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メグ・リーリスの執念


 炎、水、風、土、いくつもの属性の魔法が息つく間もなく襲い掛かり接近戦主体のムゲンは思うようにメグに近づけないでいた。それどころか魔法を避け続けているうちに皆とは随分と離れてしまっていた。

 だが仲間の安否を気にかけている暇は彼にはなかった。


 「あはははあぁ!! そらそらそらどうしたのよ!!」


 「くそっ、手当たり次第に撃ちやがって…!」


 かつての仲間同士であるムゲンとメグは完全な一騎打ちの状態で今もなお戦闘を繰り広げていた。どこか狂ったような興奮気味な笑い声と共にメグは多種多様な魔法を次々と繰り出してムゲンは攻めあぐねていた。


 「そーらまた爆発しなよ!」


 「不味い、また〝あれ〟か!」


 視線の先で仁王立ちしている彼女はゆっくりと指を自分に向けるとパチンと鳴らす。その直後に危険を察知したムゲンは急いでその場から横に移動する。その直後に彼が立っていた場所が爆発を起こした。


 「あらら避けられた。もうこの魔法のカラクリは見抜かれたかしら?」


 「あれだけ何度も喰らえば流石に気付くさ。指を鳴らすのはフェイク、あの爆発はお前の視線を集中した場所を爆破する魔法だろ? 指を鳴らす際にお前の瞳に小さな魔法陣が形成されている事に気付いたからな」


 「ふん、その通りよ。だとしてももう5発も受けていれば普通は死んでいるはずなんだけど。何でまだ生きているうえにそんな動けんのアンタ?」


 同じパーティーに居る時から薄々感じてはいたが目の前の無能はいくらなんでも頑強すぎる。爆破魔法を5回も喰らって肉体が原型を留めているなんて異常だ。魔力で肉体強化を施していたとしても少なくとも動けなくなるはずだ。


 「アンタってさ本当に人間? その人離れしたタフさ、実は亜人だったりして?」


 「正真正銘の人間だ。それに体の異常性を言うならお前の方こそどうなっているんだ。急にそんな成長して普通じゃないだろ」


 次々と飛んでくる魔法による攻撃を木々に飛び移りながら避けてムゲンが疑問を投げかける。すると彼女はにやにやと笑いながら信じられない事を口にした。


 「まあいきなりこんな美女に変身したらまともじゃないと思うわよね。そう…私が口内に仕込んでいたのは一種のドーピング薬よ。まあ健全な物ではないけどね。お陰で私の寿命も大分削れてしまったわよ」


 「寿命…だと…?」


 彼女の口から出て来た単語はあまりにも物騒なものだった。そんな驚く彼を置いてメグはまるで他人事のように淡々と自分の身に起きた現象について語り続ける。


 「何の代償もなくこんな分かりやすく強くなれる訳ないじゃない。強大な力にはそれ相応のリスクが伴うものよ」


 彼女が体内に取り入れたドーピング薬は寿命と引き換えに魔力を増大させる代物だ。本来の残りの寿命を一定数削り戦うための力に変換する。メグの容姿が急に成長したのもその副作用なのだ。彼女の肉体から失われた寿命分強制的に肉体にも反映して一気に成長した結果だ。


 「ふふ、確か1粒で10年程度の寿命を削るそうよ」


 「お前は…お前は自分がどれだけ馬鹿な事をしているのか分かっているのか! そんな命を削ってまで俺と戦う理由が本当にあるのか!」


 「………うざ」


 何を言うかと思えばこの期に及んでも説教、説教、また説教。

 そもそも私がこうなった原因はお前にあるんじゃないのか? お前が【真紅の剣】を抜けなければ私はこうならなかったんじゃないのか? それが何だ、『俺と戦う理由が本当にあるのか』だって……。


