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決して認められない功績


 ダストは自分の瞳の中に映り込んだ光景を呑み込めないで絶句していた。

 これまで共に何度も肩を並べて戦い続けて来た仲間であるギーンの首が地に転がる光景はにわかに現実味が実感できなかった。


 あれ…どうしたギーン? お前今どうなってるんだ? どうして首と体が離れているんだ?


 現実逃避のあまりそんなことを呆然としながら考えていると今度はギーンを屠った光の剣がダストの心臓部目掛けて伸びていく。


 「おいボーっとするな!!」


 まるで閃光のような速度でダストの命を狩ろうとしている光の剣を間にソルが飛び込んで自身の剣で弾じき軌道を変える。

 激しい金切り音と火花が散ってようやく我に返るダスト。


 「なっ、すまないもう大丈夫だ!」


 自分の盾となり攻撃を防いでくれたソルに謝罪を述べながら武器を構えるダストであるがまだ動揺は拭えきれなかった。仲間の死を受け入れきれず体はわずかに震えている。

 長年連れ添った仲間が目の前で殺されればダストのこの反応は当たり前だろう。だが今この場ではその動揺は命取りになりかねない。


 「しゃんとしなさいダスト。ここでショックに引きずられていると今度はあんたが殺されるわよ」


 「ああ…悪い……」


 マホジョの叱咤に返事をするダストであるがその内心では彼女に対して不満が渦巻いていた。


 どうしてお前はそんな冷静でいられるんだ? 目の前で仲間が殺されたんだぞ?


 まだ別のパーティーであるハルとソルが冷静に敵と向かい合えるのは理解できる。だが長い間ともに戦っていたお前はどうしてそんな風に敵だけに集中できる?


 そんなことを考えていたからだろうか。ダストは無意識にマホジョの背中を睨みつけてしまっていた。



 ◇◇◇



 「うおおおおおおお!」


 降り注ぐ岩石の集合体の拳を避けてゴーレムに斬りかかるアーカーであるがその攻撃は徒労で終わる。仮にもAランク冒険者である彼の斬撃はゴーレムの肉体を傷つけること自体は可能だ。だが傷をつけられた肉体はすぐに自動修復されてしまうのだ。

 キャントとケーンの攻撃も同様だ。どれだけダメージを与えてもすぐに修復されてしまう。いや、そもそも相手がゴーレムである以上ダメージと言う概念自体ないのかもしれない。


 「どれだけ攻撃してもすぐに修復されてしまうにゃん! これじゃこっちが消耗するだけだにゃん!」


 「ぐっ…とにかく攻め続けろ!」


 弱音を口に出し続けるキャントにそう言いながらケーンは魔力を溜めた渾身の斧による一撃をゴーレムに叩き込んで腕を切断する。だが切り離された腕はすぐに修復されてしまう。そこへすかさずウルフの強化を施された矢がゴーレムへと大量に突き刺さる。岩に突き刺さるその威力は凄まじいがやはりダメージは見受けられない。


 だがウルフは確かに見ていた。今の自分の弓矢による攻撃の際に見せたゴーレムの不自然な動きを……。基本的に相手の攻撃は避ける素振りすら見せないゴーレムが自分の弓矢での攻撃で〝ある一か所〟だけ腕を盾にして防御したのだ。瞬時に破損部分が修復されるなら一部分だけ防御する素振りを見せるなんておかしな話だ。


 つまり腕を盾にして防御したあの箇所は攻撃をされては都合が悪いと言うこと……。


 ウルフが冷静に思考を巡らせているとアーカーが怒声と共にゴーレムに斬りかかる。


 「クソがッ! いい加減に倒れろやこの岩人形が!」


 どれだけ攻撃を当てても倒れないゴーレムに対してアーカーは苛立ちばかりが募っていた。

 

 こんな人形相手に苦戦をしている場合ではないのだ。自分はSランク昇格の為に明確な手柄を上げなければならない。こんな魔法で構築されたゴーレム風情にいつまでも時間を掛けている暇などないのだ。

