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この期に及んでも成り上がりを夢見る愚者


 まるで星の様に煌びやかな輝きと共に狭い結界内でその生を終えたメグ。

 爆発と共に結界は破壊されその砕けた破片がムゲンの体を切り裂いて彼の体にところどころに赤い線を引いていく。だが彼はその場から動かず爆心地をじっと見つめ続けていた。


 「メグ……くそぉ……」


 悔しそうに歯を食いしばるムゲン。

 彼女の死に行く最期の顔が脳裏に鮮明に焼き付いて離れなかった。その顔は間違いなくまだ互いを仲間だと信頼し合っていた頃の彼女だった。


 「………」


 今はまだ仲間たちが【ディアブロ】の連中と戦闘を行っている。本来ならばこんな風に突っ立っている訳にはいかない。それでも…彼はしばしその場で拳を握りしめて震える事しかできなかった。その頬には一筋の涙が伝い、そのまま地面へと零れ落ち染み込んでいっていた。



 ◇◇◇



 時は少し巻き戻りムゲンとメグが戦闘を繰り広げている中、ゴーレムを撃破したアーカー達はハル達の方へと合流していた。

 本来であればメグの方に向かいムゲンの加勢に参加したかった彼等だがムゲンがメグの放つ魔法を避け続け移動を繰り返していたために姿が見えなくなり居場所を掴めず加勢のしようがなくなってしまったのだ。

 とは言え何もしない訳にはいかず仕方なしにハル達の方へと向かうとそこには予想外の光景が広がっていた。


 「ずあああああああ!!」


 「流石はSランクの《魔法剣士》! 一筋縄ではいかないな。それにその剣、さてはドラゴンキラーの類か!」


 応援に到着したアーカー達に視界に飛び込んできたのは自分達ではとても付いていけないであろう極限レベルの戦闘であった。


 超高速で動き続け何度も互いに武器をぶつけ合っているソルと謎の男。両者の持つドラゴンキラーの剣と光の剣が火花を辺りに散らしている。しかも二人のスピードはあまりにも異次元レベルでアーカーには目で追いかける事が限界だった。

 そしてソルのサポートにまわっているハルの魔法もまた凄まじい。普通は大きな魔法を1つ放つごとに次の魔法発動まで時間がかかるはずだ。それなのに彼女は息次ぐ間もないほどに怒涛の上級魔法の数々でソルを見事にサポートしている。


 「隙ありです!」


 「チッ、要所要所でいい魔法を撃って来るなぁ!」


 ソルの剣劇を捌きながらハルの魔法を男は空中で身を捩りギリギリで躱す。そしてソルとひと際強い力で互いの剣を打ち合ってそのまま互いに距離を取る。


 「はあ…はあ…くそ、今までの兵隊とはレベルが違い過ぎる。ハル、お前随分と魔法を撃ちこんでいたが魔力の方はまだ持つのか?」


 「正直少し厳しくなってきています。長期戦は不利ですね…」


 軽く呼吸を乱すソルとハルに対して男の方はまだ余力があるのか顔からは余裕が抜けきっていない。

 

 両者がにらみ合っているとここでようやくアーカー達の到着にハルが気付いた。そして彼女はすぐに倒れている負傷者をこの場から逃がすように指示を飛ばす。


 「【異種族の集い】の皆さんですね! そちらで倒れている【戦鬼】のお二人を安全な場所まで避難させてあげてください!」


 ハルの視線を辿ってみると地面には【戦鬼】の3人が倒れていた。いや、正確に言うのであれば2人と1体と言う表現の方が正しいだろう。何しろ【戦鬼】の内の1人であるギーン・ルウケンは首と体が分かれているのだ。

 その光景にキャントは思わず吐き気が込み上げそうになる。


 生き残っている二人も決して軽傷ではない。ダストは片腕が切断されておりマホジョもかなり酷い怪我具合だ。


 「Aランクのパーティーがここまで……」


 自分達と同格のパーティーが瀕死状態に追い込まれているその様子を目の当たりにしてケーンは身震いが止まらなかった。

 後ろを振り返ればSランク二人と【ディアブロ】の男が再度激突していた。


 俺には無理だ……あんなイカれた戦場に立って戦うなんて……。


 多くのモンスターをその手で一刀両断してきた彼は完全に戦意喪失してしまっていた。それはキャントも同様で一刻も早くこの場から逃げ出したくて仕方がなかった。


 「は、早く倒れているこの二人担いで逃げるにゃん! こんな危険な場所にいつまでも居られないにゃん!」


 「そ、そうだな。だがギーンはどうする? ここに遺体を放置しておくのは少し忍びないが…」


 「死んだヤツなんてどうでもいいにゃん! そんなこと考えているならお前が運べ!!」


 そう言いながらキャントは倒れているマホジョを連れてその場から急いで退避する。

 ケーンもしばし悩んだが結局はギーンの遺体を放置して逃げる事を決断する。気絶しているダストを担ぐと彼はアーカーにもこの場から離脱するように伝える。


 「お前も逃げるぞアーカー! 俺達じゃこのレベルの戦闘に割って入れないだろ!」

 

