温泉旅行に行こう
今回より遂に新章突入です。新ヒロインのウルフの活躍も見てください!
「温泉旅行へ行かないかだと?」
依頼を終えて宿へと戻ったムゲン達がまったりとしているとソルがいきなりこんな話題を出してきたのだ。それは『近々4人で温泉旅行にでも行かないか?』と言うものだった。
突然のソルの申し出にムゲンが首をひねりながら聞き返すとソルは少し頬を膨らませながらこう言った。
「ここ最近また働きづめになりつつあるだろ? もうウルフの生活費だって十分に蓄えられたんだから一度息抜きでもしようじゃないか」
実はウルフがこの【黒の救世主】に加入してからここしばらくギルドから仕事を立て続けに引き受けていたのだ。と言うのも【異種族の集い】から移籍してきたウルフには端的に言って金がほとんどなかったのだ。元の主人であるアーカーから奴隷として扱われていたのでパーティーで稼いだ得た金はほとんどが彼に没収されていた。だからこの宿に来た時も宿泊費や生活費はムゲン達に肩代わりしてもらっていた。無論ムゲン達は気にはしないと言ったのだがウルフが申し訳ないと言って借りた金を返済、そして一定の蓄えが溜まるまで仕事に専念していた。だがそうなれば当然同じパーティーであるムゲン達も働きづめとなりここしばし休みがなかった。
「疲れを癒すと言えばやっぱり温泉だろう。広くて温かな温泉に浸かって体にたまった疲労を全て洗い流そうじゃないか」
「温泉ですか。私も良いと思います」
「正直興味がありますね。その…私はそんな場所とは縁遠い世界に居たので行ってみたいです」
ソルの意見に対してハルもウルフも賛成的な意見だった。特にウルフは【異種族の集い】時代には楽し気な観光地など足を延ばしたこともないだろう。それにムゲンとしても疲れを癒す為に温泉と言うのは的を射ている気がする。
「いいアイデアかもな。よし、近々みんなで温泉旅行とでも行くか」
こうして満場一致で【黒の救世主】の温泉旅行が計画されたのだった。
◇◇◇
ソルの提案からその数日後にひとしきりの旅行準備が整ったムゲン達は馬車に乗り目的の温泉街へと向かっていた。
目的の温泉地の場所についてだがソルが事前に吟味してくれていた。
「山の中の秘湯か。風情がありそうで良いな」
「どうせなら静かな山中のような場所の方が良いと思ってな」
今回ムゲン達が向かう場所は山奥の温泉となっている。露天風呂から見える緑の山の光景は解放感に溢れ絶景だと評判も良い。そして多くの人間が集まると言う事で今では大きな温泉街が形成されて土産物店や暇をつぶす遊戯店、それにいくつもの旅館も建てられている。
馬車の中で談笑しているとやがて林道へと入り目的の温泉街まであと少しの場所までムゲン達はやって来た。
「しかし遠出は何度も経験があるが温泉街へと出向くのはこれが初めてかもな」
ふとムゲンが馬車の外から見える自然の景色を眺めながら独り呟いていると急に馬車が停まった。
「な、何だあんた等は!?」
御者席から運転していた御者の男性が狼狽の声を上げている。
後ろの客車から顔を覗かせて様子を見てみるといかにも柄の悪そうな数人の男が馬車を囲んでいた。しかも全員が武器を所持しておりどう考えても一般人ではない。
「悪いがここから先は通行止めだ。どうしても通りたいなら持ち物や有り金、つーか所持している物を全て俺達に献上しな。そうすれば通してやるよ」
ありふれた小悪党じみたセリフを吐きながらゲラゲラと笑う男達。
大方この山を狩場にしている山賊の類だろう。一般人ならばこの状況に震えるのだろうがムゲン達は誰一人として焦りはしない。今まで数多くの凶悪なモンスターや闇ギルドの猛者と戦い続けてきて今更程度の低い山賊風情に驚きはしない。それに冒険者稼業を続けているとこのような場面に遭遇するのもまれではあるが時々発生するイベントだ。
むしろ今回同情すべきなのはこの山賊達の方だろう。何しろ襲った馬車に乗っていた人物たちは冒険者ギルドの最高ランクのパーティーなのだから。
「まったくこれから癒されに行こうとしているのに無粋だな」
「ああん兄ちゃん。俺ら相手に随分と威勢がいいじゃねぇか……おおよく見たら上玉の女が3人もいるじゃねぇか」
この状況でもすまし顔をしているムゲンが気に入らず山賊の1人が刃物を突き付けてにじり寄って来る。だが彼の後ろで様子をうかがっていたハル達の存在に気付き山賊が歓喜の声を上げる。
3人の美少女の姿を見て山賊達は下卑た笑みを浮かべる。
「いいねぇ、それぞれジャンルが別の美人だ。こりゃ高く売れるぜ」
「だがその前に味見だよなぁ。男は殺して女の方は売りに出す前に俺達が可愛がってやるぜ」
セリフの1つ1つが不愉快極まりなくウルフは怒りを瞳に宿して撃退に動こうと弓を構えようとする。特に奴隷として扱われていた過去がある彼女の怒りは大きい。しかしそんな彼女の行動をソルが止めた。
「まあそんな物騒な物は置いておけ」
「どうしてですか? こんな連中には容赦はいらないと思います」
「それは同感だ。だが私達が手を出さずともこいつ等はもう終わりだ。このパーティーで一番怖い男を怒らせてしまったんだからな」
そう言いながらソルがムゲンを指差した。
先ほどまでは呆れた表情だった彼が今はまるで氷の様に冷え切っていた。
その眼光は山賊に向けられているにもかかわらずウルフですら一瞬背筋に寒気が走るほどだ。だがどうやら間抜けな山賊共は自分達と相手との力量差すら見抜く力が欠けているらしい。
「おいおい急に怖い顔してどうした兄ちゃん? もしかしてその中にお前の恋人でも居るのか?」
「そう言う事ならソイツはお前の前で念入りに可愛がってやろうか? あ~ん?」
山賊達は汚い笑みを浮かべながらムゲンを取り囲む。
その光景を見てハルは山賊達に憐れみの瞳を向けていた。
「馬鹿ですね。むしろあなた方に同情しますよ」
命の危険が迫っているのは自分達とも知らず山賊達は一斉にムゲンへと斬りかかっていく。それに対して拳を固め攻撃態勢を取り迎え撃つムゲン。
この勝敗の結果は……もはや言うまでもないだろう……。
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