任務終了の報告
冒険者ギルド【ファーミリ】、【ハンティラ】の二つのギルドで共闘して合計3チームの冒険者パーティーによるS難易度の依頼【ディアブロ】の壊滅を果たし終えた彼等はそれぞれの町へと帰還した。
そして任務の終了報告を今回の纏め上げ役であるムゲンが自分のギルドのマスターであるロンブ・デイレスへと話していた。
「そうか…結局は【ディアブロ】本部や他の支部につながる情報は無かったのか」
「はいすみません。折角【ディアブロ】と言う組織の全貌を知るチャンスだったと言うのに…」
「いや支部の1つを壊滅させただけでも大手柄だよ。それに任務内容は『支部の壊滅』だった。それを見事に完遂したのだからそう肩を落とさんでもよい」
「そうも…言えませんよ。今回の任務では犠牲が多すぎた…」
その言葉に対してロンブは目をつむる事しかできなかった。
確かに当初の支部壊滅と言う依頼内容は見事に完遂したのかもしれない。だが二人のギルドマスターの前で最初に掲げていた目標である『誰も欠けない』と言う誓いを自分は見事に破ってしまっている。
今回の任務の中で二人の冒険者が命を落としてしまった。
【戦鬼】からはギーン・ルウケン、【異種族の集い】からはアーカー・デュランがこの任務の中で命を落とした。ギーンに関しては遺体を回収できたがアーカーは埋葬できたのは腕1本だけであった。だがその腕を発見した現場にはおびただしい量が流れている血だまりが発見された。彼が誰に殺されたのかは不明だがあの出血量からアーカーが生きていると言う事はないだろう。
それに死者が出たのは仲間内だけでない。むしろ敵側の方が大勢命を落としている。
「戦いが終わり皆と合流した後に動ける者達でアジト内に潜入しました。ですがアジト内は地獄そのもの。中に居た兵達は全員が皆殺しにされていました。もちろん俺達側は一切関与していません」
「……恐らくは口封じじゃろうな。我々に情報を持ち帰らせないための」
「ですね…気になるのはアジト内の死亡者は人間でなく獣にやられたような感じの酷い傷口でした。中には原型を留めていない者も…」
あくまで推測の域だがロンブの言う通り口封じのために第3支部の兵達は殺されたのだろう。たとえ末端とは言え自分達の組織にとって致命傷となる情報を持っている可能性を1つでも消すために。
一応は幾人かの支部の兵隊達を連行する事が出来た。早速尋問が行われているらしいがあまり期待はできないだろう。
「それにしてもやはりメグ君もその闇ギルドに居たか」
「はい…できればあんな形で再会はしたくありませんでしたが」
このギルドに所属していた者が闇のギルドに身を置いていた事はムゲンだけでなくマスターたるロンブにとっても痛ましいことであった。彼は人格者でありこのギルドに所属している者達を想ってくれている。
だからこそムゲンは彼からどうしても尋ねておきたい事があった。
「あのマスター…少し訊きたい事があるのですが…」
「どうした? そんな深刻そうな顔で…」
「何故今回の任務にファル・ブレーンを採用しなかったんですか?」
ムゲンのこの質問に対して彼は一瞬だけ表情が強張った気がした。だがだからと言ってここで追及を止めはしない。今回の難易度はS、ならば向かわせるべきはSランクの冒険者が普通だろう。急を要する任務と言う事で【ハンティラ】はその時に手が空いているSランクが不在だったためにAランクの【異種族の集い】が選抜された。だがこの【ファーミリ】のギルドは自分達以外にももう一人のSランク冒険者であるファル・ブレーンが居たのだ。ならばAランクの【戦鬼】ではなく彼を向かわせるべきだったはずだ。だが何故かロンブはそれを拒んだのだ。
「決してマスターを責めるつもりは毛頭ありません。でも…何故ファル・ブレーンを今回の任務に同行させなかったんですか?」
「……そうじゃな。ちゃんと話しておいた方がいいな」
しばし熟考した後にロンブはお茶を一口飲むと彼を今回の任務から外したその理由を語りだす。
「ファル・ブレーンは確かに優秀な戦力じゃ。それに彼はこれまで多くの高難易度依頼も無事に完遂してきた実績もある」
「それならば尚のこと何故ですか?」
「確かに彼は優秀だ。だが…彼には少し懸念点があるのだ。それは――『仲間殺し』の懸念点がある」
その言葉を聞いてムゲンは表情にそこまで大きく戸惑いを露にはしなかった。初めて彼と出会った時から彼にはどこか危険な空気が纏わりついていた。何しろ自分がSランクに相応しいかどうかなどと言って襲い掛かってきたぐらいだ。
「これまで彼と共に依頼をこなそうとしてきた者が複数人死んでいる。だがそのどれもがモンスターにやられたと言うもの。しかしそれを証明するのは共に依頼に出ていたファル・ブレーン本人の証言だけなんじゃ」
「あの…それはつまりファル・ブレーンは……」
「言いたいことは分かる。だから私も真偽を確かめたくある策を取った。以前にお主と同じ【真紅の剣】に所属していたマルク君がA難易度の依頼であるヒュドラの討伐に向かった。だがマルク君だけでは依頼完遂に心許なくファル君にもその依頼に密かに向かってもらっての。そして更にそのファル君を監視するためにこっそりと冒険者の1人に監視を頼んだ」
「それは彼がマルクを手にかけるかどうかを確かめる為…ですか?」
「ああ。だが結局帰って来たのはファル君だけじゃった。マルク君も監視を頼んだ冒険者も完全に消息不明と言う結果じゃった」
「もうそれって完全に……」
「モンスターでなく彼がマルク君達を手にかけた可能性は大いにある。だが証拠がないのじゃ。もしも彼が本当に何もやましい事をしてなければ彼にも申し訳なくてのぉ……」
この時にムゲンは内心で少し呆れていた。
このロンブと言う人物は確かに人格者なのだろう。だが少し人を信じすぎる傾向が強い気がする。自分が【真紅の剣】時代に仲間や他の冒険者に迫害されている頃もそうだ。自分が理不尽に貶されている場面に遭遇するとその場を諫めてはくれた。だがそれだけ、話せばきっと分かってくれると言う甘い考えを本気にしている。ギルドマスターの彼の前では他の冒険者も良い子を演じるものだ。本性など判るものじゃない。
そして今もまたそうだ。自分の視点から見ればファル・ブレーンはどう考えても怪しすぎる。だが結局は証拠がないとマスターは強く問い詰めない。それは自分のギルドの人間が仲間殺しなどするはずがないと決めつけている気がする。
「(今後あのファル・ブレーンの動向には俺が目を光らせておいた方が良いかもな…)」
だがもしも……もしもマルクを殺した犯人がヒュドラでなく彼であったと知った時、自分は果たしてどのような行動に出るのかムゲン自身もわからなかった。
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