 この状況では自分達が足手まといになる事は明白だ。だがここでアーカーはとんでもないことを言ったのだ。それは思わず正気を疑うほどの突拍子もない発言。


 「いやこれはチャンスだ。Sランク二人がかりでも倒しきれないってことは相手はかなりの大物だ。もしも…もしもだぞ、ここで俺が奴を討ち取れば俺達【異種族の集い】は一気に上のレベルまで駆け上がれる……Sランク昇格も夢じゃないぞ」


 「「はあ!?」」


 今まで彼の的外れな意見に振り回される事は多々あったが今回は次元が違う。

 当然そんな馬鹿な考えに賛同などできない二人は必死に馬鹿なリーダーを説得しようとする。


 「私達が出て行っても無駄死にするだけにゃん!」


 「そうだぞ! 見ろ、同じAランクの冒険者がこのザマだ! 何をどう考えればお前があの怪物を打ち取れるんだ!?」


 「馬鹿だなお前ら。何もあそこのSランク二人みたく真正面からぶつかり合う必要はないだろ。狙うのはあくまで漁夫の利だ。あの二人が疲弊した隙を突けば俺達でもワンチャンあるぞ」


 もうとてもじゃないがケーンもキャントもこの男には付いていけなかった。

 ハッキリ言って二人は彼の為に命を懸けて付き合うきなどさらさらない。そんな馬鹿な自殺行為はお前だけでやっていればいい。

 もう何を言っても無駄だと悟った二人は彼を見限りダストとマホジョの二人を連れてその場から退避し始める。


 臆病風に吹かれて逃げる仲間の背を見ながらアーカーは舌打ちをする。


 「くそヘタレどもが。リーダーが体を張るってのに自分達は逃げ出すとはな」


 まあ別にいいだろう。腰抜けが傍に居ても大して役にも立たないだろう。もういっそのことあの二人もクビにして新しい亜人でも誘うか?


 「おいウルフ分かっているな? お前も隙を見てあの【ディアブロ】の男に射撃しろ。そして何よりもしあの男が俺に襲い掛かってきたら俺の盾になれよ?」


 「はい…分かっています…」


 アーカーには命を懸けて手柄を上げようなんて気はさらさらない。もしもあの化け物が自分を狙ってきた場合はウルフの命を犠牲にして自分だけ逃げるつもりなのだ。

 自分の身の安全の為に他所の命を盾に扱う彼はもはや闇ギルドの人間と大差ないほどの外道と言えるだろう。だが残念ながらそんな外道には報いと言うものが降りかかるものなのだ。


 「(あんな場所に隠れてウチを狙ってバレていないとでも思っているのか? ウチも舐められたものだなぁ……)」


 ソルとハルの二人を相手にしながらも【ディアブロ】の男は隠れて自分を狙っているアーカーの存在にちゃんと気付いていた。そこで彼はメグが先ほど使ったゴーレム生成の魔法を発動した。

 男を取り囲むように複数体のゴーレムの出現にソルは一旦距離を取る。


 「何をするかと思えばゴーレムだぁ? そんな岩人形をどれだけ出そうが私を止められると思うなよ?」


 「ああ違う違うそれは誤解だ。こいつ等は〝あそこの連中〟の遊び相手として出しただけだ」


 「何を言って……なっ、あいつ等まだ居たのか!?」


 男の指を差した方向に目線を送ると木々の間に隠れているアーカーとウルフの姿が映り込む。もうてっきりこの場から離脱したものだと思っていたソルは大声で二人に逃げるように怒鳴る。


 「何をしているお前達早く逃げろ! ゴーレム達に狙われているぞ!」


 大声で危険を報せるがもう手遅れだった。

 生み出されたゴーレム達は全員がソルやハルを無視してアーカーとウルフの方へと一直線に向かって行く。


 「なっ、これってさっきと同じ不死身のゴーレムか!? だとしたら不味い!」


 狙われたアーカーが酷く焦るのも無理ないことだった。何しろ先程はたった1体のゴーレム相手にも苦戦を強いられウルフの機転がなければやられていた可能性が高い。そんな厄介な手合いが複数体同時に襲い掛かられては今度こそ死ぬかもしれない。


 「ぐっ、くそぉ! お前が犠牲になれ!」


 「あ……」


 つい数十秒前までは自分が大手柄を上げると息巻いていたはずだった。だがいざ命の危機に瀕すると我欲の強い人種は自身の命を優先する事を考える。たとえ何を犠牲にしてでもだ。


 後ろからアーカーによって押し飛ばされたウルフは構えていた弓を落としてしまう。

 この状況でも戦おうと勇ましく武器を構えていた彼女だがその武器も腐った主人の行いのせいで落としてしまう。


 先頭のゴーレムが岩石の集合した拳を自分へと叩き込もうとしている光景が彼女の眼にはスローに見えた。そして自分のこれまでの【異種族の集い】での差別的な扱いを受けた日常が一気に駆け巡る。


 「(ああ…これが走馬灯かなぁ。私…何のために生きて来たんだろう?)」


 彼女は自分の無意味な人生の終わりを悟り諦めて瞼を閉じる。


 「…………」


 おかしい…どういう訳か自分を叩き潰す気配が一向に訪れない。


 いつまでも訪れない〝死〟に疑問を持ち瞼をゆっくり上げる。すると自分の前には黒髪の少年がゴーレムの拳を受け止めて立っていた。



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