 「あるに決まってんだろぉぉぉぉぉ!!」


 今のセリフで完全に切れてしまった彼女は大量の魔法陣をムゲンの足場に展開する。


 「このあたり一帯を更地にしてやるよ! 私の最強の爆破魔法〈アースエクスプロージョン〉!!」


 足元にいくつも展開されている魔法陣がひと際強く光り輝く。この魔法陣の数から発動すればいくら肉体を強化しても耐え切れないかもしれない。少なくとも何度も喰らった小さな爆破魔法とは爆発範囲も威力も比較にならないだろう。


 「仕方ないな…」


 ここでムゲンはとうとう覚悟を固める。今までは相手がかつての仲間と言う事で彼は踏ん切りがつかないでいた。


 彼女の命をこの手で断つと言う最後の決断を選ぶ踏ん切りが。


 「悪く思わないでくれよ」


 「はあ? ぼそぼそと小声で何を言ってるの? もしかして遺言でもほざいてる?」


 どうやらメグの眼には彼が全てを諦めて観念し覚悟したように見えたのだろう。

 自分に勝ち目がないと悟り全てを諦めたと思われる彼の顔はとても愉快でメグは嬉々として地面の魔法陣から魔法を発動させようとする。


 だがメグが魔法を発動しようとする次の瞬間にはムゲンは動いて全てを終わらせていた。


 ムゲンは体内の残存魔力を肉体に〝30〟注ぎ込んで身体能力を強化した。

 魔法陣がひと際眩い輝きを放ち今まさに魔法が放たれようとした次の瞬間、彼は地面を蹴って一気にメグの元まで跳躍する。その速度はドーピングで強化されたメグの眼でも視認できなかった。


 気が付けば彼女の腹部にムゲンの拳が打ち込まれていた。


 「あごっ…お、おうぇ……」


 腹部に生じる鈍痛にメグは魔法を発動するどころか立っている事もできずその場で仰向けになって倒れる。当然そうなれば今まさに発動しようとしていた彼女の上級魔法も中断されてしまい地面にいくつも描かれていた魔法陣は消失した。


 「勝負ありだなメグ…」

 

 「おがっ…あ…あ…」


 その気になれば今の一撃で彼女の腹部を貫き絶命させる事も彼にはできた。だが結局彼はメグの命を奪えなかった。それはかつての仲間である彼なりの最後の慈悲だったのかもしれない。


 だがその選択が必ずしも相手に感謝される行動となる訳ではない。


 「(こ、コイツはこの期に及んでも私に情けを掛ける気なの? 私はあんたを絶対に殺すと言う気概で挑んでいるのにアンタは……!!)」


 敵である自分に対してムゲンの取ったこの甘い行動はメグの中の怒りを更に増長させた。

 

 こっちは闇の世界に堕ち、寿命を削ってまで戦っているのよ。それなのにこんな風に情けを掛けられて生き永らえるなんて冗談じゃない。こんな無様を晒してまでこれから先も塀の中で生き続けろと言う気か? お前は…お前はどこまで私と言う存在を下に見れば気が済むんだ!!!


 「うっがああああああ!!」


 「な、何!?」


 もう完全に立ち上がれるダメージでないと思っていた。だがメグの中で燃え盛る憎悪の炎はあまりにも大きくムゲンの予想を超えて彼女は血を吐きながら立ち上がる。

 そして彼女は自分の体に大量の魔法陣を展開した。


 「もう大人しくしろメグ。お前に勝ち目はないぞ!!」


 「ふふ…あはは…そんな戯言をほざかず息の根を止めればいいのに馬鹿なヤツ。そのせいでお前はこの私と一緒に死ぬんだから」


 「何を言っている?」


 今もなおメグの体にはいくつも小さな魔法陣が展開され続けている。もう魔法陣に埋め尽くされ顔以外は見えなくなったその異様な姿となり果てた《魔法使い》は彼に絶望を与える言葉を贈る。


 「私は今から体内の魔力を全て爆破させて自爆する。これがメグ・リーリスの最期の魔法〈デストラクト〉よ」



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