの『上層』部分なんだぞ!? 何でこんな入り口で躓くんだ!?」


 彼らの現在地はダンジョンの入り口から少し進んだ上層部だ。予定では一気に最下層までガンガン突き進んでいくはずがスタート付近で未だに躓いていた。

 自分達の体たらくに対してマルクは襲い掛かる低級モンスターを必死に切り裂きながら混乱していた。


 何でこんな序盤から手間取ってんだ!? いくら未知のダンジョンって言ってもおかしいだろ! 


 いつもは魔法を付与した剣でモンスター相手に無双をして雄姿を見せていた自分が今は防戦一方だ。他の二人もいつもの様に魔法で自分の後方支援をする事もできず我が身を守るだけで手一杯となっている。

 全員がいつもの様に自分の実力を発揮できず四苦八苦し続けていると遂にメグとホルンの魔力に限界が訪れた。


 「も、もうダメ。私の魔力がもうほとんど残ってない」


 「私も…これ以上は……!」


 「このバカ野郎ども! 無駄に魔力を使い続けるからだ!」


 いつもとは違い自分の身を守ろうと低レベルな魔法を無駄に乱発し必死になっているメグ、そしていつも以上に何度も負傷をする自分や仲間の傷の治療を度々行うホルン。もう二人の魔力は底をつきかけていた。

 そして怒鳴り散らしているマルクもそうだ。大技を使おうにも襲い来るモンスター対処のために肉体強化に魔力を使い続けもう魔力が空になりかけていた。


 「くそ、いつもなら大技ひとつでこんな低級モンスターの群れなんて一蹴できんのに!」


 しかし大技を使おうにも魔力を溜めればその溜めの隙にモンスターに攻撃される。だから即座に対応する為にマルクも肉体強化で身体能力を上げてモンスターの攻撃を防ぐので精一杯だった。


 いつもなら大技を扱う際にはモンスターは襲い掛かって来なかったのに……!?


 そう考えると彼の脳裏にいつも自分達のフォローをしてくれたムゲンの姿が浮かんだ気がした。


 「マルクもうダメ。ここは一度撤退しましょ!」


 「ぐ…ぐぐう……」


 こんな上層部、それも低級モンスター相手に背中を見せるのは屈辱であったが意固地になっても残り少ない魔力ではどのみちダンジョン最下層に辿り着くのは不可能だろう。まだ逃げる余力がある今逃げなければ下手をしたら命に係わる。


 「ああもうっ、オイさっさと逃げるぞお前ら!」


 「ちょ、何自分だけ先に逃げてんのよ!?」


 真っ先に逃げ出したマルクを非難しつつもメグとホルンも必死に背後から追跡してくるモンスターを残り少ない魔力を削って攻撃しながら逃走を図る。


 こうしてAランクパーティー【真紅の剣】は初めて依頼を失敗したのだった。



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― 新着の感想 ―
 無理だと理解できる程の判断力が無いから、追放した。と思ったら……  有ったらしい。
[気になる点] ダンジョンの調査じゃなくて攻略って事はダンジョンを攻略したらダンジョンは消滅するのかな?
[一言] …本当にAランクなのかな?C、Dランク程度の実力なんだろうなぁ…。 ムゲンのフォローが無くなるだけで、ここまで酷くなるのは、本人達の実力が足りてないんでしょ。 寧ろ、そのフォローを行って…
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