 邪な考えを持ちながら剣を振るうアーカーだが傷つけては修復され、いつまでも終わらないいたちごっこに焦っているとウルフが指示を飛ばす。


 「皆さん離れていてください。魔力を一点集中した強力な一撃を放ちます」


 「はあ? お前の弓なんて今の状況じゃ一番役立たずだろ。余計な事せずお前は俺のサポートに回ってろ!」


 ここまでの戦闘でウルフはあのゴーレムには〝攻撃されたら不味い〟急所のような場所がある事を悟る。だがアーカー達は基本的には自分の指示など全く聞かない。だからこのように邪険に扱われる事にも慣れている。

 

 だからウルフは皆の動きを観察して彼らが攻撃に巻き込まれないタイミングを算出する。


 「ぐあああああ!?」


 「ぐっ、うがあ!?」


 「痛いにゃん!!」


 ゴーレムの岩でできた剛腕で3人が薙ぎ払われてそのまま地面を転がっていく。だがそのおかげで仲間を巻き込まない絶妙の攻撃のタイミングが訪れる。


 「この一撃で完全に仕留めて見せる…!」


 この瞬間にウルフは体内の魔力を弓につがえている1本の矢に膨大に注ぐ。その魔力量は通常時の矢に注ぐ魔力量のおよそ5倍の量だ。


 「喰らえ! 奥義、穿牙一点(せんがいってん)!!」


 彼女の放たれた一撃必殺の矢は風を切り裂き一直線にゴーレムへと伸びていく。そして狙う場所はさきほど不自然に腕でガードした部位だ。


 ウルフが見抜いた弱所と思われる部位は彼女の予測通りこのゴーレムにとっての急所であった。その部位に心臓となる核がある限りはこのゴーレムは何度でも修復を繰り返す。だからこそ基本は相手の攻撃を無視して玉砕同様の戦法を取るがこの核だけは守るように本能的にゴーレムは行動する。

 だからこそ今自身の核が潜んでいる部位に向かってくる矢を両腕をクロスして明確なガード態勢を取る。


 「やっぱり防御態勢を取ったわね。でもそれは無駄よ。この一撃はガードごと穿ち全てを貫いていく」


 その言葉の通りゴーレムの防御している両腕をいとも簡単に貫き矢はそのままピンポイントで核を撃ち抜いていく。

 

 再生の為の核を失ったゴーレムは穿たれた両腕や穴の開いた体を修復できずそのままガラガラと崩れていき辺りに岩石が散らばった。


 「よかった。予想通り再生の要となる部位があって…」


 もし自分の予想が外れていたら、と言う不安もあったが無事に撃破できた事に彼女が安堵の息を漏らす。するとアーカーが詰め寄ってきてそのままウルフの頬を叩いてきたのだ。

 

 「お前ふざけんなよ! 俺が危険覚悟で突っ込んでいる時に後ろでチマチマと矢を射る事しかできずほとんど戦力にならなかったくせに! それが最終的には美味しいところだけ横からかっさらっていって恥ずかしくないのか!」


 「そうだにゃん! 私達が体を張っていたんだからほとんど私達の功績だにゃん!」


 「まったく…これだから〝奴隷〟はやることがいちいち意地汚いから嫌なんだ」


 「……申し訳ございません」


 「くそ、この卑怯者が! お前はやっぱり見てくれが良いだけの『無能』だ! この依頼を完遂したら売り飛ばしてやる!!」


 「………」


 あのゴーレムを撃破できたのは間違いなく彼女の機転が利いたからに他ならない。それに彼女は3人を巻き込まないようにタイミングを見計らっていただけだ。《弓使い》はそもそも遠距離から戦うことが基本スタイルだ。むしろ持ち味を生かせず近距離で戦う事の方が不自然に決まっている。

 だが彼女が〝奴隷〟である以上はアーカー達は彼女に感謝など絶対にしない。それどころか彼女を卑怯者と罵る始末だ。


 私って一体何のために戦っているのかなぁ……。


 だがそんな事を考えても答えなど誰も教えてはくれない。自分はどこまでも孤独で哀れな奴隷なのだから……。



もしこの作品が面白いと少しでも感じてくれたのならばブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。自分の作品を評価されるととても嬉しくモチベーションアップです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 売り飛ばすつもりなら好都合じゃん主人公が買っちゃえよ
[一言] でもさぁ、あんたらがいくらやっても倒せない敵だったし、そもそも、ゴーレムが防いでいる箇所すら探せないんじゃあ、この弓師が居なかったら、あんたら死んでたんだよ? この弓師、冒険者ランクでいえ…
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